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【開発物語】森永乳業 アイス「MOW」 濃厚なミルクと「なめらかな食感」
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2003年3月に発売された初代MOWミルクバニラ ≪STORY≫
ミルクの素材を生かした濃厚でなめらかな味わいとすっきりした後味が特徴の森永乳業のアイス「MOW(モウ)」。昨年3月に発売10周年を迎えたが、当時の製品コンセプトは今もさびついていない。乳業メーカーとして、「濃厚なミルクをそのままに消費者に伝えたい」という開発陣のさまざまな創意工夫が込められているからだ。
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モウが生まれた前年の2002年。国内アイスクリーム市場は、過去最大を記録した1994年より約1000億円減少するなど、低迷期にあった。紙カップに入れたバニラアイスで、森永乳業がヒット商品を出せなかった時期と重なる。競合メーカーとの差別化がうまくいかなかったからだ。
だが、紙カップアイスはアイスクリーム市場で大きな比重を占めており、後ずさりは許されない。他社に負けない「独自資源」を模索する森永乳業の挑戦が始まった。
当時、一般のスーパーなどで売られているバニラアイスは、卵が豊富に入ったカスタード系が多かった。メーカー側からみれば、バニラアイスに卵を入れれば香料としてのバニラの味が際立ち、高級感が出せるからだ。
森永乳業は、インターネットで1000人規模のアンケートを実施。バニラアイスの印象について聞いたところ、「ソフトクリーム」という回答が約7割に達した。別のアンケートでは、「ミルク」と「カスタード」の味を求める人がほぼ同数だったほか、約8割が「なめらかな食感」を好むという結果が出た。
これらの結果から、消費者がソフトクリームのようななめらかな食感で、ミルク系のアイスを求めていることが分かった。乳業メーカーとしての強みを生かし、ミルクのおいしさを際立たせたアイスという方向性が定まった。開発に関わったマーケティングの担当者は、最初の1、2カ月、東京都内でソフトクリームを販売する有名店約100店を訪ねて味を調べた。店内に計量カップと計測器を持ち込み、ソフトクリームの重さも調べた。一度に食べるに適した容量を知りたかったからだが、人目を忍んで計測器とにらめっこをする姿は、他の客から好奇の目にさらされたようだ。当時、100円で売られているカップアイスの容量は200ミリリットルが主流だったが、このときの調査で平均容量が150~170ミリリットルであることが分かり、モウの容量設計に生かされた。200回以上の試作を繰り返し、03年3月、モウの発売に踏み切った。
ソフトクリームから学んだモウのおいしさとは何か。12年からモウのブランドマネージャーで、冷菓マーケティンググループ リーダーの宇田川史郎さん(32)は「口溶けが良く、素材の味わいが濃厚に感じられながら後味がすっきりとしている。これが消費者の求める味だ」と断言する。
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モウの開発チームがこだわったのが、原料と製法、包装の資材だ。
原料では、液状乳原料や糖の配合を工夫し、ミルクの濃厚な甘さを実現した。香料の研究にも余念がない。人間が食物の香りを感じるのは、鼻を経由するものと、のどから鼻に抜けるものがある。食品総合研究所では、唾液(だえき)で食物を咀嚼(そしゃく)する行為と同じことができる機械を用いて、人間がどういうときに口腔内からのミルクの香気を感じるのかを成分分析し、その香気成分をモウに取り入れたのだ。
製法では、液状の乳原料などを攪拌(かくはん)し、ミクロン単位の氷結晶やクリームの脂肪球、気泡などが均一に分散した半固体状態にする「フリージング」と呼ばれる工程に着目。フリージングでできた小さな氷が大きくならないように急速に冷やす技術「MOWフリージングシステム」を考案した。
