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レール外の負けられない戦い ハルカス全面開業で顧客争奪戦さらに激化

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レール外の負けられない戦い ハルカス全面開業で顧客争奪戦さらに激化

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3月7日に全面開業する「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)。話題性の高い日本一の超高層ビルの本格始動に、他の商業施設も対抗策に躍起だ  関西の鉄道各社によるレール外でのデッドヒートが、また過熱する。3月7日、近畿日本鉄道の「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)全面開業を皮切りに、阪急電鉄が「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)を順次改装オープン。12日には京阪電気鉄道の「くずはモール」(大阪府枚方市)も増床開業する。少子高齢化で鉄道の利用者減が見込まれる中、駅直結の商業施設は鉄道会社の貴重な増収源。各社とも激戦区・大阪での顧客争奪戦は「負けられない戦い」となっている。

 危機感も強気貫く

 「危機感は持っている」

 京阪電気鉄道の加藤好文社長はあべのハルカスに加え、JR大阪駅北側の複合ビル群「グランフロント大阪」(大阪市北区)、JR大阪三越伊勢丹や阪急百貨店梅田本店(同)など、大阪市中心部で相次ぐ商業施設の開業やリニューアルで激しさを増す顧客争奪戦についてこう述べ、厳しい見方を示す。

 一方、京阪グループが運営する京阪百貨店への影響については「さほど受けていない」と自信も。沿線の「モール京橋店」(大阪市都島区)などではすでに食品部門を強化し、対抗策を整えているためだ。

 マーケティングを徹底した上でのてこ入れ策は、実にきめ細やかなものだ。地元の主婦層や女性客をつなぎ留めるため、食料品を扱う店舗をテナントではなく、ほぼ直営で運営。百貨店が自ら厳選した商品を展開し、顧客獲得を進める戦略をとった。

 京阪電鉄が「ショッピングモールの完成形」を自負する「くずはモール」では地元客の取り込みに加え、若者に人気のファッションブランドなどの「都心型」店舗を導入。「都心部に行かなくても、満足した買い物ができる場を提供する」(加藤社長)だけでなく、大阪市中心部への流入を“せき止め”、沿線住民の買い物は沿線で完結させるのがねらいだ。

 同社はこの改装に相当な自信を見せる。改装後の売り上げ目標は、改装前の330億円から実に170億円も上乗せし、500億円に引き上げた。

 ハルカス「包囲網」?

 西日本最大級のショッピングセンター「阪急西宮ガーデンズ」は平成20年の開業以来、売上高、来館者数とも4期連続で増加。好調ぶりを見せつけている。にもかかわらず、ハルカス開業のタイミングに合わせ、全体の約3割にあたる80店舗をリニューアルする計画。さらに集客力を高めるのがねらいで、改装後の26年度は売上高750億円、来館者数は2千万人を見込んでいる。

 「日本一の超高層ビル」の全面開業に負けじと攻める京阪電鉄、阪急電鉄。対する近鉄のあべのハルカスは、話題性こそ高いものの、入居する近鉄百貨店本店では、昨年6月の一部先行開業から同11月末までの売上高が約643億円と、目標を5%程度下回った。

 低調に終わった背景には「改装工事による影響から、想定以上に館内移動の不便さが生じた」(近鉄百貨店)と分析している。

 当初は1日平均8万5千人の来客を見込んでいたが、実際には5千~1万人ほど低い水準で推移。全面開業を契機に、「消費税増税前の駆け込み需要や、若年層の女性向け服売り場の新装で巻き返しを図りたい」(担当者)考えだが、その道筋は険しそうだ。

 “脱落組”も登場

 関西圏はただでさえ、全国各地から集客できる首都圏と比べ商圏人口は小さいとされる。だが、JR大阪駅周辺地区の売り場面積は26万平方メートルで、東京・新宿の21万平方メートルを上回る極端なオーバーストア状態。少ないパイを奪い合う商業施設間の競争は、厳しさを増す一方だ。

 そんな中、ついに“脱落組”も現れた。JR西日本と三越伊勢丹ホールディングスが共同運営する「JR大阪三越伊勢丹」(大阪市北区)だ。同じ大阪・梅田地区に立地する阪急百貨店梅田本店やグランフロント大阪などとの顧客争奪線で取り残され、開業3年で軌道修正を迫られた。

 「修正」の内容は、売り場面積を現在の約4割にまで大幅縮小し、JR西日本グループが手掛ける隣接の専門店街「ルクア」と一体運営する。店名変更すら検討されており、三越伊勢丹は大阪での百貨店事業から実質“撤退”することになる。

 これまで、各地の流通地図を塗り替えてきたのは、各地のターミナル駅に進出した百貨店だった。三越伊勢丹はその「独り勝ち神話」をも崩壊させ、関係者に衝撃を与えた。三越伊勢丹は軌道修正で再起を図る方針だが、全国屈指とされる激戦地での巻き返しは簡単ではない。

 関西を舞台に、ますます白熱する流通競争。勝利の果実を手にするのはどの鉄道会社か。勝ち残りをかけた各社の知恵比べが続く。(橋本亮)

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