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【1000万台の先へ トヨタ 新たな挑戦】(1)個性磨きドイツ車に対抗

ニュースカテゴリ:企業の自動車

【1000万台の先へ トヨタ 新たな挑戦】(1)個性磨きドイツ車に対抗

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 ■「レクサス」を最高のブランドに

 社長に就いてからも靴底にはよく金属の削りかすが付いていたという。時間があれば、作業服に着替えて工場を見て回っていたからだ。

 そんな製造現場にこだわり続け、ものづくりを追求し続けた一人の経営者が9月17日、亡くなった。

 豊田英二、100歳。トヨタ自動車の社長、会長をつとめ、世界有数の企業に成長させた立役者だ。部品在庫を抑え生産効率を向上させる「カンバン方式」の確立など、その功績は枚挙にいとまがない。

 技術畑を一貫して歩んできたため、ものづくりの人という印象が強いが、製造面だけでなく、今や自動車業界の頂点にのぼりつめたトヨタの土台をいくつも作り上げてきた。そのひとつが、会長に退いてから高級車ブランド「レクサス」を立ち上げたことだろう。

 ◆米国以外では苦戦

 8月30日。まだギラギラした夏の日差しが照りつけるこの日、東京・南青山に車を販売しないレクサスのブランド発信拠点「インターセクト・バイ・レクサス」がオープンした。

 「私がストーリーをつくる」。今年4月からレクサス部門を直接担当することになった社長の豊田章男による長期視点に立った改革が動き始めた。

 その一つが、このブランド発信拠点で、ここでは日本の匠の技を集めた雑貨が販売され、雑誌が読めるラウンジもある。最大の目的はレクサスの販売ではなく、ブランドの個性を訴求していくことだ。

 1989年に米国で売り出されたレクサス。2000年から11年連続で米高級車市場でシェア1位を獲得するなど、一定の評価を得てきた。

 米市場での成功をひっさげ、05年に日本に逆上陸したが、昨年の国内販売実績は4万4000台(前年比3%増)。知名度は確実に浸透しつつも、メルセデス・ベンツの独ダイムラー、独BMWという高級車2強の牙城を崩すことはできていない。

 日本だけでなく、欧州や中国でも苦戦。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹アナリストは「中国ではドイツ勢の車は高くて購入できないが、レクサスならばなんとか購入できるというのが購入動機。高級イメージとはほど遠い」と指摘する。

 唯一成功している米国でも「静粛性」「低価格」というジャンルを確立したことで名声を高めたが、レクサスインターナショナルのプレジデントで、トヨタ専務役員の伊勢清貴は「米国は『良いものを良い』として買う市場。だから、われわれも受け入れられた」と分析する。つまり、米国がブランドよりも実用性を重視する独特の文化圏だったから高級車市場で評価されたというわけだ。

 ◆高級車の名声へ邁進

 壊れにくい大衆車-。これがトヨタ自動車が得ている名声である。これに対し、ダイムラー、BMWは高級車から始まり、それが原点となっている。これこそが独勢とレクサスのブランド力の差だ。

 「ドイツ勢が変わらない高級感を打ち出せば『ぶれない』と評価される。しかし、レクサスは『つまらない』となる」。トヨタの幹部はこう嘆く。

 フロントに台形を組み合わせたような「スピンドルグリル」をレクサス全車種に昨年来、採用し始め、力強さを前面に打ち出したのも「個性を鮮明にして、ブランド埋没を防ぐ」(福市得雄専務役員)という危機感にほかならない。

 中興の祖といわれ、9月に亡くなった豊田英二は生産革新でトヨタを「最強の製造業」と呼ばれるまでに育て上げた。ただ、ブランド力、正確には高級車分野におけるブランド力ではドイツ勢がはるか先を行く。

 「もっとできる」。こう確信する社長の豊田章男は、大叔父である英二が築き上げた「最強の製造業」に続き、「最高のブランド」という2つ目の称号を手に入れることはできるのか。挑戦が始まった。=敬称略

                   ◇

 自動車業界では史上初となる世界販売1000万台が目前のトヨタ自動車。しかし、豊田章男社長は「もっといいクルマづくり」を合言葉に、経営のかじを量的拡大から質的拡大へと切った。トヨタが求める「真の競争力」を追う。

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