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【兵庫発 元気印】六甲ビール醸造所 本場の「エール」 飲みやすく提供

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【兵庫発 元気印】六甲ビール醸造所 本場の「エール」 飲みやすく提供

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 「故郷の神戸にも地ビールをつくりたい」。神戸市北区で「六甲ビール醸造所」を営む有限会社、アイエヌインターナショナルの中島郁夫社長が1997年、“脱サラ”して地ビールづくりに挑戦したのはそんな思いからだった。今でも「本場の英国のエールビールを飲みやすく提供したい」という変わらぬ思いで、ビールをつくり続けている。

 ◆設備は米国から

 中島社長は創業前、製薬会社や自動車会社で生産設備などの技術者として働き、海外勤務が多かった。妻の玲子さんが「底なしの大酒飲み」と振り返るほどビール好きで、米国やドイツなどの出張先ではその土地ならではのビールを味わうのが楽しみだった。

 「ローカルな地ビールが海外ではどこにでもある」と感じた中島社長。「いつか個性のあるおいしいビールを神戸に」という思いはふくらむ一方だった。89年には会社を設立し、準備を重ねて定年前に退社した。

 早速、米カリフォルニア州デイビスにあったビールの専門学校で製法などを勉強し、関連する書籍や雑誌などを日本に持ち帰った。米国内のビール醸造設備も視察し、日本と違ってほとんど自動化されていないことを知った。「日本の高額な設備と比べて、かかる時間や手間はあまり変わらない」。そこで、設備は米国の業者に注文。会社員時代の技術を生かし、一部の設備は自分で設計した。その結果、国内で設備を調達した場合より初期投資を約3分の1に抑えることができた。

 ビールづくりの拠点は当初から、六甲山の北側にある現在の場所に決めていた。六甲の清涼な水を引きやすいことや、有馬温泉などの観光地に近く、土産に買ってもらえると考えたからだ。約300平方メートルの敷地に、本社と工場を建てた。

 2005年、中島社長が創業当時を思い出してしたためた手記にはこう書かれている。

 「朝の3時から夜の12時までの手作業。緊張の日々の中、ビールが私にエールをくれました。酵母がぷくぷくと泡を出し始めました。そのときの感動は今でも忘れられません」

 初出荷は1997年12月。「おいしいものを口にしたときの豊かさを味わってほしい」と願いを込めた。商品は淡色の「六甲ピルスナー」、褐色の「六甲IPA」、濃色の「六甲ポーター」のエール3種類で、いずれも1本330ミリリットルの瓶詰で480円(税抜き)。小売店やホテルなど向けに販売し、現在まで定番商品になっている。

 ただ、当初はなかなか売れ行きが伸びず、辛うじて収益を確保する「低空飛行」の状況が続いた。

 ◆神戸・三宮に直営店

 経営が転機を迎えたのは約6年前。神戸・三宮に直営レストランを開店した。神戸一の繁華街という立地ではあったが裏通りで手狭だったため、約3年後、JR元町駅前に規模を大きくして移転。昨年6月には神戸市役所前に新規出店を果たした。

 この直営2店舗の出店で、出荷量はそれまでより約4割増えた。ビールの祭典「オクトーバーフェスト」などイベント参加も奏功。今年6月には生産設備を拡張して夏のビールシーズンを乗り切った。

 心強い味方も現れた。長男の学さん(34)だ。昨年4月に父と同じように、勤めていた会社を辞め、六甲ビール醸造所の営業担当を買って出た。学さんは現在、東京のレストランやビアパブなどを中心に、積極的に六甲ビールを売り込んでいる。

 中島社長は「味へのこだわりを忘れず、少しずつ生産を増やしていきたい」と語る。(牛島要平)

                   ◇

【会社概要】六甲ビール醸造所

 ▽社名=アイエヌインターナショナル

 ▽本社=神戸市北区有野町有野351-1

 ▽設立=1989年9月

 ▽資本金=500万円

 ▽従業員数=6人

 ▽事業内容=地ビール製造・販売

                 □ ■ □

 ≪インタビュー≫

 □中島郁夫社長

 ■麦芽粉砕機などを自ら開発

 --定年前に脱サラして起業するのは大きな決心が必要だったのでは

 「サラリーマンだけで人生を終わりたくなかったし、定年まで待つと気力がなくなる。好きなビールに生涯を賭けようと思い、妻の反対を押し切って醸造所をつくった」

 --それまでの技術者としての経験がビール工場の設備投資に生かされている

 「麦芽粉砕機は自分で開発し、今でも故障なく使っている。瓶に自動でラベルを貼る装置もつくり、それまでの手作業と比べて時間を格段に短縮。購入するより低コストで生産効率をアップできた」

 --日本で一般的な「ラガー」を扱わず、「エール」にこだわるのはなぜ

 「エールは大手メーカーがほとんどつくっておらず、地ビールにふさわしい。英国やドイツなど本場のビールを参考に、オリジナルの製法で日本人に飲みやすい味わいで提供するのが、当社の方針だ」

 --六甲ビールの特徴は

 「六甲山麓のきれいな湧き水を利用して、麦芽も新鮮なものを使っている。劣化を防ぐために冷蔵で保管・輸送しているので、生きた酵母から生まれる芳醇(ほうじゅん)な香りを楽しんでもらえる」

 --直営店を出したのをきっかけに商品を増やした

 「フルーティーな香りが特徴の『六甲ヴァイツェン』や、燻製(くんせい)した麦芽を使用した『ラオホビール』など、六甲ビールならではのビールをさらに多彩に打ち出した。新商品は鮮度の高いたるの状態で直営店などに出荷している」

 --出店効果で出荷量が伸びている

 「地ビールブームが再来しているのかもしれないが、全体の流れではないとみている。新たな商品開発や設備投資は過剰設備につながるおそれもあり、慎重に進めたい」

                   ◇

【プロフィル】中島郁夫

 なかじま・いくお 米スタンフォード大大学院修了。ケロッグ、バイエル、ホンダなどで技術者として働く。1997年、神戸市北区に六甲ビール醸造所を設立。「六甲ビール」の銘柄で地ビールの事業展開を続ける。70歳。兵庫県出身。

                 □ ■ □

 ≪イチ押し!≫

 ■「六甲IPA」 ビアカップで金賞受賞

 創業当時からの定番商品の一つ。日本地ビール協会主催で国内やアジアから出品がある鑑評会「2012年JABC(ジャパン・アジア・ビアカップ)」で、ライトエール部門金賞を受賞した。「香り、苦み、のどごしのトータルのバランスが取れている」と評価された。

 「IPA」は「インディア・ペール・エール」の略称。英国イングランドが発祥で、植民地だったインドへの輸出向けに製造された。長い輸送期間のため、防腐効果のあるホップを多く使って開発された。ホップはビールに苦みを与え、切れのある味わいを生み出す。

 六甲IPAはホップの苦みとローストした麦芽の香りが特徴だが、どちらも抑えめで飲みやすく仕上げている。アルコール度数も5%と控えめ。同社は「IPAをつくっているメーカーは少ないので、ビール愛好家に喜ばれる」と手応えを感じている。

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