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グリコ乳業、既存概念振り払い「泡の食感」実現
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グリコ乳業の新感覚飲料「AWARICH(アワリッチ)」。競合相手の多いチルドカップ分野で、「ストローで吸えるホイップクリーム」という独自技術を駆使し、泡の食感を楽しむという価値を提案した。
アワリッチは、クリームとカフェゼリーが混ざり合い不思議な食感が楽しめるデザート飲料「Dororich(ドロリッチ)」(2007年発売)の技術を生かした“進化形”の姉妹ブランドだ。
12年5月、同社マーケティング本部傘下の商品開発研究所や、技術開発部の部署などから約10人が集められた。ドロリッチの売り上げが落ち込んでおり、起死回生の新機軸を打ち出そうと、経営トップの特命を受けたプロジェクトチームが結成されたのだ。
メンバーの一人、同研究所洋生菓子グループの川口亜紀子さん(30)は「スプーンですくって食べるホイップクリームをストローで飲めるようにする、というのがミッションだった」と振り返る。大きな技術改革を要する新商品の開発は通常、2~3年以上かかるとされるが、特命チームはホイップクリームの自社開発を含めわずか5カ月間で新商品の発売にこぎつけた。
このホイップクリームが、その後のアワリッチ開発でも大きな貢献を果たした。当時、マーケティング部では、スーパー、コンビニエンスストアのチルドカップコーナーに新しい価値のある商品を提案したいと考えていた。苦悩する日々が続くなか、同研究所から「ドロリッチのようにホイップクリームを使い、容器を振ることで『泡』の食感を作ることができる」という新しい提案があり、それをきっかけにアワリッチの開発が進んだ。
マーケティング本部洋生菓子マーケティンググループの難波真一郎さん(40)は「ドロリッチを飲んだお客さまから、『ゼリー状の飲料も良いが、ゼリーでなく飲みやすい食感を楽しめるものがあれば』という声があった」と、開発の動機を語る。
また、昨年6月に社内の営業担当者を集めた説明会を開き、透明カップの中で、2層に分かれたホイップクリームとコーヒーゼリーが、強く振ることで泡状に変化した様子を見せた。同本部マーケティング企画室コミュニケーショングループの石田潤さん(36)は「会場内に衝撃が走った気がした」と、記憶に鮮明に残ったという。
混ぜると泡状になる技術は特許出願中で企業秘密だが、凝固素材の配合にポイントがあるという。コーヒーの試作では、振ったときにできるだけ液体に近づくよう、ゲル化剤や寒天、果実に含まれるペクチンなどの凝固素材の配合を100回以上繰り返した。「コンマゼロ何パーセントの調整」(川口さん)で誕生した食感なのだ。難波さんは「コーヒーと抹茶は、それぞれ泡との親和性が抜群。振って泡になった食感はどのメーカーにもまねできない」(難波さん)と自信を見せる。
賞味期限が21日間であることも開発の重要なポイントだった。チルドカップの容器内で、21日間泡の状態で保てるかということが、技術的な壁として立ちはだかった。これは、ホイップクリームを上層に、コーヒーをゼリー状にし下層に配置することなどで、商品輸送時の振動で混ざりにくいように工夫した。「下層を硬すぎず軟らかすぎず、微妙な加減にするのが苦労した」(川口さん)という。
実は、アワリッチの開発は「飲料」ではなく「洋生菓子」部門で進められた。「スーパーなどの飲料棚に新たに商品を置いてもらうためには、既存の概念にとらわれない発想が必要だったから」(難波さん)だ。
洋生菓子グループは、カップからプリンを皿に落とすというヒット商品「プッチンプリン」で、小容量でまとめ買いのできるタイプや、男性向けの大容量タイプ、甘くない味など、次々とユニークな商品を開発し、消費者を魅了した。「創意工夫とこだわりのある商品開発」という同社のDNAは、アワリッチの開発でも十分受け継がれた。
ところで、アワリッチと競合するチルドカップ分野は、コンビニなどのプライベートブランド(PB)が存在感を示しており、飲料メーカーといえども、売り場で新規スペースを確保するのは容易ではない。なにより、これまでにない泡の新食感が消費者に伝わらなければ、手にとってもらえない。
同社が期待しているのはインターネットの動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」だ。表現力の豊かな動画を発信している「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれる動画クリエーター22人に、発売前のアワリッチや新CMで登場する製造機「泡ラ手マシン」を貸与し、自由な発想で動画を投稿してもらう。「アワリッチの新CMのパロディー」や「何回振ったら一番おいしいかを検証する」など、さまざまなアイデアがあり、仕掛け人の石田さんは「振ったら泡になる驚きと、振って飲む楽しさを知ってもらいたい」と話す。
42年の歴史を持つプッチンプリンは13年1月、累計販売個数世界一でギネス世界記録TMに認定された。アワリッチの開発物語はこれから始まる。
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≪TEAM≫
