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「3Dプリンター」広がる期待と不安 “夢の工作機械”下請けに危機感

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「3Dプリンター」広がる期待と不安 “夢の工作機械”下請けに危機感

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3Dプリンターの国内需要  3次元(3D)の設計データを基に印刷のような方法で立体物を造形する「3Dプリンター」を活用し、開発工程の革新や新規ビジネスの開拓を模索する取り組みが中堅・中小メーカーにも広がり始めた。

 3Dプリンターを利用してアイデアを形にできるベンチャー向けの施設が開設されるなど支援態勢も動き出している。ただ、3Dプリンターは下請け企業の仕事を奪ってしまう恐れもあり、もろ刃の剣ともいえる存在。「夢の工作機械」を経営に生かす挑戦は試行錯誤を重ねながら、日に日に熱を帯びていきそうだ。

 プリンター販売好調

 「新製品の開発ペースを現在の約4年に1回から2年に1回に縮めることで、新しいライフスタイルを提案するスピードを早め、競争で優位に立ちたい」

 ステンレス製魔法瓶メーカー、サーモス(東京都港区)の広瀬将人商品企画課マネージャーは3Dプリンターの効果に大きな期待を寄せる。

 同社が現在扱っている魔法瓶は約190機種に上る。製品開発を支える原動力が、米ストラタシス製の3Dプリンター3台だ。導入したばかりの2006年に発売した新製品は年間30機種程度だったが、3Dプリンターを使いこなすことで12年度には1.5倍の45機種ほどに増えた。

 製品開発では、企画した複数のアイデアを1つに絞った上で設計作業に入り、金型を発注する。魔法瓶の飲み口が設計図通りに動くかを確かめるために欠かせない「プロトモデル」を試作する場合、3Dプリンターの導入前は新潟県や中国の協力工場に依頼し、発注から仕上がりまで約2週間かかっていた。

 導入後は2日程度で試作ができるようになり、工程は大幅に短縮。さらに社内で「現物に近い立体造形」にしてアイデアを確かめ、具体的な議論を膨らませることができるため、企画・設計の作業がスムーズに進むようになった。

 デザインなどの情報が外部に漏れるリスクを軽減できるメリットも大きい。

 3Dプリンターに期待をかける企業は、東京都大田区にもある。飲料用ペットボトルのふたや食用油の容器などに使うプラスチック製品を、射出成型で製造する睦(むつみ)化工だ。

 プラスチック製品の3Dプリンターによる試作を支援するサービスを新規事業の柱に位置づけ、2月には米マイクロファクトリー製で廉価版タイプ(51万4500円)の3Dプリンターの販売にも乗り出した。

 リーマン・ショックや国内メーカーの競争力低下の影響で売上高が一時期落ち込んだものの、古川亮一社長は「3Dプリンターの関連事業を伸ばし、売上高を16年度には13年度見込みに比べて約2億円増の6億円にしたい」と意気込む。

 これまでの経験を土台に、実用に耐える多様な素材の工業製品を、3Dプリンターを活用して少量生産する構想も温めている。

 「仕事奪われるかも」

 一方、中小メーカーの現場では不安の声も交錯する。

 「3Dプリンターに仕事が奪われないだろうか」

 「立体造形技術と既存メーカーが共存する道はあるのか」

 5月28日、東京都江東区のテレコムセンタービルにある創業支援施設「MONO(モノ)」に集まった中小企業の実務者から、こんな声が漏れた。

 3Dプリンターの活用を考えるイベントに、プラスチック製品制作・加工会社や機械工具の販売業者などから約20人が参加。関連ビジネスで実績を積む経験者と意見を交わしたが、メリットより懸念が先に立った。

 モノづくりへの活用 ソフト面の対応課題

 モノづくりの起業を総合的に支援する場として3月に開設されたMONOは、東京都立産業技術研究センターや新銀行東京とも連携。3Dプリンターなどの工作機械を備えた工作室や約130席の事務スペースを提供するほか、技術指導や製品試験、資金調達も支援する。

 ベンチャー企業支援のサムライインキュベート(東京都港区)が企画・運営で協力。担当する同社の安藤庄平氏は「施設利用者が刺激し合い、米IT企業を創業したような起業家が出てほしい」と話す。

 矢野経済研究所は、大企業を中心に浸透し始めた3Dプリンターの裾野が、中堅・中小メーカーにも拡大し、15年度には関連事業者の売上高は77億円に伸びると予測する。

 野村総合研究所上級コンサルタントの寺田知太氏は「大企業の下請けから脱却し、自ら最終製品を作って一般消費者のニーズを開拓する『自立型B to Cビジネス』に踏み出せる」と、3Dプリンターの活用を評価する。一方で「大手メーカーが3Dプリンターを使って自ら部品を作るようになれば、大企業に依存する中小メーカーの仕事が減りかねない」とも危惧する。

 また、低価格化と小型化が進む3Dプリンターへの期待は高まっているものの、製作物のCAD(コンピューター支援設計)データを3Dプリンター用に変換する作業が欠かせないなど、ソフト面の対応が十分に認識されてない面もあるという。

 寺田氏は「3Dプリンターバブル」を経て市場が求める「立体造形戦略」に収れんしていくと読む。普及が進む3Dプリンターを中堅・中小メーカーの経営に組み込む動きはまだ緒に就いたばかりだ。(臼井慎太郎)

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