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缶コーヒー常識変えた「ボス」 自慢の香りの秘密は?
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「ボスグラン・アロマ」 サントリー食品インターナショナルが、缶コーヒー「BOSS(ボス)」シリーズで、“ボス史上もっとも香る”と銘打つ新商品「ボス グランアロマ -香るボス-」を8月20日に発売した。自慢の「香り」の秘密は、収穫したコーヒーの実から不要な部分を除き、コーヒーの生豆を取り出す加工工程に、なんとシャンパン酵母による発酵を導入するという新発想だ。「やってみなはれ」という言葉で知られるサントリーグループの創業以来の挑戦の精神が、缶コーヒーの常識を変えた。
グランアロマの開発プロジェクトが立ち上がったのは平成13年。当時、順調に売り上げを伸ばしていたボスの一段の強化に向けて「他社がつくれないオリジナルのコーヒー技術の開発」を目指したのが出発だった。
開発の方向性のヒントとなったのは、ボスの生みの親として長年、コーヒー開発に携わってきた高橋賢蔵氏(現国際事業部副事業部長)のある思い出だ。
高橋氏には、どうしても「再会」したいコーヒーがあった。昭和62年にコーヒーの担当となり、その頃に出会った「モカマタリ」というイエメン産のコーヒー豆。フルーティーな香りに高橋氏は「恋にも似た高揚感」を覚え、入れ込んだ。だが、その後は「近代化で豆の精選加工法が変わってしまったためか、同じモカマタリに会うことがなかった」という。
プロジェクトは、この「追憶のモカマタリの香り」の再現に挑む。高橋氏は、これまでの研究から、モカマタリの香りの秘密は豆の加工に発酵技術を使うことにあるのではと見当をつけていた。
早速、サントリーグループが保有するビールやウイスキーなどの製造で使う数多くの酵母を試す。その中でワイン系統の酵母に絞り込み、最終的に「一番香りだちがいい」と感じたシャンパン酵母を選んだ。発酵に使用する酵母の数や温度を何度も調整する試行錯誤を繰り返し、約4年がかりで追い求める香りを作り出す発酵ノウハウをようやく見つけ出した。
もっとも、商品化に向けた勝負はそこからだった。量産品の缶コーヒーに仕上げるには、独自の発酵技術をコーヒー豆づくりに受け入れてくれる農園を確保するという難題が残っていた。
その任を背負って、平成17年から中南米や東南アジアで協力農園探しに奔走したのが、プロジェクト立ち上げ時に新入社員として、高橋氏の元に配属された研究開発部の南善清氏。案の定、各地の農園は未知の発酵法に抵抗感を示し、南氏は苦戦を強いられた。
辞書を片手に、発酵の効果を説明しながら農園を渡り歩く日々が続いた。運良く理解者と出合えることもあったが、今度は長期間にわたる生産テストの負担から「もう付き合えない」と断られた。発酵させるには完熟したコーヒーの実だけを集める必要があったが、機械による大規模収穫が広がり、未熟な実を含めて収穫してしまう農園がかなりあることも壁になった。
農園が確保できないまま5年が経過。ボスが誕生20周年を迎える24年に定めた商品化の目標時期も目前に迫ってくる。「やってみなはれ」の本質である「必ず成果を出す」が重圧として、異国の地で南氏にのしかかった。
局面を変えたのは、関係部署の上司からの助言だった。
「もっと柔軟に、幅広く探してみろ」
協力を得られる可能性のありそうな農園を口説き落とすことに注力するあまり、狭まってしまっていたパートナー探しの視界が、この一言で大きく広がった。そして気持ちも新たに動き出した南氏は、ようやく日系2世のトミオ・フクダ氏が運営する理想的な協力農園をブラジルに得る。
生産テストを繰り返しながらトミオ氏との信頼を深める中、中南米にも協力拠点を見つけ出し、大規模で安定したコーヒー豆の調達網の確保についにめどが立った。
発酵させたコーヒー豆は、協力農園の生産者から「これはすごい」と高い評価を受けた。約8年をかけ、9カ国約30カ所を回った農園探しを含め、入社以来、ほぼすべての時間と努力をこのプロジェクトに注いできた南氏の苦労が一気に、喜びに変わった瞬間だった。
グランアロマが店頭に並ぶ今。南氏は「酵母の種類や組み合わせで違うおいしさが生まれるかもしれない。まだまだやってみたい」と話す。高橋氏の薫陶を受け、南氏らに受け継がれた探求心が、ボスの新たな進化につながる。