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【ITビジネス最前線】交通情報ナビアプリ「Waze」

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【ITビジネス最前線】交通情報ナビアプリ「Waze」

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 ■買収企業にも魅力の地図機能

 Waze(ウェイズ http://www.waze.com)は、ナビゲーションアプリを開発したイスラエル発のスタートアップだ。10億ドル以上とも言われる買収額をめぐってフェイスブックやグーグルの間で買収交渉が進むとうわさされ話題になっている。

 創業者の一人、エフード・シャブタイ氏は、自身や友達がスピード違反の切符をきられないようにするため、コミュニティーアプリを作りたいと考え、2006年にイスラエルでウェイズの基となるオープンソースプロジェクトを開始した。

 現在、ウェイズのサービスはGPS(衛星利用測位システム)を利用したソーシャルナビゲーションアプリとして4000万以上のユーザー数を誇る。ナビの機能に加えて、ドライバーが他のドライバーに向けて情報を更新することができるのが特徴だ。例えば、交通事故や警察による取り締まり、道路工事による交通規制などがあれば、それに気付いたドライバーが、その地域のウェイズユーザーに向けて通知を送ることができる。ウェイズの提供する道路交通情報は、100%ユーザーによって生み出されるコンテンツだ。

 ◆みんなで作る情報

 ウェイズは、自然にネットワークを形成する効果を持っている。それはSkypeの持つネットワーク性に似ている。Skypeの無料通話機能を初めて知った人は「これはいい」と思い、この機能を使って誰かと話せればもっといいのにと考えるだろう。そして、友達や家族にもSkypeをダウンロードするよう勧める。

 同じように、ウェイズをダウンロードした人は、マイカー通勤時にサービスを利用してみて「友達がみんな使うようになれば、もっと役に立つ情報が得られそうだ」と感じる。会社に着いたら、通勤に車を利用している人みんなにアプリを紹介し、ダウンロードするよう促すだろう。帰宅すれば、奥さんにもアプリを使ってみるよう頼むはずだ。

 もちろんウェイズは、アメリカのように車の運転が日常生活に深く結びついた文化圏においてより有益なサービスだ。発祥の地、イスラエルも車社会のようだ。特に街がコンパクトで、ほとんどの友達がウェイズを利用していれば、市内の道路で何が起こっているかを反映したかなり詳しい地図ができあがる。

 このマッピングアプリはユーザーの情報によって成り立っていることから、ウェイズにはユーザーが飽きずに利用し続けられるようゲーム的要素が取り入れられている。まだ地図が作成されていない地域を走れば、ユーザーはポイントを獲得することができる。地図の上では道路に置かれた仮想アイテムをちょうどパックマンのように食べ進む様子が表示される。ウェイズのコミュニティーでは、交通情報のほかにもユーザーがガソリンの価格を報告し合うことにより、運転中にその界隈(かいわい)で最低価格のガソリンスタンドをすぐに見つけられるといった機能も充実している。

 ◆サービスの足がかり

 ウェイズが大手インターネット企業にとって価値の高い商品である理由は、モバイル上の地図機能がすべてのモバイルサービスの足がかりと考えられるからだ。例えばフェイスブックがウェイズを買収すれば、それによってフェイスブックはアップル、グーグル、マイクロソフトなどすでに独自の地図サービスを提供する企業と同じ位置に立てる。彼らはみな独自OS(オペレーティングシステム)を持っている。フェイスブックは本当に独自のOSを打ち出すのだろうか。それは定かでないが、もしそれが本当なら、ウェイズのようなサービスが必要になるだろう。

 フェイスブックは先月、アンドロイド端末用のモバイルポータルアプリ「フェイスブックホーム」を発表したが、ウェイズをフェイスブックホームに組み込めば、ユーザーをグーグルマップに移動させる必要がなくなる。現状では地図機能にアクセスしようとすれば、ユーザーはフェイスブックのエコシステムをいったん離れなければならない。これはアプリ内でのエンゲージメントが広告販売の主要な指標となる市場において、うまい戦略とはいえない。

 それほど切実ではないとしても、フェイスブックは単にユーザーのエンゲージメント度合いが高いアプリを獲得して、いずれそれを収益化したいと考えているかもしれない。位置情報は地域別広告にとって非常に重要だ。地域ごとに限定した広告はまだ誰も成功できていない未開のマーケティングプラットホームだと言ってもよい。

 ◆10億ドルの価値

 と、ここまで述べたが、これだけではフェイスブックのウェイズ買収を正当化する理由としては足りないと思う。フェイスブックが写真共有アプリのインスタグラムを買収したとき、その機能はフェイスブックのユーザー基盤と既存の製品ラインアップに簡単に組み込むことができるものだった。その上、インスタグラムは放っておけばソーシャルネットワークとして競合することが見えていた、つまりフェイスブックにとって脅威だったのだ。

 もし、それでもフェイスブックがウェイズを買収するとすれば、携帯キャリアにサービスをパッケージとして提供することが考えられるだろうか。フェイスブックアプリとウェイズの地図機能をまとめて追加すれば、地図機能を無料で利用できるといった内容のものだ。しかし、私はそれよりはグーグルがウェイズを買収するというシナリオの方がずっと意味が通ると考えている。グーグルはデータを扱う企業であり、すでに膨大な地図データを収益に換えてきた経験を持つ。それに、グーグルにとって10億ドルは大した金額ではない。

 ウェイズとフェイスブックの交渉が難航しているのは、主要チームをイスラエルからカリフォルニアに移すというフェイスブックの要求に、ウェイズが難色を示しているからだとうわさされている。アップルも昨年、ウェイズと買収交渉に入ったが決裂した。マイクロソフトはウェイズに投資しているが、買収交渉にはかかわっていないようだ。ウェイズは便利でクールなアプリだが、交渉力はそれほど持ち合わせていないように思われる。グーグルとフェイスブックとの間で入札戦争が勃発(ぼっぱつ)し、そのどちらかに条件をのませる事に望みをかけているといったところだろうか。ウェイズが自らの力だけで真に10億ドルの評価額を付けるまでには、かなり長い時間がかかることが予想されるからだ。

 とはいえ、シリコンバレーで言われるように、スタートアップは1000億ドルまで価値の高まる可能性が1%でもあれば、すでにおよそ10億ドルの価値がある。注目に値するスタートアップであることは間違いない。

 文:イジョビ・ヌウェア

 訳:堀まどか

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【プロフィル】Ejovi Nuwere

 イジョビ・ヌウェア ニューヨーク生まれ。全米最大の無線LAN共有サービスFON創業者のひとり。ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出される。2008年に日本でオンラインマーケティングに特化したランドラッシュグループ株式会社を設立し、現最高経営責任者(CEO)。

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