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SNS不適切投稿、背景は不満? コスト優先経営のリスクを考える
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ホスピタリティ&グローイング・ジャパンが行っているサービス業向けの研修風景(同社提供) 飲食店チェーンなどの店舗でアルバイト店員らが悪ふざけの様子を撮影し、インターネットに投稿する行為が多発する中、社員教育の重要性が改めてクローズアップされている。企業側は投稿を禁じる誓約書を取ったり、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に関する研修を追加したりと、社員のモラル向上に躍起だ。だが、専門家からは「背景にあるのは会社への不満」との指摘も。会社が良くなれば、「バカッター」はなくなるのだろうか。
「従業員教育には定評があると思っていた。慢心があったかも」。飲食店チェーンを展開する「物語コーポレーション」(愛知県豊橋市)の広報担当者は話す。同社が運営する「丸源ラーメン門真店」(大阪府門真市)では今年8月、アルバイトの女性店員が冷凍庫で食材のソーセージをくわえた写真がSNSに投稿されたことが発覚。店舗の一時休業に追い込まれた。
同社はラーメン、焼き肉など運営する全国約260の全店舗でアルバイトを含めた社員研修を実施。食品衛生に関する基礎知識のほか、業務中の携帯電話の使用禁止、店内の写真撮影禁止など、SNSに関するルールも付け加えた内容だ。
研修後は、全員が就業規則を順守するとの誓約書にサインした。「誓約書が目的でなく、飲食業に関わる者が当然守るべきルールを再徹底した」という。
アルバイト従業員がバンズの上に寝そべる写真が投稿されたハンバーガーチェーン、バーガーキングでも、「従業員しか知り得ない事柄を会社の許可なしにネットに投稿しない」との同意書に署名を求めている。同社日本法人の藤河芳一社長に再発防止策を問うと、「採用段階での見極めが重要でしょうね」と、質の高いアルバイト採用が重要との認識を示した。
アルバイト社員を対象に、SNSへの不適切な投稿の「リスク」を教える講習を始める会社も現れた。東京、大阪でサービス事業者向けの教育・研修学校を運営するホスピタリティ&グローイング・ジャパン(東京)は来年1月、アルバイト社員向けに、SNSへの不適切な投稿リスクを教える講習を始める。
社内研修に限界を感じる企業も多く、専門企業への外注を望む声が高まってきたことを受けての実施。同社の有本均社長は、日本マクドナルドの社員教育機関の責任者などを歴任。これまでサービス行の接客や店舗運営など約100種類に上る講座を展開した実績で業界の信頼は厚い。
講習は3時間程度の1回完結型で、企業が月数万円の受講料を払えば、アルバイト店員らが200人まで講習を受けることができる仕組み。同社が今年9月に開校した大阪校では、研修契約を結んだ企業はわずか1カ月間で50社にのぼった。有本社長は「店員への基本教育ができていないことが、今回の騒動につながっていると思う。会社の責任だ。社会人のルール、マナーを教え、守らせたい」と話す。
研修でアルバイト社員のレベルアップは可能なのか。「会社への不満が、内部告発や不祥事の発生につながりやすい」と、企業の危機管理に詳しい藤江俊彦・千葉商科大教授(ソーシャル経営論)は根本的な課題解決の必要性を指摘する。
内部告発の大半は非正規雇用者から行われるといい、従業員の実態把握が重要だという。
不適切な写真をSNSに投稿、店舗の一時休業に追い込まれた「丸源ラーメン門真店」のアルバイトの女性店員について、運営会社は「店の運営や人間関係などに不満があったようだ」と話す。実際、この店について過去の状況までさかのぼって詳しく調査すると、衛生検査の成績が他店より低いなど、さまざまな問題点が浮き上がってきたという。
同社は「本部による店舗まわりを強化し、問題点を早期に発見する」とする。全店舗の従業員に「満足度アンケート」を行い、不満点を拾い上げる試みも検討中だ。「コストも時間もかかるが、再発防止にはやむを得ない」。息の長い取り組みを通じ、従業員全体のレベルアップを図る考えだ。
正社員ではなく、アルバイトが業務の主力を担う飲食、小売りなどのサービス業。人件費などの問題から、業界のこうした人事構成は今後も変わりそうにない。千葉商大の藤江教授は「企業はコスト削減、アルバイトは時給をもらうだけ、とお互いに自分のことしか考えず、社会への責任が抜け落ちている。コストだけを考えた経営は、逆にハイリスクとなることを自覚すべき」とも指摘している。(内山智彦)