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「がんばれ」だけでは実感できぬ 最終利益の半分を社員で山分け

ニュースカテゴリ:企業の経営

「がんばれ」だけでは実感できぬ 最終利益の半分を社員で山分け

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若い社員が生き生きと仕事に取り組むアシスト・ジャパンの事務所  デフレ脱却に取り組む安倍晋三政権が3月の春闘で大企業に賃上げ要求を行ったのは記憶に新しい。だが、「アベノミクス」の2年も前から、会社の利益を内部留保に回さず、利益の半分を社員で山分けしている中小企業がある。

 大阪市中央区のイベント系人材派遣会社、アシスト・ジャパン=井上将豪社長(32)=だ。全社員にコスト意識を徹底させ、努力が成果に直結することを実感してもらっているという。

 ガンバレだけではついてこない

 非上場のアシスト・ジャパンは2年前から、毎月の損益計算書(P/L)を全社員に公開。社員は、自社の売上高から固定費などの費用、利益まで細かく把握できるようになった。

 井上社長は「がんばれ、がんばれと言っても、実利がなければ社員はついてこない。P/Lを開示することで、なぜがんばらなければならないかを知ってもらいたかった」と話す。

 そして、最終利益の半分を半期ごとに社員全員に分配する。平成25年3月期は社員10人に計400万円程度を支給した。効果はてきめんで、節約意識が高まったほか、会議で「あの費目は何に支出したのか」などと経費の使い道や金額に質問が出るなど、利益を生み出すことに社員が敏感になったという。

 ただ、「ゆくゆくは財務基盤を安定させるため内部留保が必要になるので、分配割合を3分の1に下げる予定」(井上社長)という。

 リーマンでの会社刷新が契機

 井上社長がこうした利益の分配を始めたのは、自ら設立したアシスト・ジャパンが経営危機に直面したのがきっかけだ。17年に創業し、「もうけることだけを念頭に経営していた」(井上社長)が、20年秋のリーマン・ショックで経営環境は一変。社内はバラバラになり、当時契約していた経営コンサルタントから「思いをともにする人だけを採用せよ」と助言された。

 社員はすべて入れ替えとなり、「若者にやりがいのある仕事を提供する」というを理念を徹底。新卒採用を開始し、家族的経営にかじを切った。

 井上社長は「派遣業界はすべてクライアント(派遣先企業)目線。人がやりたがらない仕事は簡単に取れるが、当社は働く人の目線で営業する」と言い切る。

 若者の登録を促す効果も

 利益の分配とP/Lの全社員への公開は、顧問税理士からは「大企業ならやっているところはあるが、経営の安定にはマイナス」と反対されたという。しかし井上社長は「理由なき『がんばれ』は通用しない」として導入に踏み切った。

 この結果、社員の士気は上がり、「若者にやりがいのある仕事を提供する」という理念が成果として徐々に現れてきた。

 同社に登録してくる若者の75%は、登録経験がある友人からの紹介。18~25歳くらいの学生やアルバイトがイベントスタッフとして働くケースが多く、彼らが「友達に自慢できる仕事」に出会っている証ともいえる。

 今年4月には東京支社も新設し、業容拡大を図る。根拠のある『がんばれ』なら、現代の若者も実際にがんばれるのかもしれない。(南昇平)

◇会社データ◇

本社=大阪市中央区南船場2-12-5

設立=平成17年11月

資本金=2500万円

売上高=2億2千万円(25年3月期)

従業員数=13人(25年4月現在)

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