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【ITビジネス最前線】米ヤフー、小規模買収重ねイメチェン

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【ITビジネス最前線】米ヤフー、小規模買収重ねイメチェン

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 ■サービス再構築へ「スタートアップの墓場」払拭

 昨年、米ヤフーの最高経営責任者(CEO)に就任してからというもの、マリッサ・メイヤー氏は小規模の企業買収を重ねてきた。同社が2005年に取り組んだ積極的な買収に似ているようにも見えるが、マーケットはその違いを見極めようとしている。今回の相次ぐ買収には二重の目的がある。まず、若いエンジニアを獲得することによりヤフーをもう一度、「クール」によみがえらせること、そして同社の提供サービスをゆるやかに再構築することだ。

 つまり、目的はヤフーという企業体そのものを内側から直接作り直すことではない。買収は、企業文化を再定義するにはふさわしくない手法だ。同社が買収している企業の規模はどれも従業員10人前後。最近買収した8社を総合しても、世界中に広がる1万1000人の従業員によって作り上げられたヤフー文化の中で、新しい才能はそこに印象を残すのもやっとというところだ。

 しかし、買収によって、人々が同社を見る目は変わる。買収されるサービスのユーザー、つまり消費者による効果ではない。それは、ヤフーの成長に欠かせない新しいエンジニアの手による。ヤフーは、ユーザーの多い消費者向けのスタートアップを手に入れるからではなく、新戦力によって技術革新を飛躍的に前進させることによって、必要な成長を達成する。開発に数年を要し、小規模買収よりも断然コストのかかる技術を瞬時にもたらすもの、それが企業買収である。

 ◆青田買いで成長の糧

 さきにも述べたとおり、ヤフーは05年にも、後に売却されたソーシャルブックマーキングのdel.icio.us(デリシャス)や写真共有サービスのFlickr(フリッカー)を獲得し、カッコよさを取り戻そうとした。インスタグラムや、フェイスブック上の写真共有がこれほど急速に伸びたことから見て、フリッカーはヤフーが大きな機会を逃した例と考えられている。実際、この年に買収された消費者向けサービスは、どれもヤフーの同年の利益に大きな影響を与えることはなかった。

 当時の買収の意図は、そのものの力だけで成功できるようなサービスを探し、ヤフー傘下に収めることで、ヤフーをユーザーが使いたいサービスを集めたポータルサイトに仕立てあげることだった。これに対し、メイヤーCEOの指揮する今回の一連の買収は、すでに同社が持っているサービスにちょっとした改良を加えるためのもののようだ。

 そこで、いまヤフーは新しい企業を買収すると、直ちにそのサービスを同社の製品ラインアップに組み込み始める。以前買収された企業とは違って、買収の時点では、マーケットからの注目も、消費者からの人気も集めていないスタートアップがほとんどだ。

 ◆大きな仕事への布石

 メイヤーCEOの行った買収のなかで議論の的になったのが、ニュース記事を350ワードに要約するモバイルアプリSummly(サムリー)の買収だ。サムリーは、ロンドン在住の17歳の少年が200万ドル(約2億322万円)未満の初期投資を得て生み出したサービスで、ヤフーは今年3月、これに3000万ドルを支払ったとされる。創業者が若く、7人の従業員しか持たず、消費者をひきつけてもこなかったスタートアップに、同社がなぜこれほどの額を提示したのかと疑問を投げかける人もいるが、メイヤーCEOの発したメッセージは明らかだ。モバイル戦略は要であり、ニュースはヤフーの重大な柱の一つだ。この部門でヤフーの現在のラインアップに欠けている技術の隙間を埋めるために、メイヤーCEOは出費を惜しまないということだろう。買収後すぐにサムリーのサービスは停止され、4週間後には、その技術がヤフーの製品に組み込まれていた。

 ただ、収益ゼロの小規模スタートアップの買収は、株式時価総額290億ドルという同社に重大な影響を与えることにはならない。これらの買収とサービスの組み込みは、同社のサービスに新しいものを加えて充実させることで、ユーザーを飽きさせず、時価総額を維持するためのものと考えられる。

 また、ヤフーはイメージ上の問題を抱えている。2005年にフリッカーやデリシャスが買収されたとき、これらのスタートアップは大変人気があり、創業者らはスタートアップ・コミュニティーで発言力を持つメンバーと密接に結び付いた「有力者」であった。買収されてからの彼らの経験はひどいもので、創業者はどちらも官僚主義的な企業文化にいらだちを募らせ、ヤフーとの契約満了後すぐさま同社を去っている。

 メイヤーCEOの新ヤフー文化圏に新しいスタートアップを招き入れることに成功すれば、それは彼女にとって、「ヤフーはスタートアップの墓場であり、エンジニアの過小評価される職場だ」というネガティブな見方を払拭するチャンスになる。これによって、ヤフーはグーグルやフェイスブックとのより規模の大きい買収合戦にずっと楽に臨めるだろう。市場の構図を変えるような買収が、ヤフーには必要になる。例えば、グーグルが獲得したネット広告のDoubleclick(ダブルクリック)、YouTube(ユーチューブ)、そしてほとんどの旅行代理サービスが採用するITAソフトウェアのような種類と規模の買収がヤフーの未来を本当の意味で変えるためには欠かせない。

 ◆雇われCEOの狙い

 メイヤーCEOがこの線で将来を見据えていることを匂わせる動きがある。最近、ヤフーはフランス発の動画共有サービスDailyMotion(デイリーモーション)の獲得に失敗したもようだ。彼女が次に狙うのは、プレミアムコンテンツ動画を配信するHulu(フールー)との噂もある。買収とサービスの統合がうまくいけば、どちらもヤフーの時価総額に直接大きな影響を与えそうな話だ。いずれにしても、近く、こういった種類の企業買収がヤフーによって行われることが予想される。

 遅くとも2年以内というところだろうか。買収成功後、サービスの統合が同社の収支にどれほど貢献できるか示すための時間はメイヤーCEOにはあまりない。グーグルやフェイスブックと異なり、ヤフーを率いるメイヤーCEOは外部から招聘(しょうへい)された、雇われCEOなのだ。つまり、メイヤーCEOの後ろ盾となっているのは、短期的な展望しか持たない外部の強い株主ということになる。

 短期的に見れば、メイヤーCEOが取り組むべき課題の一つとして、企業文化そのものを改善することが挙げられる。数千万ドル規模の買収をうまく受け入れて自社のものとすることができなければ、数十億ドル規模の買収が成功するはずがない。その失敗がメイヤーCEOの追放を意味するのはもちろんだが、成功すれば企業再建の専門家としての伝説に新たな一ページが刻まれることになる。

 これまでにメイヤーCEOが積み重ねてきた小規模の買収は、彼女が狙う、より規模の大きい買収へのステップと考えられるだろう。敗北者が大好きなシリコンバレーにあって、メイヤーCEOにはこなさなければならない仕事が山のようにある。必要な時間が株主から与えられれば成功の可能性はある。幸運を祈ろう。

 文:イジョビ・ヌウェア

 訳:堀まどか

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【プロフィル】Ejovi Nuwere

 イジョビ・ヌウェア ニューヨーク生まれ。全米最大の無線LAN共有サービスFON創業者のひとり。ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出される。2008年に日本でオンラインマーケティングに特化したランドラッシュグループ株式会社を設立し、現最高経営責任者(CEO)。

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