「改めて、大きな組織だと感じる。スタッフの数は全国514商工会議所で1万人。126万の会員は日本の企業数の3分の1だ。各地方では商工会議所が企業の生の声を吸い上げ、要望などをとりまとめる中心機関になっている。行政からの信頼も厚い。日本の経済は明るくなってきたが、日商の会員が回復を実感できるまでは本当の回復ではないと思っている」
--4月には消費税が上がる
「税率が今より3%分上がるが、中小企業の平均利益率は2%だ。消費増税分を最終価格にきちんと上乗せできなければ赤字に陥ってしまう。増税分をスムーズに上乗せできるよう役所には監視員が置かれるし、日商でもチェックを行う。さらに中小・零細企業が共同で引き上げ分の価格転嫁を目指すカルテルも容認されており、制度的な枠組みはこれ以上ないほど講じられている。それでも中小企業はみな、心配している。取引先に消費税分を払ってくれと言いづらいからだ。“それならいいよ、他から買うから”といわれたら、立場の弱い中小企業は役所に駆け込むわけにもいかない。だから、政府が要請している賃上げにも踏み切れない。消費税はみんなが払うもので、どこかにしわ寄せがあってはいけない。そうならないように働きかけていく」
◆TPPと農業、両方必要
--政府は成長戦略の実行計画を策定する方針だ
「よく言われるように、規制緩和はお金の要らない成長戦略で、日本の成長率を底上げする極めて有効なやり方だ。残っているのは農業、労働、医療の3つ。徹底的に進めてほしい。とくに農業の減反政策が打ち出されたのは大きい。これまでのコメ政策は減反で価格をつり上げ、消費者保護と言いながら消費者はものすごく高いコメを買わされている。能率の悪い多数の兼業農家を保持して生産性は上がらず、耕地面積は少ない。農業従事者の平均年齢は66歳。これ以上やっていたら日本の農業はつぶれる」
--環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の影響はないか
「TPPか農業かというのは間違った設問で、両方とも日本に必要だ。農業のない国はどこにもないし、一定の保護は必要だろう。強い農業とTPPの両方をどうやって実現するかだ。TPPはいろいろな抵抗があって、ようやくここまで来た。相手の国を開かせるには自分の国も開かねばならない。“日本の輸出先ができてよかった”“東南アジアの成長を日本の成長に取り込むぞ”だけではなく、農業など日本の弱い産業を強化する構造改革のためにTPPを活用すべきだ」
◆アベノミクスさらに徹底
--中小企業の海外進出をどう支援する
「商工会議所の命題は会員企業の発展で、海外進出は個別企業の自由。だから海外へ出ていく企業を助けるのは当たり前だ。親会社や取引先が海外に行ってしまったら、自分たちが生き残るために今までとは違う仕事をとるしかない。ここ2、3年、日本政策金融公庫にはそういう中小企業からの融資申し込みが急増している。進出先の情報や運営ノウハウを持っていない中小企業には、日本貿易振興機構(JETRO)と連動して支援していく」
--望ましい金融市場の水準は
「為替は1ドル=100円前後。株価は1万6000~1万7000円だ。円安にはいい点も悪い点もある。円安で輸出企業の業績が改善し、国全体ではプラスになっているかもしれないが、化石燃料を購入するために年間約4兆円の外貨を出している。円安を是とするならば、原子力発電所が停止している日本のエネルギー政策をできるだけ早く正常化していくべきだろう」
--2014年のキーワードは
「“国のリセット”だ。企業はデフレマインドから脱却して、設備投資や賃上げマインドにリセットしなくてはならない。企業人は自分の国に自信を持ち、成長への意欲をかきたてて前を向いて行動すべきだ。韓国や中国など近隣諸国との関係改善に必要なのは、日本経済の成長だ。日本とつきあうことはあなたの国にとっても意味があると見せつけなくては。アベノミクスをさらに徹底して日本を成長軌道に乗せることが一番の近道になる」
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【ひとこと】去年はハワイに出かけたが、今年の年末年始は自宅でゆっくり。ゴルフでリフレッシュし、初詣は明治神宮。さて御利益は?
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【プロフィル】三村明夫
みむら・あきお 東大経卒。1963年富士製鉄(元・新日鉄住金)入社。新日本製鉄(同)社長、会長を経て2012年から新日鉄住金相談役。日本商工会議所は13年11月から現職。73歳。群馬県出身。