ニュースカテゴリ:企業
経営
【21世紀を拓く 知の創造者たち】タニタ プロ仕様マルチ周波数体組成計開発
更新
香坂弘樹さん ■技術の粋を集め機能性を追求
プロフェッショナル仕様体組成計のフラッグシップモデルと位置付ける「MC-980A」は、2011年7月に発売した最上位機だ。発売から2年を経過した今年7月には、高機能を引き継ぎながら低価格化を図った普及機「MC-780A」を投入。両機種ともにアスリートにも対応でき、からだづくりと健康管理をより強力にサポートする。そこには体組成計づくりに情熱を傾ける開発者たちがいた。彼らが目指した商品づくりの一端をのぞいてみた。
◇
□香坂弘樹さん…専門家が満足する
▽こうさか・ひろき 営業戦略本部国際商品部(2000年入社)
□畠山稔さん…東京五輪で活躍を
▽はたけやま・みのる 技術戦略本部量産技術部技術1課(2002年入社)
□斉藤敦さん…入力法など多様化
▽さいとう・あつし 技術戦略本部量産技術部技術2課(1995年入社)
□加藤延充さん…普及機との連携も
▽かとう・のぶみつ 技術戦略本部量産技術部技術3課(2011年入社)
◇
--「MC-980A」の開発では何を担当されたのですか
香坂 商品企画です。体組成計は、からだを構成する組成分である脂肪や筋肉、体水分などを細かく計測するもので、脂肪と筋肉については両腕、両脚、体幹部の5部位に分けてはかることができます。高精度計測が要求される病院やエステ、スポーツクラブなどの専門家たちが満足する体組成計を開発しようと企画したのが「MC-980A」です。表示部の見やすさ、外部プリンターとの接続、データ蓄積の利便性、高いデザイン性など、機能と使いやすさを徹底的に追及し、関係部門と調整を図りながら商品化しました。
斉藤 エレクトロニクス分野のうち制御系のソフト開発が私の担当です。体組成計には計測したからだの各部位のデータを収集・計算して表示するために複数の基板があり、そこに組み込まれているソフトウエアを設計・開発しています。「MC-980A」は欧州では医療機器の認可を受けているため、商品仕様を固めると容易に変更ができません。認可の再申請になるからです。このため開発段階で神経を使いました。
加藤 私は表示部のプログラム制御を担当しました。操作表示には10.4インチの大型タッチパネルディスプレーを採用し、振動で接触を確認できる「BURU(ブル)タッチ」機能を搭載しました。また、基本ソフトにウィンドウズを新規に採用して多彩な表現法を可能にしました。例えば、計測結果をグラフィックやアニメーションを多用して表示するなど、従来機種に比べ見やすく、分かりやすくしたのが特徴です。しかし従来機種を参考に設計することができず、すべて最初から作り上げる必要がありました。それでもアップデートも容易で拡張性も高いなど、自信のもてる優れた機能を多く搭載することができました。
畠山 本体の筐体設計です。筐体デザインプランに合わせモックを作り、商品企画など各部門の要望を聞きながら最終形にしていくのが仕事です。しかし簡単にはいきません。フォルムはシンプルに、ポールの形はスマートに、表示部の奥行きは薄くなど、機能とデザインを融合させながら強度を保ち、しかも軽量化しないといけない。全世界共通で使えるサイズなども悩みました。少しずつ形を変えながら完成に近づいていく過程は、辛さと喜びの両面を味わうことができます。
--みなさんが受け持つ業務の中で、課題だと感じることがあったと思います。どのように解消していったのですか
香坂 体組成計の表示機能をアップデートする際、ソフトをインストールするため従来機では本体そのものを持ち込んでもらう必要性がありました。大型商品なのでもっと手軽にできるよう、本体を3つのパーツに分解して表示部だけを取り外せるようにしました。他社にはない工夫です。これで簡単に運搬やアップデートができます。また病院での利用を考えると高齢者でも使いやすいよう計測台を薄くしました。3つのパーツに分けると部品点数が増え、重量も増します。計測台などを薄くすると強度に影響します。関係部門には無理を言いましたが、いずれも対応してもらいました。
斉藤 時間をかけて高機能商品を開発しても技術の進展とともにすぐに機能が陳腐化することがあります。競争が激しいので、開発期間を短くしないと時代の流れについていけなくなります。商品の完成度を高めるためにも常に最新の情報を集めることやブラッシュアップをしていくことが必要だと感じています。これは課題というよりも、乗り越えなければいけない本来業務ではと思います。
加藤 表示部に多彩な表現を取り入れましたが、これで満足するわけにはいきません。もっと分かりやすい方法や、さらに使い勝手や拡張性の高い仕組みもあるのではと模索の連続です。自分の感性だけでなく、多くの人の意見を聞いてアイデアを集め、アニメーションの活用にも工夫していきたい。「MC-980A」はインターネットに接続することができ、計測結果をネットで確認できます。この分野だけでもかなりの広がりが見いだせると思います。
畠山 大型機なので、利便性を考慮して3つのパーツに分解することができても、その取り外しに六角ボルトなど特殊な工具が必要では好ましくなく手で回せるつまみにしたり、取り付け部の材質の強度を高めるなど商品企画とデザインからの要望は課題だらけです。強度解析が続く日々を送りながら、着地点を見つけ出しました。重さは試作機段階から商品化までに約8キログラム軽くしましたが、やるべきことをやっただけと思います。
--将来の夢、これから取り組みたいことなどを教えてください
香坂 健康計測・計量機器のリーディングカンパニーとして医療現場だけでなく、世界のアスリートたちもサポートできるような高い機能や専門性をもった商品を企画をしていきたいと思います。
斉藤 新しい技術があれば、積極的に商品に盛り込んでいく姿勢を貫きたいですね。「MC-980A」の操作パネルに採用した振動で接触を確認できる「BURUタッチ」機能も開発当初は反対意見もありましたが、結果は好評でした。入力方法などの多様化を進めていきます。
加藤 使い勝手の向上を図るため、普及している機器との連携ができる工夫も必要だと思います。例えば、スマホやタブレットなどを活用して計測したデータを多彩なアプリケーションで表示するなど、やりたいことは多くあります。
畠山 7年後の東京オリンピックで、世界中の選手たちに体組成計などの商品を使ってもらえるようにしたい。そこでわれわれの技術力を知ってもらいたい。そのためにもより良い商品開発に力を入れていきます。
◇
■プロフェッショナル仕様マルチ周波数体組成計「MC-980A」
体重、体脂肪率、筋肉量など14項目が計測・表示できる体組成計。従来機より計測精度を高めるため周波数を4周波から6周波数に増加させたほか、入力から計測終了まで約40秒の高速化を図った。パネルは10.4インチと大型化し基本ソフトはウィンドウズを搭載。数値だけでなくグラフ表示など多彩な見せ方を実現した。医療・保健施設、フィットネスクラブ、大学・研究施設向けに販売するハイエンドモデル。価格は210万円。
◇
【会社概要】タニタ
◇本社=東京都板橋区前野町1-14-2
◇社長=谷田千里氏
◇設立=1944年1月
◇資本金=5100万円
◇事業内容=家庭用・業務用健康計量・計測機器の製造・販売