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関電、原発でも破砕帯突破なるか 「世紀の難工事」黒四ダム完成から半世紀
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黒部第四発電所建設で最大の難関となった「関電トンネル」工事。破砕帯から毎秒660リットルもの冷水が噴き出した(関西電力のウェブサイト・Insightから) 関西電力が、破砕帯(断層)の壁にぶち当たっている。原子力規制委員会は、新たな規制基準に基づき各原発の安全審査に入ったが、大飯3、4号機(福井県)は、敷地内の破砕帯調査の長期化で審査“保留中”。高浜3、4号機(同)も調査不備などを指摘され、審査は9月以降にずれ込む見通しだ。くしくも今年は、破砕帯に阻まれ「世紀の難工事」といわれた黒部川第四発電所(クロヨン)の完成から50年。立ちふさがる破砕帯を関電は今回も突破できるか-。
「12万~13万年前以降は活動しておらず、活断層ではない」。関電は7月25日、規制委に提出した大飯敷地内の破砕帯調査の最終報告書で改めて強調した。
規制委の調査団は同月27、28日の両日に3回目の現地調査を実施。関電が新たに掘った試掘溝などを見た。8月中に評価会合を再開し議論する。
ただ、7月から続く原発の新規制基準に基づく審査会合で浮き上がるのは、規制委に攻撃される関電の“劣勢”。自らの主張を繰り返す関電に対し規制委は好印象を抱いておらず、評価会合でも関電への“舌鋒(ぜっぽう)”は鋭さを増しそうだ。
「試掘溝の西側で何か出る可能性を考えた方がいい」。7月上旬の評価会合で、大飯の試掘溝をめぐり、調査団の一人は、早くも関電の調査手法に文句をつけた。
関電は試掘溝を長さ約70メートルで掘ったが、調査団は当初約300メートルを要求。最終的に関電の主張が通ったが「規制委はまだこだわっている」(関係者)との見方もある。
原発の新規制基準をめぐる審査では、津波の想定や周辺活断層の評価で規制委の要請を「ことごとく無視」(関係者)し、「小出しにしている」と規制委の怒りを買った関電。“戦略ミス”と悟ったのか、関電は一転、「恭順」の姿勢に転換した。
大飯と同じタイミングで安全審査を申請した高浜について、「福井県の想定を使えと指示を受けたので対応したい。審査を前に進めていただきたい」と先月27日、関電の橋本徳昭常務は述べた。
福井県の津波想定(3.7メートル)より低い想定(2.6メートル)にこだわってきた姿勢を糾弾され、大飯と同じように審査保留が決定的となったわずか4日後の“豹変(ひょうへん)”だった。
八木誠社長は「もう一度技術的な議論をしたかったが、県の想定を基準津波とするという考えが規制委から示されたので…」と苦しい心情を吐露した。
関電は今月5日、大飯原発周辺の活断層3連動を想定しても、主要施設に影響はないとする評価結果を規制委に提出し、高浜でも連動を考慮すると報告した。大飯、高浜の“生殺与奪の権”を規制委を前に、“お上”に従わざるをえなかったのか…。
規制委とのすれ違いが目立つ関電。なぜこうなるのか。規制委の前身組織、旧原子力安全・保安院時代との違いを指摘する声も。
ある電力会社の幹部は、関電のかたくなな姿勢を疑問視しつつもこう話す。「電力会社は大抵のデータは持っている。保安院のころは会合前にすりあわせ、必要な資料を準備してきたが、規制委とは『出たとこ勝負』になっている」
この幹部は「交渉ごとでは、敵か味方か分からない相手に手の内をすべてさらすことはしないでしょう」とも分析。関電は「根回し」の効かない規制委を警戒しているというのだ。
関電の方針転換にもかかわらず、規制委は高浜についてはデータ不足を指摘しており、大飯と同じく、審査の据え置きが確定した。
関電と破砕帯のエピソードといえば、昭和38年に完成した黒部川第四発電所(富山県)建設工事だ。トンネル工事で長さ80メートルの破砕帯に遭遇。地下水が毎秒660リットルも吹き出し、一時は掘削不能になった。当時の最新技術を結集し、7カ月かけて破砕帯を突破。クロヨン最大の難関を乗り越えた。
当時社長の太田垣士郎は現場に立ち入り陣頭で作業員を鼓舞。本社では「鉛筆1本、紙1枚まで節約し、黒部を助けよう」という運動が起こり、工事を支えた。
クロヨン完成50年を迎えた今年、再び破砕帯に直面したのは巡り合わせか。今回勝手が違うのは、相手が自然ではなく、規制委という組織だという点だ。科学技術だけでは乗り切れない平成25年の“破砕帯危機”を関電は突破できるか。間もなく正念場を迎える。(内山智彦)