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ドコモ、奥の手は“開放戦略” 通販など新規事業強化へ
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NTTドコモの新事業の売上高 NTTドコモが新規事業の強化に乗り出している。本業の携帯電話の普及率が100%を超え、市場そのものに飽和感が強まっているためだ。しかも、事業者間の料金競争が激しくなっており、ARPU(契約者1人の月間収入)の上昇も見込めない。約6000万を超える顧客基盤を生かし、通信以外の事業を広げ、新たな収益源の育成を急ぐ。
「おいしい有機野菜をご自宅にお届けします」。首都圏のとあるドコモショップで、スマートフォン(高機能携帯電話)とともに店員が来店客に勧めたのは、有機野菜や無添加食品の通販事業を手がける「らでぃっしゅぼーや」のサービスだ。
ドコモは昨年3月に同社を買収。同11月には、首都圏のドコモショップ約40店舗で同サービス会員契約の取次業務を試験的に始めた。好評だったため、今年4月には関東・甲信越を中心に全国の約900店舗に拡大。さらに、10月には全国の約2400店舗に広げる。
昨年12月にはドコモのネット通販サービス「dショッピング」開始と同時に有機野菜などの販売を開始。当時約60品目だった取扱品目は、現在約170品目にまで拡大した。月間の売上高は、サービス開始当初と比べて2.5倍に増えた。今月17日には、らでぃっしゅぼーやの社長にドコモの井手明子執行役員を送り込んだ。
「将来は米アマゾンのようになりたい」。昨年7月、ドコモの加藤薫社長がフジサンケイビジネスアイのインタビューにそう答えたように、新規事業の中でも特にネット通販に力を入れている。
2009年のテレビ通販「オークローンマーケティング」を皮切りに、らでぃっしゅぼーや、昨年6月のCD販売「タワーレコード」、今年1月末のファッション通販サイト「マガシーク」と企業買収も相次ぐ。買収だけでなく、事業提携やベンチャー企業への出資なども進める。
「ドコモの強みは、何といっても約6000万件の顧客基盤や約2400店の販売店」(吉沢和弘取締役常務執行役員)。ネット通販の市場規模は今後も急速な伸びが予想されるが、事業者も乱立し、競争は激しい。ドコモの巨大な顧客基盤は、通販事業者には魅力的に映る。
こうした事業者の求心力となって事業の急速な拡大を狙うドコモ。現在、dショッピングで扱う商品数は約10万点と、米アマゾンが日本で扱う商品数の約5000万点、楽天の1億点超に遠く及ばないが、12年度に約1150億円だったネット通販を含む電子商取引(コマース)分野の売り上げを15年度までに約2.6倍の3000億円以上に増やすことを目指す。
計画達成に向け、奥の手もある。現在、ゲームサイト「dゲーム」ではドコモユーザーだけでなくKDDIやソフトバンクなど他社のスマホユーザーも利用できるが、これをdショッピングにも拡大する“開放戦略”だ。
携帯電話会社の収益の源泉は回線契約。ネットサービスは回線契約をとるための差別化戦略として位置づけられてきた。特にドコモは独自の「iモード」サービスが、契約者数の増加に貢献してきた。
しかし、アマゾンや楽天に本気で挑戦する場合、6000万の回線契約という枠が、逆に規模拡大の障害ともなりかねない。
楽天やアマゾンなどのライバルは世界のネット利用者すべてが顧客。ドコモとしても、「回線顧客に依存しない顧客基盤の構築を目指す」(阿佐美弘恭常務執行役員)上で開放戦略は避けられない。調査会社MM総研の横田英明取締役も「挑戦的な取り組みだ」と評価する。
ただ懸念もある。ドコモのサービスを他の携帯事業者のユーザーが利用できれば、ドコモユーザーのメリットはなくなり、ドコモの顧客が他社へ流出する可能性も否めない。
かつてドコモは、iモードを世界に広げようと、海外の携帯電話会社に相次ぎ出資したが、結果的に失敗した経緯がある。
だが、スマホやタブレット端末で、同じ失敗は許されない。
ドコモは2011年11月に公表した中期経営ビジョンで、15年度の新事業の売上高を11年度比約2.5倍の1兆円以上とする目標を掲げた。新事業の対象は、コマースを中心に、「メディア・コンテンツ」「金融・決済」「メディカル・ヘルスケア」などの8分野だ。
今年7月1日には、この8分野の関連サービスを担当する部署を集約した「スマートライフビジネス本部」を新設する。総力をあげて取り組む新たなサービスの成否は、ドコモが、その巨大な顧客基盤を活用しつつも、それにとらわれない自由な事業展開ができるかにかかっている。(松元洋平)