これは、通常の工程に比べてより小さい氷結晶ができるだけでなく、乳化剤を使わずに脂肪球を凝集させることができる。余分な食品添加物を使わず、ミルクの素材を最大限生かしつつ、なめらかな食感を実現させたのだ。
05年には乳化剤や安定剤を使用しないモウに改良。09年には、使用品目を乳製品、水あめ、砂糖、卵黄、香料の5つに絞った。食品総合研究所第3開発部の副主任研究員、井上恵介さん(39)は「製法を工夫することで、乳化剤や安定剤を使わないで弊社のミルクの素材の良さを味わってもらえる」と長年の研究成果に自信を見せた。
包装資材にも配慮した。08年からは包装のスリーブ(巻紙)に古紙100%を使用。10年からは、国際機関「森林管理協議会」(FSC)が、森林の管理や伐採について、環境や地域社会に配慮して行われているか評価して認証し、その森林から生産された紙を使っている。
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12年からは「モウを食べて“日本の森を守ろう”キャンペーン」を実施。売り上げの一部を森林保護のための植林、間伐、清掃などを行う事業者の活動支援に役立てている。モウの素材へのこだわりは、アイスだけにとどまらず、包装にも広げている。
製造工場でも工夫が施されている。アイスの製造ラインは、ワンフロアですべての工程が終わるのが一般的だ。しかし、モウを製造する専用ラインのある森永乳業の関係会社、冨士乳業(静岡県長泉町)では、上層階で原料を濾過(ろか)、殺菌、フリージングなどの作業をし、下層階で紙カップに入れて凍結させる。一般的な製造ラインでは、パイプに入れた原料を力を加えて水平方向に移動させるが、冨士乳業のラインは「重力」で上から下に原料を移動できる。「素材は生き物。余計なストレスを与えず、アイスの組織を壊してしまう行為を徹底的に排除したい」(井上さん)からだ。
ミルクの濃厚さを深める努力は今も行われている。昨年6月に実施したリニューアルでは「モウ 濃厚ミルクバニラ」の乳脂肪分を従来の8.0%から9.0%に引き上げた。開発陣のミルクの素材を引き出すための挑戦は続く。
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■味づくりやコスト抑制に腐心
≪TEAM≫
神奈川県座間市にある食品総合研究所に勤める井上恵介さんと、部下の斎藤達哉さん(30)の仕事は、アイスの試食から始まる。
自社の試作品や他社製品など、カップに入ったアイスを午前中に多いときは10個ほど食べる。試食は午後にも続く。井上さんも斎藤さんも昼食を控えめにして食事の量を調節して健康維持に努めている。
斎藤さんは、工場での品質管理などの担当から、昨年11月にモウの開発担当に変わったばかり。次のモウのリニューアルでは、井上さんから斎藤さんにバトンタッチされる予定だ。斎藤さんは「今までの苦労話を聞いており、モウの理想を引き継いでいきたい」と意欲的だ。
アイスの研究で博士号を持つ井上さん。斎藤さんに対し、「ミルクの味はシンプルだからこそ難しい。味づくりは感覚だけではなく、データも提供できるようにしてほしい」とアドバイスする。昨年6月のモウのリニューアル構想は、前年春に始まった。「よりミルクの味を出してほしい」。井上さんは受話器の向こうから、ブランドマネージャーの宇田川史郎さんの弾んだ声を聴いた。
宇田川さんの狙いは、乳脂肪分を高め、余分な香り成分を排除することでミルクの味がより感じられるようにすることだ。宇田川さんは東京都港区の本社から月に2~3度、電車で1時間半かけて座間市の井上さんの研究室を訪れる。議論が深まる中、井上さんは「より濃厚だが、後味はすっきりすること」だと受け止めた。
ただ、「乳脂肪分をあまり増やすと味がくどくなる。牧場で食べるソフトクリームのようなすっきりした後味がなくなってしまう」(井上さん)。乳脂肪分を増やすことはコスト高にもつながる。井上さんは、水あめの配合を代えたり、香り成分を取捨選択したりすることでコストを抑えただけでなく、さっぱり感とコクをそのままに残した風味に仕立て上げた。
