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【底流】「東の雄」三越伊勢丹の誤算 事実上の大阪撤退…そのワケは?

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【底流】「東の雄」三越伊勢丹の誤算 事実上の大阪撤退…そのワケは?

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記者会見する三越伊勢丹ホールディングス(左)とJR西日本の幹部。JR大阪三越伊勢丹は3年足らずで事実上撤退する(コラージュ)  経営不振に陥っていたJR大阪駅ビルの「JR大阪三越伊勢丹」(大阪市北区)が、大幅に売り場を縮小して、来年春に店構えを抜本的に変える。高級な衣服から宝飾までそろえる百貨店業態からは事実上、撤退となる。東京を主要拠点とし、百貨店の「東の雄」に位置する三越伊勢丹ホールディングス(HD)の看板は、大阪では通じなかった。平成23年5月の開業から3年足らず。誤算の背景には、何があったのか-。

 後発生かせず

 「取引先との関係が、うまくいかなかった…」

 不振の理由について、JR大阪三越伊勢丹をJR西日本と共同運営する三越伊勢丹HDの杉江俊彦取締役はこう語る。関西で強いブランド力を持つ阪急百貨店梅田本店と阪神百貨店梅田本店、大丸梅田店がしのぎを削り、百貨店激戦区とされる大阪駅周辺に、JR大阪三越伊勢丹は最後発として参戦した。

 伊勢丹新宿本店(東京都新宿区)や三越銀座店(同中央区)のような“地域一番店”の看板がある首都圏とは異なり、後発のJR大阪三越伊勢丹は、独自性アパレルを中心に有力ブランドを扱う企業を引き付けられず、それが最大の敗因となった。

 在京百貨店の関係者は「ファッションに強い伊勢丹といえども、王者の東京と同じ交渉をしていては、大阪でうまくいくはずがなかった」と指摘する。

 実際、開業前の店舗誘致の段階から、JR大阪三越伊勢丹が目を付けるような婦人服アパレルの売れ筋は、すでにほかの百貨店に押さえられていた。競合する既存3店も、同時期に増床や立て替えを進めており、「際どい誘致交渉もあった」(関係者)という。JR大阪三越伊勢丹は包囲網を切り崩すだけのブランド力を発揮できなかった。

 その弊害は、業績に顕著に表れた。JR大阪三越伊勢丹は阪神百貨店梅田本店と売り場面積がほぼ変わらないが、売上高(平成24年度ベース)は3分1程度にとどまった。

 ある小売り関係者は冷ややかに振り返った。

 「阪急や大丸に入居しているのに、わざわざ商品を出すメリットはなかった」

 戦略にも誤算 

 敗因はJR大阪三越伊勢丹の内部にも潜んでいた。

 大阪とは異なり、活況な伊勢丹新宿本店。ファッションブランドごとの縦割りの展示ではなく、ジャケットやパンツなどを品目別に並べてることで、商品を比較しやすくしている。洋服に関心の高い女性をターゲットにした百貨店としては、斬新な売り場だ。

 大阪でも東京の手法を取り入れ「伊勢丹らしさ」を打ち出したが、一方で旧三越大阪店が顧客としていた60~70歳の富裕層向けの呉服や絵画などの美術品も手厚く展開した。「ファッションの伊勢丹と芸術や文化の三越。両のれんの強みを生かす」(同社)というもくろみが、逆にミスマッチを浮き立たせた。

 商品力が高まらず、客足が遠のき、開業以来の営業赤字が続く-という悪循環は、三越伊勢丹の看板を曇らせるばかりだった。

 規模縮小で復活戦へ 

 大阪進出からわずか3年で事実上の敗北宣言。しかし、「転んでもタダでは起きぬ」とばかりに三越伊勢丹HDは新たな戦略を練る。同社がJR西の意見を踏まえてまとめた再建策の柱は、売り場面積を6割減らし、自らがテナントになることだった。

 担当者は「今後はフルラインの総合百貨店だけではなく、マーケットに応じた出店形態に変えていく」と業態転換の意義を強調する。三越伊勢丹HDが新たな成長戦略として打ち出すのが、中小型店による顧客接点の拡大だ。

 その第一弾として三越伊勢丹HDは、27年に初の中型店を名古屋市に出店する。すでに化粧品に特化した「イセタンミラー」や紳士雑貨の「イセタン羽田ストア」といった小型店を外部展開しており、中小型店の出店で30年度に25年度比20億円以上の増益を目標としている。大阪も改装後は食品とファッションに特化する考えで「今後、展開する中規模店の試金石」(同社)と位置づけた。

 売り場面積の縮小により店舗の賃料が下がるため、JR大阪三越伊勢丹はこれまでに比べ利益を出しやすくなるメリットもある。失敗を糧に、新たな成長の糧をつかめるか。“東の王者”は新たな復活戦に挑む。(中村智隆、松岡朋枝)

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