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千葉工大 ロボット普及へ新たな一歩

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千葉工大 ロボット普及へ新たな一歩

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 ■原子力災害対応「櫻弐號(さくらにごう)」を開発

 原子力発電所でトラブルが起きると、誰もがSF映画に登場するような頼れるロボットがいてくれればと思う。そんな人類の夢も、着実に現実のものになりつつある。なかでも千葉工業大学は、原発施設内での作業を想定した水陸両用の新型ロボットを開発するとともに、三菱重工業と技術協力協定を結び、過酷な環境下で作業するロボットの普及へと新たな一歩を踏み出した。

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 過酷な環境下で作業できるロボットの開発が活発化する中、関係者の注目を集めているのが、千葉工業大学(千葉県習志野市)の未来ロボット技術研究センター(fuRo)が新たに開発した水陸両用の原子力分野向け災害対応ロボット「櫻弐號」だ。

 ◆先輩「Quince」の実績

 同ロボットが注目を集める背景には、原発で稼働実績のあるロボットがベースになっていることがある。櫻弐號の前身にあたるのは、やはり千葉工業大学が開発した「原発対応版Quince(クインス)」。Quinceは平成23年、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東京電力福島第1原発建屋の1階から5階までを、悪条件にもかかわらず階段を上り下りして遠隔操作で放射線量などを調べ上げた実績を誇る。これはどのロボットも成し得なかった快挙だ。実績という確固たる裏付けが土台にあるだけに、内外の専門家の目が集まったというわけだ。

 その櫻弐號は、戦車のように左右に2対の走行用クローラーを備えた構造。機器などを積載できる重量は、Quinceが20キロ程度までだったのに対し、50キロ以上も可能。本体は最大毎秒50センチの速度で移動し、傾斜角45度の階段を昇降する能力をもつ。また、オプションで装備する作業用大型アームには、広角カメラと高輝度LED照明、無限回転して物体をつかむ働きをするハンドグリッパーなどを装備。カメラ高さは最大200センチまで伸び、全方向の撮影調査が可能なことから、高いところや狭い場所にもアームの先を伸ばして情報収集ができるフレキシブルさも兼ね備える。

 ◆ニーズに応えた「水中稼働」

 だが、特筆すべき点はやはり水中稼働を可能にしたことだろう。高い防塵・防水能力を有していることを示す国際規格「IP67」に相当する耐水性能を確保し、作業範囲を大きく広げた。

 櫻弐號は、新規開発の駆動系ユニットを組み込むなど、Quinceの後継機とはいえ、改良型ではない、まったくの新シリーズと位置づけられている。それはなぜなのか。最大の理由は東日本大震災によって、人が近づけない場所で作業するロボットへのニーズが劇的に変化したことだ。福島第1原発事故を受けて、早急な収束を迫られる原発作業現場から湧き起こってきたのは、「水中でも作業できないか」「もっと重い機器を搭載することができないか」といった悲痛な声だったという。

 ◆新チームでゼロからの開発

 開発の責任者である千葉工業大学の古田貴之fuRo所長は「こうした作業現場の要請に応えようとすると、ソフトウエアは継承するにしても、ハードウエア(ボディー)は一新するしかなかった。それだけに、まったくゼロからの開発だった」と明かす。

 チームも新たに編成し、スタートした「櫻シリーズ」の開発プロジェクトが重点目標に掲げたのは、(1)信頼性と耐久性の向上(2)粉塵環境や水中でも稼働できる防塵・防水性能や放熱性(3)大規模で重い計測機器を搭載しても衰えない登坂能力(4)物体ハンドリングなどの作業能力(5)可動カメラ方式による撮影調査能力の強化(6)いっそうの機動性の向上-の6項目。これに沿ってモーターをはじめ電気制御系、ボディーなどをすべて新規に開発したうえ、登坂・防水・耐久性といった性能面では、「次元の違う水準を追求した」(古田氏)。この努力が実り、前述のような優れた能力をもつロボットとして完成。従来機との比較をすると、定格・最大ともに倍以上のパワー・稼働時間を備えるなど、まさに次元が違う水準に到達させることができたのである。

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 ■他分野へ活用拡大に期待 三菱重工業と技術協定、販売へ

 櫻弐號をめぐっては、もう一つの見逃せないプロジェクトが始動した。ロボットを開発した千葉工業大学と重機械大手の三菱重工業が、原子力分野向けロボットを対象に技術協力協定を締結したことだ。その第1弾として、三菱重工業は千葉工業大学から櫻弐號のライセンス供与を受け、同ロボットを広く生産、販売していく方針だ。

