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メガバンク、アジアでM&A攻勢 資金需要取り込みへ…成功の鍵は人材
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邦銀が関係するアジアでの主な買収や出資
アジアを舞台にこのところ、邦銀によるM&A(企業の合併・買収)が相次いでいる。高い経済成長が続くアジアの資金需要を取り込もうと、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)などのメガ銀行は、東南アジアを中心に現地銀行の買収や出資を通じて進出を加速。業容も大企業向け取引だけでなく、リテール業務と呼ばれる個人や中小企業向けの強化にも動いており、海外戦略は新たな局面を迎えようとしている。
「アジアでの成長戦略を加速する」。三菱UFJの幹部はこう意気込む。7月、傘下の三菱東京UFJ銀行がタイ第5位のアユタヤ銀行を買収する方針を発表。買収額は最大約5600億円と、邦銀によるアジアでのM&Aとしては過去最大となる。
タイ当局の承認などを得た上で、三菱東京UFJ銀はアユタヤ銀株式の51%以上の取得を目指し、11月上旬から12月にかけて株式公開買い付け(TOB)を実施。買収後には同銀に過半数の役員を派遣する方針だ。
三菱UFJは昨年12月にも、三菱東京UFJ銀がベトナムの国営大手銀行ヴィエティンバンクの株式約20%を取得すると発表し、今年5月に出資が完了。M&A戦略ではアジアが主戦場の一つだ。
BNPパリバ証券の鮫島豊喜シニア・アナリストは「メガ銀の海外戦略はこれまで、法人金融が中心だった。だが、アジアではリテール業務を含めた総合的な金融サービスを展開するという新たなステージに変わりつつある」との見方を示す。
タイは日系企業の集積度が高く、三菱東京UFJ銀が首都バンコクに置く支店の取引先も日系企業が多くを占めていた。アユタヤ銀の買収に伴い、バンコク支店はアユタヤ銀と統合する方向で、今後はリテール業務にも注力する。
他のメガ銀も、アジアで総合的な金融サービスの展開を目指し、M&A攻勢を強めている。
三井住友銀行は5月、インドネシアの年金貯蓄銀行の株式40%を約1500億円で取得すると表明。年金貯蓄銀はリテール業務に強みを持っており、人口が約2億4000万人と東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で最大の同国で、リテール業務に本格参入するのが大きな狙いだ。
みずほFGは、傘下の旧みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)が2011年度に、ベトナムの大手銀行ベトコンバンクの株式約15%を取得。それ以降はアジアで大がかりな買収や出資を手がけていないが、同社幹部は「あきらめているわけではない」とチャンスを虎視眈々(たんたん)と狙う。
メガ銀がアジアでM&Aを加速させているのは、成長が続くアジアでの旺盛な資金需要を取り込むことで収益力を向上させたいためだ。アジアは、低金利が続く日本と比べ、利ざやを稼ぎやすいとされる。特に15年に経済統合を控え、域内人口が6億人を超えるASEAN諸国への注目度は高い。
三菱UFJがアユタヤ銀を買収するのも、タイがメコン川流域の「メコン経済圏」の一角を占めているからだ。アユタヤ銀が現地で築いた基盤を活用することで、高成長が見込めるメコン経済圏での事業展開を優位に進めたいとの期待がある。
こうした取り組みを成功させる鍵は人材にあるといえそうだ。BNPパリバ証券の鮫島氏は「買収や出資の後、経営陣に送り込む日本人スタッフの確保に加え、ゆくゆくは現地の人材をきちんと育成し、活用していけるかが課題」と語る。
邦銀がアジアでM&Aを加速させる中で、逆に日本市場での事業拡大をもくろむ海外銀行の動きも表面化してきている。
台湾の大手銀行、中国信託商業銀行(台北市)が、首都圏を地盤とする第二地方銀行の東京スター銀行(東京都港区)を買収する方向で主要株主と大筋で合意したことが判明した。
日本ではこれまで、外資ファンドによる邦銀の買収はあったが、実現すれば海外銀行が邦銀を買収する初めてのケースとなる。
中国信託は、金融庁や台湾当局の認可を得た上で、年内にも東京スター銀のほぼ全株式を買い取る。買収額は500億円規模になるもようだ。買収後は東京スター銀の店舗網を活用して日本市場で個人向け金融サービスを展開する一方で、アジアに進出する日本の中小企業への融資を推進するという見方もある。
国境を越えたM&Aの本格化で、銀行の成長戦略の真価がいよいよ試されることになる。(森田晶宏)