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森永乳業、技術力示すチャンス ビフィズス菌で海外事業を本格化

ニュースカテゴリ:企業の経営

森永乳業、技術力示すチャンス ビフィズス菌で海外事業を本格化

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 森永乳業が、海外事業を本格化させる。人口減少などで乳製品の国内市場が縮小する中、売り上げに占める海外比率を、現在の3%から大幅に引き上げる方針。乳製品そのものの輸出は難しいが、新興国を含め世界的に健康志向が高まる中、免疫力を高める効果が期待される「ビフィズス菌」を核とした技術力を武器に、現地企業などとの提携により原料販売などを拡大したい考えだ。

 味と機能性両立

 仕事納めが押し迫った昨年12月18日。神奈川県座間市にある森永乳業の食品基盤研究所に、突如、“朗報”が舞い込んできた。それは、食品技術分野で世界的にも権威のある「農芸化学技術賞」を、同社のビフィズス菌の研究・開発技術が受賞したという知らせだった。

 「これは海外に森永乳業の技術力を示すチャンスだ」。技術開発の責任者である生物機能研究部の清水金忠部長は、受賞時の興奮をそう振り返り、世界に通用する技術の確立に確かな手応えを感じたという。

 受賞したのは、2007年から同社の「ビヒダスヨーグルト」などに応用されている「高菌数、高生残性ビフィズス菌含有ヨーグルト製造方法の技術」。同社が1969年に発見したビフィズス菌BB536を生きたまま製品中に残す比率を、従来に比べ2倍近く高めるという画期的なものだ。

 ビフィズス菌は酸や酸素に弱い。このため、酸味のあるフルーツ入りやドリンクタイプのヨーグルトでは賞味期限まで菌を生存させることが大きな課題だった。それを「ラクトコッカス・ラクティス」と呼ばれる乳酸菌と混合発酵させることで、ビフィズス菌の増殖を促進し、生存性を高めることに成功した。

 従来、ビフィズス菌入りの商品はさまざまな種類の味を実現することができなかったが、新技術でおいしさと機能性を両立させることを可能とした。現在では同社のヨーグルトなど13の商品に使用されている。

 この技術は海外でも特許を取得しており、清水部長は「ビフィズス菌の原料販売だけでなく、技術提供などのビジネスモデルも視野に入る」と強調。国内外で高まる健康志向を追い風に、「海外展開拡大の足がかりにつながる」と力を込める。

 需要右肩上がり

 同社が活気づくのは、免疫活性化の機能が解明され始めているビフィズス菌の需要増大が続いているためだ。国内では昨年度の同社の売上高で、牛乳類が前年度比で3.7%減少する一方、ビフィズス菌や乳酸菌を含んだヨーグルトは3.5%増加した。ビフィズス菌や乳酸菌の原料市場も好調で、国内で年率5%ペースで増えている。

 海外市場でも注目は高まるばかりだ。特に中国では乳酸菌とビフィズス菌を合わせた原料市場規模が日本を上回る4000億円に達したもようだ。

 ビフィズス菌や乳酸菌の技術では日本企業が先行。食品で世界的大手の仏ダノンがヤクルト買収を画策したのも、成長が見込まれる乳酸菌分野での高い技術力の取り込みを狙ったとされている。

 今回の受賞もあり、森永乳業にも世界から技術に関する問い合わせが相次いでいるという。今後、30カ国程度に売り込みをかける計画で、ビフィズス菌の生産を増強する方針。子会社の森永北陸乳業(福井市)福井工場を今年9月に休止した上で改修し、新たにビフィズス菌原料の生産拠点とする。その上で現地の食品・飲料メーカーに原料供給するほか、共同での製品開発を目指す。

 商品差別化、多様な販売ルート模索

 ビフィズス菌の研究開発力に定評のある森永乳業だが、それを業績拡大に結びつけるには課題も残る。

 「ビフィズス菌と乳酸菌の違いをほとんどの消費者に正しく理解されていない」。そう指摘するのは、第2開発部の宮地一裕部長。「作り手側が価値ある技術と認識しても、消費者がその価値を理解できないことは多い」と話す。

 ビフィズス菌の整腸作用効果などは乳酸菌より高く、広告でもPRしているが、消費者にはなかなか浸透していない。

 だが、ビフィズス菌や乳酸菌が、インフルエンザの予防に役立つという研究結果を効果的にアピールしたことで、競合他社の一部商品が爆発的に売れるという事例も出てきた。

 海外では国内ほど表示規制は厳しくなく、育児用ミルクへのビフィズス菌の使用も可能。競合商品との差別化とともに、国内に比べ販売ルートを多様化できる可能性もある。今回の受賞実績を武器に、ビフィズス菌の機能性の高さを啓蒙(けいもう)する販促活動も各国で展開する予定だ。

 森永乳業は、2020年度までに海外売上高比率を現在の3倍超となる10%超にする目標を掲げる。海外市場の開拓には、技術を多様な商品に応用する研究開発力と、海外市場を見極めるマーケティング力、PR戦略の一層の強化が不可欠といえそうだ。(西村利也)

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