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原発安全神話を妄信した日本 「放射能閉じ込める技術」ようやく一歩

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原発安全神話を妄信した日本 「放射能閉じ込める技術」ようやく一歩

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フィルター付きベント設備の対応状況 【原発再考・安全を極める(2)】

 家庭用冷蔵庫ほどの大きさの銀色の箱は、鈍く光っていた。

 関西電力高浜原子力発電所(福井県高浜町)の原子炉格納容器内に、この金属製の箱が運びこまれたのは昨年末のこと。3、4号機に各5台ずつ計10台にのぼった。

 箱の正体は…。水素爆発を防げ

 「原発の安全性を高める大きな一歩だ」。納入元であるフランスの原子力大手アレバ社の首脳はこう強調した。箱の正体は「静的触媒式水素再結合装置」。格納容器内に水素が発生した際、触媒によって水素と酸素を反応させ、水に換えて水素を減らし、過酷事故での爆発を電源なしで防ぐ装置で、国内導入第1号となった。

 アレバは原発大国フランスを支える国策企業。原子力産業の広い裾野をカバーし、各分野で世界上位のシェアを誇る。米スリーマイル島原発や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の後処理に携わり、福島第1原発事故後、高濃度汚染水処理の支援にもあたった。

 原発の安全神話が崩壊した東京電力福島第1原発事故から2年あまり。炉心の損傷で発生した水素が格納容器から原子炉建屋に漏れ出して引き起こした爆発は世界中を震撼(しんかん)させた。関電が世界最大手のアレバと組むのも自然な流れだ。

 水素は非常に燃えやすい気体。石油精製の際や化学原料などとして使う水素関連メーカーでは「漏れた水素はすぐに放出しろ」というのが鉄則。水素爆発が起きれば大惨事は免れない原発で、これまで水素対策がおろそかになっていたのは安全神話の下、「それはありえない」と目を背けていたからにほかならない。

 全電源喪失でも排気設備の運転可能

 日本の原発は沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)に分類される。事故を起した東電福島原発はBWRだが、関電の原発はすべてPWRで安全対策も同じではない。

 PWRは、BWRに比べて格納容器の容積が大きいため、大阪大の宮崎慶次名誉教授(原子力工学)は「水素などが発生しても、圧力が上昇して爆発事故が発生する恐れは小さい」と説明する。

 それでも関電は、原子炉内から放射能が放出されるという最悪ケースを回避するため、アレバ社の水素再結合装置を導入。その上で水素が発生した際、「全電源を喪失しても、非常用発電装置から給電して排気設備を運転できるようにしている」(関電幹部)。

 放射性物質を1000分の1に

 「福島の事故では早期にベント(排気)すればよかった」。宮崎氏は強い口調でこう指摘する。

 原子力規制委員会が月内にも公表する原発の新規制基準では、フィルター付きベント設備の導入が義務づけられる。事故当時はフィルターがなかったため、宮崎氏は「放射性物質放出の恐れからベントがためらわれた。それならば、蒸気に含まれた放射性物質を取り除くフィルター付きベント設備も必要になる」と新基準に一定の理解を示す。

 東電は、1月から柏崎刈羽原発7号機(新潟県柏崎市、刈羽村)、2月から同1号機でフィルター付きベント設備の基礎工事を開始。原子炉建屋の外に設けられたタンクには水が貯蔵され、これが「フィルター」の役割を担う。

 格納容器から出た蒸気をタンク内の水で濾過(ろか)すれば、セシウムやヨウ素など放射性物質の量を千分の1まで減らせるという。

 「福島事故の当事者として教訓を生かし、対策を進めている。事故を起さないのが大前提だが、万が一の場合に備える」。東電幹部はこう強調する。

 とはいえ、日本でフィルター付きベント設備を導入している原発はゼロ。これに対し、27年前のチェルノブイリ事故で放射性物質が降り注いだ欧州各国では設置を義務付けたため、大半の原発が導入済みだ。

 原発の安全神話を妄信していた日本は、リスクを前提にした新規制基準でようやくスタート地点に立ったことになる。

 【沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)】ともに蒸気を発生させて発電タービンを回すが、BWRは原子炉内の水を沸騰させて発生した蒸気を直接タービンに送る。一方、PWRは原子炉で圧力をかけて高温・高圧にした水を熱交換器に送り、別の水を蒸気にしてタービンを回す。BWRはPWRに比べ構造が簡単だが、タービンなども放射能を帯びた蒸気に直接触れるため、広範囲の安全管理が必要。

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