「私はビジネスマンなので、いろいろと問題はあっても、なんとかなると楽観的だ。悲観主義では経営ができない。スローダウンしたとはいえ、中国などはまだ7%も成長しているし、米国経済は好調だ。欧州の景気も不安要因はあるが、これから戻ってくるだろう」
--日本はどうあるべきか
「今年は一にも二にも三にも経済。まず経済を復活させ安定成長の路線に乗せることだ。20年までに基礎的財政収支(PB)を黒字化させる国際公約があると財政規律を重要視する人がいるが、財政赤字が縮小傾向に向かっているという実績が出ていれば、達成目標が1年や2年遅れたところで大したことはない。巨額の日本の累積赤字は、経済の成長とインフレで解決していく以外にない。景気が良くなれば税収10兆円も夢ではない。これは消費税率を4%上げた分に相当する金額だ。まずは経済再生をしないと」
◆できる企業は賃上げを
--経済再生のため、政府は企業に賃上げを要請している
「日本はどこの国も経験したことのない20年間のデフレを経験した。それを克服するには誰もやったことがないことをやらないと解決できない。それが3本の矢で、いまは3本目の矢を引いているところだ。物価が上がり始めており、4月に消費税率も上がる。賃金を上げないと購買力が下がる。賃上げをしなければ逆に景気を冷やしてしまう恐れがある。賃上げをやれるところはしっかりやったらいい」
--第3の矢だが、複数省庁にまたがる規制の緩和はできるのか
「農業は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に正式参加することを踏まえて、農業法人を株式会社化するとか、農業協同組合(JA)を通さずに自分たちで流通・販売をするとか、地方の現場で良い傾向が出ている。あとは雇用、医療、介護だ。全部を一緒にはできないし時間もかかるだろうが、安倍晋三政権は優先順位をつけて岩盤規制の打破をどういう手順でやっていくかを考えているはずだ。そのためにも安倍首相にはできるだけ長く務めていただきたい」
--安倍首相は「ジャパン・イズ・バック」をうたっている
「課題は、日本への海外直接投資の累積が国内総生産(GDP)比率で4%未満と低調なことだ。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は30%で、1桁の国は日本だけ。要するに魅力がない。言葉の問題もあるが、投資に対するリターンがとれないのが要因だ」
◆海外起業家受け入れ整備
--日本の魅力増強案はあるのか
「“アジアで一番起業しやすい国”というコンセプトで国家戦略特区をつくる。そこでは日本に来て創業したい人に査証(ビザ)をたやすく取得できるし、教育や社会のインフラも整っている。リスクマネーへのアクセスも容易で、おまけに税制上の優遇もあるという条件を整えておく。日本は借金が山ほどあるのに、これから人口が減少していく。安定成長には、海外からカネやヒトが来る国にならなくてはいけない」
--昨年末にまとまらなかったTPP交渉の行方は
「米国の識者は初めから、昨年中の合意は無理と言っていた。日本もすんなり決まるようでは国内で説明できない。最後はやむを得ずという形にならないと。ただ米国と日本は、TPP参加国全体のGDPの9割以上を占める経済力があり、どちらの国も途中で交渉を降りることはありえない。遅れるにも限度があるので、最後は閣僚級が頻繁にやり合ってぎりぎりのところで妥協点を見いだしてほしい」
--韓国、中国との関係は
「最近、韓国メディアも歴史問題に固執し日本がすべて悪いという朴槿恵(パク・クネ)大統領の態度が経済上マイナスではないかと言い始めた。いずれ2国間ミーティングがあるのではないか。雪解けの可能性はあると思う」
--今年のキーワードは
「“リスクテーク”だ。賃上げなど勇気を持ってリスクをとりなさいということだ。国の存在力は(1)経済力(2)軍事力(3)この両方を背景にした政治力・外交力(4)サブカルチャーを中心にした文化-の4つ。軍事力を捨てた日本には経済しかない。経済力を背景に政治・外交力を発揮していくべきだろう」
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【ひとこと】懸案だった自身の後任社長に40代の外国人を決めホッ。正月休みは夫人と米シカゴで10月に生まれたばかりの孫息子と初対面する。
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【プロフィル】長谷川閑史
はせがわ・やすちか 早大政経卒。1970年武田薬品工業に入り、経営企画部長などを経て2003年社長。経済同友会は04年に入会し、副代表幹事を経て11年に現職。67歳。山口県出身。