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競泳水着で後発ミズノ反撃! 高速LR騒動後に「あえて打って出た」
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5年前の北京五輪で競泳界に旋風を巻き起こした高速のラバー水着。身体を締めつけることで水の抵抗を極限まで抑えられる「夢の水着」ともてはやされたが、国際水泳連盟(FINA)が禁止し、繊維製の水着しか着用できなくなった。メーカー間で明らかな優劣の差は出にくくなったものの、各社は知恵を絞り、あの手この手の差別化を打ち出している。そんな中、“後発組”のミズノが、着々とシェアを高めている。その理由とは…。
「高速水着騒動後、選手は契約企業とは関係なく、本当にいいと思う水着を選ぶようになった」
ミズノで水着の企画開発を担当する吉井宏見さん(47)はこう打ち明ける。
2008年の北京五輪を席巻した英スピードの高速水着「レーザー・レーサー(LR)」は金メダリストの94%超が着用し、世界記録を次々と塗り替えた。
当時、ミズノとアドバイザリー契約を結んでいた男子平泳ぎの北島康介選手は、LRを着用し競泳男子200メートル平泳ぎで五輪史上初の連覇を達成したが、契約をほごにされたミズノのメンツはつぶされた。
「選手との人間関係やつき合いが深ければ、こちらがつくった製品をそのまま着てくれた」(吉井さん)という古き良き伝統も、LRの登場で崩れた。
結局、FINAは10年1月、LRで使われたラバーやポリウレタンの使用を禁止。足首まで覆っていたロングスーツも禁止され、身体を覆っていいのは男子が腰から膝まで、女子は肩から膝までとした。
この結果、メーカーによる水着開発の余地は狭まったが、選手が全ての水着を試し、本当にいいと思う製品を選ぶようになったため、各社の真の実力が厳しく問われることになった。
各メーカーは従来、競泳用水着を夏季五輪に合わせて、4年ごとにつくっていたが、今や「毎年の各種大会ごと」の開発競争となっているという。
ミズノはかつて、英スピードとライセンス契約を結んでいたが、スピードがLRを発売する直前の07年に契約が切れ、自社ブランド水着の展開を始めた。
当初、圧倒的シェアを持つスピードや伊アリーナには遠く及ばず、世界大会で着用した選手はわずかだった。
ミズノは昨年度、市販用の競泳用水着を、男女3モデルずつ発売したが、合計の販売数は約5800枚、売上高は約40億円にとどまった。売上高は、スピードとライセンス契約していた当時の半分ほどに減ったという。
「メーカーとしては、やはり売らなければいけない。採算性を考えると、毎年という開発スパンは非常に厳しい」という。
今年は、ロンドン五輪(12年)の翌年でリオデジャネイロ五輪(16年)は4年も先のため、各メーカーは、大きなモデルチェンジを控えた。だが、ミズノは、男女各2モデルの新製品を開発し、「あえて打って出た」。
水の抵抗が少なく推進効率が良いとされる「フラット姿勢」を維持しやすくした「ミズノGS・SONIC」だ。
社員がすべての国際大会に足を運び、水着のシェアを調査。また、同社社員で、ロンドン五輪女子100メートル背泳ぎ銅メダルに輝いた寺川綾選手の意見をふんだんに取り入れるなど、工夫を凝らした。
この結果、今夏、スペイン・バルセロナで開かれた「世界水泳選手権」では、出場する競泳日本人代表31人のうち15人が着用した。
契約関係のない外国人選手からも提供を求められるなど好評で、決勝での着用シェアは男子約10%、女子約6%と、同社としては過去最高を記録した。
吉井さんは「やっと本番水着になった実感がある」と顔をほころばせた。売り上げ状況も、7月までに6000枚を達成し、好調という。
LR騒動後、トップスイマーたちは契約ブランドではない水着でも、タイム向上につながりそうであれば、ブランドロゴを隠してまで着用するようになった。
競争は厳しくなったが、メーカーの“実力”がフェアに評価されるようになり、“後発組”がシェアを伸ばしやすくなったのも事実だ。
「毎年の競泳シーズン終了は次のシーズンへのヨーイドン。振り出しに戻るわけです」と吉井さん。
「100%満足できる製品は正直、なかなか作れないが、積み重ねたノウハウと選手たちが求めるものとの距離感は、だいぶ縮まってきた」
来シーズンの水着開発は、すでに始まっている。(木村さやか)