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全日空の切り札「沖縄ハブ構想」 アジア貨物拡大、路線強化
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全日本空輸の航空貨物事業の売上高 ANAホールディングス(HD)傘下の全日本空輸が航空貨物の路線拡大に乗り出す。旅客機の貨物室を使った輸送に加え、貨物専用機(フレーター)による輸送を強化し、8月末には沖縄-青島(中国)などアジアで3路線を一気に加える。
だが、経済成長の続くアジアをめぐっては世界の貨物専門会社も攻勢をかけており、単に路線を増やすだけでは競争力は維持できない。そこで同時に進めているのが、那覇空港を介して国内とアジア各地を結ぶ「沖縄ハブ構想」だ。
サッカー場4面分の広さを持つ那覇空港の巨大物流施設「沖縄貨物ハブ」。夜間に全日空の中型フレーター「ボーイング767-300F」が到着し、施設に直づけされると、次々にコンテナが降ろされていく。中身の一つはヤマトホールディングス(HD)のクール宅急便。香港から通販サイトで注文された生鮮品の詰め合わせだ。
商品はここで通関手続きを済ませた後、別のフレーターに載せ替えられ、明け方に香港へ飛び立った。注文翌日には食卓に並ぶ計算だ。
ヤマトHDは、クール宅急便を1月から香港で試験的に開始し、5月には通常の宅急便もアジアの主要都市で初の翌日配送に乗り出した。それを可能にしたのが沖縄ハブだ。ヤマトHDの木川真社長は「全日空のネットワークを使えば短時間で輸送できる」と事業拡大に意欲をみせる。
全日空は、2007年に那覇の貨物ハブ化で沖縄県と合意。2年後に約78億円をかけた施設が完成した。
今月13日には、成田-沖縄線の機材を日本郵船子会社の日本貨物航空(NCA)からチャーターした大型機に変更。それによって浮いた2機を活用し、8月28日に成田-中部-沖縄と沖縄-青島、成田-広州の3路線を開設する。同時に運航を中止していた関西-台北線も再開する計画だ。那覇路線だけで17路線、全体では27路線に増えることになる。
来春には、ハノイ、ジャカルタと日本を結ぶ路線の開設を検討。工場が人件費の安い地域に移っている点を踏まえ、中国内陸部への就航も視野に入れる。
外山俊明貨物事業室副事業室長は「日本に集中していた工場がアジアに分散している。そこで成田と沖縄で網を張る」と話す。
那覇には競争力アップの条件がそろっている。まず夜間の離着陸が可能なので、輸送の注文をギリギリまで待てる。しかも夜間でも通関手続きが可能だ。さらに沖縄ハブのそばには最大8機を収容できる駐機スペースあり、効率的な荷さばきが可能と至れり尽くせりだ。そのうえ地域振興を図る沖縄県は、フレーターの着陸料と施設利用料を6分の1に減免している。
那覇空港は全日空の国内線で羽田に次いで路線が多く、東アジアの主要都市まで4時間圏内という地の利もある。
福岡の工場から17時に部品を発送する場合、羽田経由で香港に送れば羽田へは当日中に着くが、基本的に通関手続きは翌朝になる。しかも朝便しかなく、香港到着はさらに翌日の昼すぎになってしまう。一方、福岡-那覇-香港のルートなら、仮に那覇到着が遅れても夜間に通関を済ませて早朝に出発できるため、朝7時前には香港に着く。
外山副事業室長は「2週間しか商品を店に置かないファストファッションは必ず空輸する。ネット通販の客も早く入手したがる」とスピード重視の重要性を強調する。
顧客対応の迅速化などを図るため、来春にはANAHD傘下に分散する関連部署を統合し、貨物事業会社を設立する。
旅客機の貨物室を使った輸送などを含むANAHD全体の貨物事業の売上高は現在約1500億円だが、3年後には2000億円に引き上げる計画だ。現在9機のフレーターも13機程度に増やす。
だが、航空貨物分野の主導権を握る専門会社も攻勢をかけている。ドイツポストDHLは、自動車部品の輸送需要などを取り込む狙いから、4月に中部空港へ進出。さらに米シンシナティ線など2路線を開設した。米フェデックスは東アジアと北米の中継需要を取り込もうと、関西空港に大型施設を建設中だ。
日本勢は航空貨物で苦杯をなめ続けてきた。05年に佐川急便(現SGホールディングス)が設立したギャラクシーエアラインズは、4年後に会社清算を余儀なくされた。
日本航空は10年の経営破綻に伴い、フレーター輸送からの撤退に追い込まれた。NCAも13年3月期に営業赤字となるなど黒字定着を果たせていない。
円高などで低迷していた日本発の貨物需要はここにきて下げ止まりつつあるが、競争激化による輸送単価の下落は依然、激しい。全日空もフレーター事業だけでみればまだ赤字だ。沖縄ハブ構想は、航空貨物分野における日本勢の浮沈をも左右しそうだ。(井田通人)