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【新春に語る】経団連・米倉弘昌会長 “民間力発揮”で景気の好循環実現
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2014年が明けた。日本経済は昨年来の景気回復の兆しを本物にしていくことができるのか。経済3団体のトップに聞いた。(早坂礼子)
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--今年の日本経済をどうみる
「1~3月期(13年度第4四半期)は、消費増税導入前の駆け込み需要で消費が盛り上がってくる。一方、4月からは増税の影響があるだろうが、すでに打たれている5.5兆円の経済対策が下支えする。その後は1%半ばのプラス成長が見込まれており、総じて非常に明るい年になるだろう」
--成長実現には規制緩和が鍵を握る
「政府には抜本的な規制制度改革に取り組んでほしい。そうすれば民間投資が刺激されるし、海外からの投資も喚起できる。税制では、今年3月末で特別復興法人税が1年前倒しで廃止されるから、次は法人実効税率の引き下げだ。減税で経済成長を促せば、企業業績が上向き、税収が増え、債務の削減につなげていくことができる。財政再建と経済成長を両立させる絶好のチャンスだ」
◆農業競争力強化を支援
--成長では農業への期待も高い
「農水省は、これまでの減反政策をやめると言っている。つまり補助金を出さないということだ。生産性が高く品質のいいコメをつくっている農家がどんどん生産を増やして、海外にも輸出できる態勢ができてくるだろう。農地の集約化も進むし、コストも下げていける。農業は国民への食料供給と地域活性化の両方で重要だが、農業従事者の高齢化や後継者難、耕作放棄地の拡大などの問題も抱えている。経団連は昨年11月に、農業協同組合(JA)グループと共同で発足させた作業部会で連携を強化して農業の競争力強化に向けたお手伝いをしていきたい」
--環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は越年したが
「仕方がない。昨年末の閣僚交渉がまとまらなかったということは、各国が国益確保に向け真剣に交渉している証左だ。それぞれが政治的判断で、何を守り何を譲るべきかを考えていると思う。新年早々に始まる議論を見守りたい」
--中国や韓国とは領土問題できしみが目立つが
「政治的には厳しい環境に直面しているが、日中韓は自由貿易協定(FTA)交渉を粛々と進めている。各国とも、経済的な協力関係を必要としている。経団連も今年5月までには、中国に訪問団を出したいと思っている。3月にはオーストラリアとニュージーランドにも経済使節団を出す。民間外交で経済連携交渉を後押ししたい」
--経済連携交渉はほかにもある
「東南アジア諸国連合(ASEAN)は、15年の市場統合に向けた交渉を着実に続けている。同時にASEAN10カ国は日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド6カ国を加えた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も積極的に進めようとしている。TPP14カ国とRCEP16カ国が一緒になれば、アジア全体の自由貿易圏(FTAAP)ができる。他方、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定も交渉が進んでいるし、米国とEUも経済連携を進めている。最終的には、世界の国内総生産(GDP)の90%を掌握する自由貿易圏ができると期待している」
--安倍内閣への注文は
「これからいろいろな規制改革を実施していくうえで、省庁間の縦割り闘争が激しくなる。首相のリーダーシップで押さえ込んでほしい。忘れてはならないのが震災復興とエネルギー問題だ。安全性が確認された原子力発電所は、地域の住民・自治体の同意を得て速やかに再稼働してほしい」
◆株価1万8000円も
--金融市場をどう予想する
「為替はそれほど動かない。円安傾向にあるが、日本の実力からみれば1ドル=110円を超える円安はないと思う。これまでの長いデフレで鍛えられた日本企業の競争力は相当上がっている。株価はもうちょっと上がるのではないか。アベノミクスの第3の矢である成長戦略の成果が現れれば、1万8000円くらいになるだろう」
--今年のキーワードは
「“民間力の発揮”だ。政治が安定してビジネス環境の整備に向けた改革が進んでいるが、日本経済を引っぱるのはわれわれ民間企業だ。景気の好循環が実現できるように、設備投資の増額や雇用の創出、賃金の引き上げに努めていく。いよいよ民間の出番だ」
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【ひとこと】6月上旬に2期4年の任期を終える。後任は近く発表する予定。ダイエットで腰痛をクリアし、会長職の仕上げに取り組む。
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【プロフィル】米倉弘昌
よねくら・ひろまさ 東大法卒。米デューク大大学院経済学専攻修了。1960年住友化学工業(現・住友化学)に入り、専務、社長を経て2009年会長。経団連は04年副会長、08年評議員会議長を経て10年から現職。76歳。兵庫県出身。