SankeiBiz for mobile

【開発物語】住友ゴム工業 「エナセーブ100」(2-1)

ニュースカテゴリ:企業のメーカー

【開発物語】住友ゴム工業 「エナセーブ100」(2-1)

更新

東京モーターショーで国産第1号タイヤ(左)の生産から100年の節目に開発した、世界初の石油を使わないタイヤ「エナセーブ100」(右)を発表する住友ゴム工業の池田育嗣社長=2013年11月、東京都江東区(同社提供)  ■国産タイヤ生産開始「100年目の解答」

 ≪STORY≫

 自動車のタイヤ生産で国内シェア2位の住友ゴム工業が昨年11月、石油系素材を全く使わない世界初のタイヤ「エナセーブ100」の販売を始めた。同社が「ダンロップ」ブランドなどで展開するタイヤの技術・開発力をつぎ込んだ集大成は業界の常識を覆すとともに、国産初の自動車用タイヤ生産から100年という節目の年に世界に示した技術の結晶だ。

 「21世紀に向け、会社の将来のあるべき姿を考えてくれ」

 2000年、同社の上層部から、タイヤ技術本部に属する20~30代の若手社員らにこんな指示が下った。

 若手社員らは夜を徹し、議論を重ねた。環境・省資源化に配慮したタイヤを作るというコンセプトのもと、会社の独自技術を開発するプロジェクトチームを作ろうと機運が盛り上がった。その議論の中に、将来開発すべきタイヤとして「石油を使わないタイヤ」という発想も含まれていた。

 「このアイデアをやれ」

 当時の首脳陣の目にとまり、会社の中長期計画の一環で世界初の「脱・石油」タイヤへの挑戦が現場に命じられた。経営陣からのトップダウン、社員からのボトムアップという社内の意見交換を経て、翌01年から世界にないタイヤづくりを目指すプロジェクトが始動した。

 ただ、いきなり石油を100%使わないタイヤづくりを目指したわけではない。一般的なタイヤは、石油由来の素材が6割前後使われているため、100%を実現するには残り4割の素材を石油系以外の素材に置き換える必要がある。同時に市販に耐えられるタイヤの性能も実現しなければならない。

 かくして01年にできあがったのが「タイヤの基本性能は満足できないが、とりあえず素材を集めて作り上げた」(関係者)という、石油に由来しない素材を97%使ったプロトタイプ(試作品)だった。この段階で同年の東京モーターショーで展示したところ、予想以上の反響があり、04年には市販化を目指す方針を社内決定した。

 しかし市販化の実現には、いくつもの“想定外のハードル”が存在するとも予測。非石油系素材の割合を徐々に高め、ホップ・ステップ・ジャンプと3段階のステップを踏む形で「脱・石油」系タイヤの量産・市販化を進めていくことになった。

 具体的には、06年に非石油系素材70%、08年に同97%の目標を設定。そして住友ゴム工業が国産第1号のタイヤ製造から100年目に当たる13年に「100%」を満たしたタイヤを市販化するというゴールを定めた。

 「当時はすでに目標はあったが、(開発技術の裏付けなど)中身がなかった。半端ないプレッシャーだった」

 04年から「脱・石油」系タイヤの素材開発に携わってきた和田孝雄材料企画部課長(53)は振り返る。会社の夢を具体化し、実現するまでの道のりは試行錯誤の連続だった。

 まず手がけたのは、石油系素材の天然素材への切り替えだ。タイヤの主原料である合成ゴムを天然ゴムへ、タイヤの補強剤となるカーボンブラックはシリカへ、鉱物油は植物油へ-と、素材の代替を進めていった。

 ただ、天然ゴム製タイヤのネックは雨の路面でブレーキをかけ、車が停止するまでの制動距離。「合成ゴム製が50メートルならば、天然ゴム製では70メートルかかり、車の安全性に多少不安がある」(和田課長)という課題が浮上した。

 そこで、天然ゴムの性質を変える「改質」にも着手。詳細は企業秘密だが、ENR(エボリューショナル・ナチュラル・ラバー)と名付けた独自技術を開発し、燃費に関連するタイヤの転がり抵抗を天然ゴム並みに抑えつつ、雨の路面上では合成ゴム並みのブレーキ性能を持つという「低燃費性と安全性を両立させた素材が結果的にできあがった」(和田課長)。

 タイヤの設計面で06年から関わってきた向井友幸第5技術部課長代理(37)は「合成ゴムと天然ゴムでは車の乗り心地も違う。天然ゴムの良さを生かしながら、合成ゴムの性能に遜色ないものを出すのに苦労した」と明かす。

 ここまでは技術で何とか97%の「脱・石油」タイヤが実現できたが、残り3%の素材変更が次の難関となった。解決のため同社がとった手段は、自らの知見による新素材の開発だった。

 当時は「必要な素材について大量生産技術が確立されておらず、できるかどうか不安だった」(和田課長)とまさに壁にぶち当たったが、社内外の知見を得て、使えるバイオ・触媒技術をフルに活用。トウモロコシや松の木油、菜の花といったバイオマスを原材料に取り入れ、タイヤのひび割れなどの劣化を防止する老化防止剤、ゴムと硫黄の結合を促進させる加硫促進剤などの「脱・石油」化に成功した。

 11年から新素材の開発に関わった広真誉材料第1部課長代理(38)は「素材の配合を変え自分たちが狙ったタイヤの性能に向け改良を重ねた」と語る。

 こうして市販化を1カ月前に控えた13年10月、「脱・石油」100%タイヤの量産が工場で始まった。現場を訪れた広課長代理は「いろんなトラブルもあったが、最終製品ができあがったときは、うれしいというよりホッとした」。和田課長も「社内外でいろんな人が喜んでくれたのがうれしい」と達成感を口にする。

 住友ゴム工業の100年を超える歴史は「常に先進技術とともに歩んできた」(中瀬古広三郎常務)といえる。長期計画「ビジョン2020」では、世界一の現場力・開発力・技術力を生かした「飽くなき技術革新」がテーマだ。世界初の石油系素材ゼロのタイヤは、同社の技術・開発力を世界に見せつける“象徴”となった。

                   ◇

 ■住友ゴム工業における自動車用タイヤ開発の歴史

 1913年 自動車用タイヤの生産開始。国産第1号タイヤが誕生

   54年 日本初のチューブレスタイヤを開発

   66年 日本初のラジアルタイヤ「SP3」生産開始

 2006年 70%石油外天然資源タイヤ「エナセーブES801」発売

   08年 97%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ97」発売

   11年 100%石油外天然資源タイヤのプロトタイプを発表

   13年 100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ100」発売 

ランキング