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韓国ポスコ、日本の牙城に挑む 自動車向け製造設備、高級品で技術力向上

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韓国ポスコ、日本の牙城に挑む 自動車向け製造設備、高級品で技術力向上

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韓国からの普通鋼鋼材輸入量  韓国の大手鉄鋼メーカー、ポスコが、日本の自動車部品向け製品市場に、第一歩を踏み出す。日本の金属加工業者2社と共同出資した新会社の製造設備が、来年1月に稼働する予定だ。日本の自動車部品向け市場は、日本の鉄鋼メーカーの牙城。安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円安も、ポスコには逆風となる。しかし、日本市場挑戦の真の狙いは技術力の向上。将来的には日本勢が強い高級品分野でシェア奪取を狙う。

 ポスコの日本法人、ポスコジャパンが、金属加工メーカーのモリ工業とマルヤス工業とともに、合弁で自動車用鋼管の製造・販売子会社「PMM PIPE」(三重県四日市市)設立を発表したのが今年2月。鉄製品の簡単な加工をしている四日市工場に、新たに自動車用鋼管の製造設備を建設する計画だ。

 ポスコは新日鉄住金と、鉄鋼を鋳造した「スラブ」と呼ばれる半製品などの相互供給を行っているが、日本での本格的な製造拠点の設置は初めて。韓国で製造した鋼板を輸入し、日本で加工する。

 ステンレスパイプなどを手がけるモリ工業は新会社に技術者や作業者を派遣する。モリ工業では「自動車向けの高品質なパイプなどは、大手が強く、なかなか参入できなかった」と今回のポスコとの提携を素直に喜ぶ。自社の持つ技術力をポスコに提供するとともに、量産に向け、ポスコからも技術やノウハウの習得を目指す。

 自動車向け食い込む

 日本の鉄鋼メーカーは、自動車用鋼板や自動車向け部品の加工で、顧客となる自動車メーカーの求める仕様に合わせ、細かい形状の部品でも高い技術力で製品化してきた。それが日本車の高品質につながっている。

 国内鉄鋼大手の関係者は、年産1万トンを見込むポスコの新製造拠点について「対策を検討する話ではない」と相手にしない。別の関係者も「まずはお手並み拝見」と余裕の構えだ。

 ポスコにとっては、日本の自動車メーカーへ食い込む足がかりを何としても築きたいところ。だが、日本の鉄鋼メーカーの製品とポスコの製品を比べると、汎用(はんよう)品では差がないとされるが、「高級品ではまだ追いついていないのが実情」(国内大手鉄鋼関係者)だ。

 複雑な形状の部品や高張力鋼板(ハイテン)などは、日本のメーカーとの差がある。「たとえ作れたとしても、品質にばらつきが出る。仕様から大きく外れると、メーカーでは恐ろしくて使えない」(同)。

 修正には、高炉からすべての工程で技術差を埋める必要があるほか、マンパワーや品質管理の問題もあり、すぐに日本市場で成功する可能性は低い。

 アベノミクスによる超円高是正で「韓国からの輸入鋼材は大きな脅威にはならなくなった」との声も多い。これまではウォン安で、鉄鋼業界では「韓国からの輸入鋼材の方が、1トン当たりのコストが1万円安い」とまで言われていたが、その優位性は吹き飛んだとみられている。

 食い込みの容易でない自動車部品に、価格での優位性を失ったポスコ。だが、ポスコジャパンは「2月に発表した通り」と予定変更は考えていない。

 狙うのは「あくまでもその先。日本車メーカーに対する信頼を勝ち取ることにほかならない」(SMBC日興証券の原田一裕シニアアナリスト)からだ。

 中長期的にアピール

 成功への道が険しい日本市場で、あえて製造拠点を新設したのは、日本車メーカーに対し「どの程度の自動車部品向けの鋼管やパイプを作れるかということを示す必要がある」(原田氏)ため。

 日本で技術力を吸収し、中長期的に日本の鉄鋼大手と遜色のない高品質な製品を作れることをアピールするには、日本での拠点設置が必要だった。

 アジアなど新興国で日本車メーカーが生産を増やしているが、韓国の鉄鋼メーカーの製品使用はごく一部にとどまる。

 原田氏は「高いレベルの製品づくりができることを示せば、日本車メーカーが今後、アジアなどで製造拠点を新たに展開する際に、(ポスコにも)食い込む余地が出てくる」と説明する。

 韓国メーカーは汎用品を中心に猛烈な勢いでシェアを拡大、日本勢を追い詰めた。技術力では負けるわけにはいかない日本勢だが、ポスコの日本進出を軽く見過ぎれば、足をすくわれる可能性もある。(兼松康)

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