 今回の提携は関係者から驚きと大きな期待感をもって受け止められた。その理由は相互補完的な効果が見込める戦略的な提携だからだ。千葉工業大学は、櫻弐號をはじめとした原発分野向けロボットの研究と開発に多くの実績をもつ。一方の三菱重工業は原子力発電プラントをはじめ、原発向けロボットの設計、生産、品質管理、販売、運用などのノウハウを保有している。それぞれの得意分野が融合することで、生み出されるベクトルがより大きくなるというわけだ。

 両者の提携によって期待される効果の一つは、活用分野の多方面への拡大だ。実際、それぞれのノウハウを合体させ、原子力発電所分野にとどまらない同ロボットの活用策を検討していくことにしている。

 その具体策が、CBRNE災害と呼ばれる分野への展開だ。CBRNEとは、Chemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射性物質)、Nuclear(原子力)、Explosive(爆発物)を指し、これらに起因した事故は、重大な被害をもたらす恐れがある。そこでこれらの事故・災害において早期の情報収集に役立つロボットを開発、生産していこうというものだ。

 古田所長は「大学には製造や販売など、できないことがある。それが提携によって補完されることで、こうした災害対応型のロボットをもう一段高いステージにもっていけるのではないか」と期待する。

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 □古田貴之・未来ロボット技術研究センター所長に聞く

 ■原動力は「現場で役立つこと」

 --「櫻弐號」には、ロボット研究で培った独自のノウハウが随所に盛り込まれているようだ

 古田 確かに私たちだけがもつ独自の工夫を随所に凝らした。その代表的な部分は、やはりクルマのエンジンにあたるモーターだろう。今回、ロボットに搭載したモーターは、汎用(はんよう)品ではなく、われわれが独自に開発した。汎用品で今と同じパワーを出そうとすると、モーター本体がどうしても大きくなるばかりか防塵・防水性の確保なども難しくなるし、適正な大きさに収めようとすると、今度はパワー不足に陥る問題があったからだ。

 --ポイントになったのは

 古田 磁石と電気回路の2つだ。モーターの性能を左右する大きな要素が磁石。だから、小さくても大きなパワーを出せるようにと、次世代の製造プロセスで使われる高性能な磁石を採用した。そのうえで挑んだのが電気回路の最適化。モーターには、たくさんの種類があるが、こういう時には、これくらいの電流を流せば無駄なくパワーが引き出せるという特性は機種によって異なる。われわれはその特性を解析し、データを記した曲線グラフをにらみながら、極限まで回路の最適化を追求した。

 --駆動系のユニットは、用途に応じて柔軟に対応できるようになっているようだが…

 古田 このロボットは、与えられた使命を着実に実行できるようにするため、カスタマイズできる点が大きな特徴だ。モジュール構造にして、ミッションに応じて、その機能を付加するという考え方だ。だから駆動系についても、移動速度を優先するのか、積載能力や登坂能力を優先するのかといった目的によって、ギアを含めたモーターユニットについて最適なタイプを選択できるようにした。また、左右のメインクローラーには、通常、1組のモーターユニットが備わっているが、実はもう1組のモーターを備え付ける場所があり、四輪駆動にすることもできる。

 --アーム部分にも多くの工夫がされているようだ

 古田 関節部における無電力姿勢保持や撃力保護機能などが挙げられる。例えば、関節部分に組み込んだ電磁ブレーキやウォームギアにより、同じ姿勢を維持するときには電流を全く消費しないようにした。このことは長時間の作業を可能にする。アームの長さも200センチを確保した。原子力発電の重要な設備には、配管が備わっていることが多く、となれば現場の技術者からは、配管が複雑に配置されている高所を見たいという要望が出てくる。その辺を勘案した結果、200センチという長さにたどり着いた。

 --非常に実用性の高いロボットのように思える

 古田 私たちはロボットを作り出すことが目的ではなく、作ったロボットが現場で役立つことが重要なのだと考えた。世の中で役立たないと意味がないという考えだ。だから現場の方々の声を吸い上げ、どうすれば使いやすいかを常に念頭に置いて開発を進めた。新規にチームを組んで開発に乗り出そうという際にも、東京電力福島第1原発事故の収束に、どうすれば貢献できるかを最大のテーマに掲げた。結果がすべてという決意のもとに検討を重ね、必ず役に立つことができるという確信を得たので開発に着手した。人々の役に立つ技術を生み出して育み、良い結果を導き出したい、そういう思いが私たちの原動力だった。

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【プロフィル】古田貴之

 ふるた・たかゆき 工学博士。青山学院大学理工学部卒。同大大学院、同大理工学部助手、ERATOプロジェクトグループリーダーなどを経て平成15年6月から千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長。著書に『不可能は、可能になる』(PHP研究所)。東京都出身。45歳。

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