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ベンチャー育成で異色放つトーマツ 「成長」の一翼、イベントで本格支援

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ベンチャー育成で異色放つトーマツ 「成長」の一翼、イベントで本格支援

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トーマツグループの売上高  監査法人のトーマツを中核とするトーマツグループがベンチャー企業の支援事業を本格化させている。全国でセミナーなどのイベントを開いて有望なベンチャーを発掘し、大企業との協業などを仲介。収益力の向上を図って新規株式公開(IPO)につなげ、上場後は経営を支える一貫した支援サービスを通じ、グループの収益力を高めることを狙う。

 ベンチャー育成は安倍晋三政権の成長戦略で「産業再興」に向けた重点課題の一つに掲げられており、監査法人の中でも異色を放つトーマツのベンチャー戦略の成否は、日本経済が力強さを取り戻せるかを占う試金石にもなりそうだ。

 “生の声”伝える

 「何でも単独で取り組もうとすることが、大学発ベンチャーのよくないところだ」。東京大学発のベンチャー、ユーグレナの出雲充社長は7月中旬、トーマツグループのベンチャー支援会社、トーマツベンチャーサポート(TVS、東京都千代田区)が同区で開いた「産学連携ベンチャーサミット」で講師を務め、参加した起業家やベンチャーキャピタル(VC)の関係者ら百数十人にクギを刺した。

 ユーグレナは、59種類の栄養素を含む微細藻類「ミドリムシ」の販売が主力事業。クッキーやラーメンなどの食品に販路を広げ、2012年12月には東証マザーズへの上場を果たした。

 ただ、05年の設立当初は挫折の連続だった。3年間で500社を訪問したものの、商談の交渉にこぎつけた相手先は皆無。ところが、08年に伊藤忠商事との提携に成功してから状況が一変する。伊藤忠の信用力をバックに大手企業との契約を次々と獲得した。独りよがりをいさめる忠告は、実体験に基づく警鐘だ。

 TVSは4月以降、成功体験を直接学べるイベントを積極的に仕掛けている。産学連携のセミナーは大学で育んだ技術の事業化に関するノウハウを先輩たちの生の声で伝えるのが狙い。農業やスポーツ、健康管理など成長が見込める分野を対象にしたイベントも展開する。

 その場で投資即決

 最も大がかりな「47都道府県ベンチャーサミット」は地元の自治体や銀行などのバックアップを取り付けながら、現地の起業家数十人を招待。ベンチャーの経営支援を行うサムライインキュベート(東京都品川区)の榊原健太郎社長がプレゼンテーションを聴き、「少ない人数で収益を上げ、世の中を変えるようなビジネスモデルを確立している」と判断したら、その場で投資を決める。TVSは、13年度中に全都道府県で実施する方向で取り組んでいる。

 トーマツがベンチャー支援に注力するのは、グループを支える監査法人の収益力改善が課題となっているからだ。IPOの件数は2000年の204社をピークに減少し、リーマン・ショックの翌年の09年には19社に落ち込んだ。10年以降は回復に転じたものの、大企業の子会社の上場廃止や買収増加も響き、国内の上場社数は減少傾向にある。

 顧客である上場企業が増えなければ、監査業務の収入は頭打ちにならざるを得ない。実際、09年9月期に863億円だった監査法人トーマツの売上高(業務収入)は10年9月期に801億円となり、12年9月期も824億円にとどまる。

 一方、TVSを含むコンサルティングなどの関係会社の売上高は、09年9月期の203億円から12年9月期には381億円に拡大している。

 雇用拡大後押し 地方活性化へ道

 有望なベンチャー企業を発掘し、顧客として取り込めるかどうかはグループの将来を左右しかねない。TVSはベンチャーサミットで探り当てた「金脈」のベンチャーを、野村証券などと組んで東京都内で随時開催しているビジネスモデルの発表会に招待。事業の将来性が高ければ大手企業との協業につながり、活躍の場を一気に拡大できるチャンスを提供している。

 日本経済が力強さを取り戻すには地方の活性化が欠かせないものの、メーカーを中心に日本企業の生産拠点の海外シフトが進む中、大企業の工場を地方に誘致するといった一昔前の振興策は「もはや通用しにくくなっている」(自治体関係者)。

 TVSの吉村孝郎社長は、地方に拠点を持つベンチャーが成長軌道に乗れば、雇用の拡大を中心に地域経済を押し上げ、日本全体の活性化につながるというシナリオを描く。「大企業のリストラに遭った優秀な人材が、故郷に戻って再び働けるような雇用の場を作っていきたい」(吉村社長)

 もっとも、業界トップの新日本監査法人もベンチャー企業と大手企業の交流会を始めるなど、潜在顧客を掘り起こしてコンサルティングやIPO、監査関連業務の受託につなげる事業にライバルも力を入れている。数に限りがある「金の卵」をめぐる競争は今後、激しさを増しそうだ。(伊藤俊祐)

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