モウのテレビCMなどを担当している広告部のアシスタントリーダー、鈴木幸世さん(36)は「モウのおいしさや濃厚感をいかに直感的に感じ取ってもらうかに腐心し、『しあわせバニラ』というキャッチコピーにたどり着いた」と語る。
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■“ごほうび商品” 高付加価値のニーズ拡大
≪MARKET≫
子供から大人まで人気の高いアイスクリーム。国内市場はここ数年、伸長している。
国内でアイスクリームの製造・販売する事業者は300社程度とされるが、全国規模で販売している大手メーカー13社で市場の9割以上を占めるという。
日本アイスクリーム協会によると、アイスクリーム類と氷菓の年度別販売金額は1994年度に過去最高となる4270億円を記録後、2003年度の3322億円まで減少。しかし、04年度に回復に転じて増加傾向となり、13年度は94年度実績を上回りそうだ。
13年度は猛暑だったことと、森永乳業の「パルム」など、各社の定番商品の売れ行きが好調で市場を盛り上げた。
今年は4月の消費税増税に伴う減少が懸念されるものの、「アイスクリームは“ごほうび商品”という側面もあり、市場規模はあまり衰えないのでは」(森永乳業)とみる。
同社は「政府が女性の社会進出を後押ししていることや、従業員1人当たりの労働負担が増している」社会情勢から、「癒やしがキーワードになる。その手段として甘いものを食べるのはポピュラーな手段で、アイスクリームのニーズは高まる」と期待する。
一方、消費者が求めるアイスクリーム商品も社会情勢で変わりつつある。アイスクリームは、(1)紙カップ(2)モナカ(3)バー(4)マルチパック(1箱に複数のアイスを入れたもの)-などに分類されている。これまでは、家族で食べられるマルチパックが主流だった。
しかし、「1人で贅沢な時間を味わいたいとか、ほっとしたいといった時間を提供するデザートとして定着している」(同社)として、付加価値の高い商品へのニーズが高まっているという。
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≪FROM WRITER≫
子供のころ、風邪をひいたときに食べたよく冷えたバニラアイスのおいしさや、アイスバーの当たりはずれに一喜一憂したことを思い出す。生菓子やチョコレート、ヨーグルトなど、他のデザートより、断然思い入れがある。
モウの場合、主要なターゲットは30~40代の男女だが、抹茶やカフェラテ、あずきなど、味のバリエーションにも挑戦を続けており、あらゆる世代から共感を得ている。
これからのアイスはどうなっていくのか。アイスの開発に約10年携わってきた井上さんは「冷たさ」「口の中で溶ける」という特徴を生かし、ご飯をうまく食べられない高齢者向けの栄養補給商品としての存在感が高まるとみる。宇田川さんは「アイスを親子で一緒に食べることで幸せな時間を過ごせる価値を提供したい」との思いを持つ。
2000年代初めのアイス市場の低迷期でも、業界団体のアンケートでは「アイスがデザートの中で最も好き」と答えた人が1位だったという。アイスが「デザートの王様」といわれるゆえんだ。アイスは、これからもリラックスしたひとときをもたらす至福の食べ物であることは間違いなさそうだ。(鈴木正行)
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≪KEY WORD≫
■アイスの製造方法
アイスの製造は牛乳や練乳、クリーム、バターなどの乳製品、糖類、安定剤、乳化剤、水などを混ぜ合わせ、70度前後で攪拌(かくはん)しながら加温して溶かす。その後、加熱殺菌と冷却、さらに激しく攪拌しながら水分を微細氷結晶にするフリージングなどを行う。最後にカップやコーンなどに詰めて流通用の段ボールに入れるまでの工程がある。森永乳業のMOW(モウ)は、乳化剤、安定剤を使用しない商品設計が評価されている。