東京都昭島市にあるグリコ乳業の商品開発研究所。一日の仕事は、やかんでお湯を沸かすことから始まる。実験器具などを殺菌するためだ。研究員は、ゲル化剤など材料の配合を示した表を見ながら、計量作業などを行う。できあがった試作品を食べて改良点を議論するという地道な作業から、消費者の心に届く商品ができる。
同研究所は、1968年に前身の中央研究所として設立され、「ヨーグルト健康」や「プッチンプリン」など、数々の商品を作り出してきた。アワリッチの開発チームも、「勢いのある仕事なので、若くて行動力のある人たちが選ばれた」(難波さん)。
技術開発に携わった3人は、若いとはいえ、経験は豊富だ。抹茶のアワリッチ開発で中心となった開発研究企画グループの岡村岳さん(28)は、ドロリッチとプッチンプリンを担当。川口さんは2008年の入社後すぐにドロリッチの担当になり、プッチンプリンも手掛けた。川口さんと同じ部署の加藤亮祐さん(27)は、入社時に1年だけ果汁飲料の開発を担当したことがあり、その後、洋生菓子の開発に携わっている。「飲料という発想ではなく、デザートの新しい食べ方の提案をしたい」(川口さん)、「ストローで飲む泡の飲料の開発はとても魅力的だった」(加藤さん)と、意欲を燃やしてきた。
同社は4年前、「現在の市場にはない新しい価値を持った商品の研究開発」を進めるため、同研究所内に開発研究企画グループを設置している。岡村さんは、アワリッチの抹茶を作るに当たり、お茶を使ったデザートを扱う店や茶葉の販売店を訪れ、最前線の現場で感性を磨いてきた。
研究員は、良い原料を使って良い商品を作りたいが、販売価格が上がることになる。価格に見合った商品になるのかという観点から、難波さんらマーケティング本部との議論が過熱することも度々あったという。「こういった真剣な議論こそが商品の魅力を生み出す源泉となると考えている」(難波さん)。
アワリッチは今後どうなるのか。コーヒー、抹茶は、泡との相性がいいことは想像がつく。難波さんは「今後は泡とのイメージがでてこない何かを試してみよう、というのもありうる」と話す。消費者の想像力を超えた「飲んで驚きのある」(加藤さん)ブランド作りがこれからの課題だ。
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≪MARKET≫
国内メーカーの熾烈(しれつ)な競争が続く飲料市場で、「洋生菓子」に分類されるアワリッチが競合するのは、乳等省令で定める乳飲料だ。
富士経済によると、乳飲料の市場規模はここ数年横ばい傾向で、2013年の販売額(見込み)は前年比1.0%増の2879億円だった。だが、15年には前年比0.4%減と予測されており、今後の市場の見通しは予断を許さない。
プラスチックカップを使用したチルドカップ市場は、森永乳業の「マウントレーニア」や、サントリー食品インターナショナルの「スターバックス」が牽引(けんいん)したものの、08年ごろから成熟期に入ったとされる。グリコ乳業はこれらの強敵に挑むべく、ドロリッチやアワリッチを投入してきた。
一方、コーヒー市場は活気づいている。コンビニエンスストア各社がレジ横で煎り立てのコーヒーを提供する「カウンターコーヒー」という新分野が登場。さらに、スーパーなどによるプライベートブランド(自主企画、PB)の投入が活発化している。
このため、チルドカップの乳飲料市場への影響が注目されるが、「カウンターコーヒーでは、カフェオレなどのコーヒー系乳飲料を導入しておらず、影響は軽微だ」(業界関係者)との見方が強い。
チルドカップは製造から運搬、販売まで一貫して低温を保つため新鮮な味わいが楽しめる。グリコ乳業は、アワリッチの新感覚の食感で新市場を切り開くことに期待をかけている。
≪FROM WRITER≫
開発物語の取材で難しいのは、研究員の方が開発に至る苦労を聞き出すことだ。グリコ乳業の商品開発研究所でも、成分の計量や配合、試作という作業が繰り返されている。取材する側は、開発のポイントとなった研究員のやりとりや特筆すべき技術的な点などを聞き出したいのだが、肝心な部分は「お話しできません」となってしまう。
アワリッチの場合、開発の重要なポイントは、自社開発のホイップクリームだった。川口亜紀子さんは「アワリッチを飲んだときの泡の食感というのは、グリコにしかできないホイップとゼリーを混ぜることで初めてその食感になる」と話した。だが、どうやってホイップクリームが完成したのかについては、残念ながら聞き出すことができなかった。
ただ、川口さんら研究員が「飲料」ではなく、「洋生菓子」の専門知識があったことと、「既存の概念にとらわれない発想」が、アワリッチを誕生させたことだけは確かだろう。地道な研究開発の舞台裏をきっちりと取材することで、研究員の秘めた思いを読者に届けたいと考えている。(鈴木正行)
≪KEY WORD≫
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ホイップクリームとゼリーの2層構造で、飲む前に7~8回強く振ると、両者が混ざり合ってふんわり滑らかな泡の食感が楽しめる飲料に変わる。4月7日から発売。コーヒー(180グラム入り)と抹茶(170グラム入り)の2種類がある。希望小売価格は175円(税別)。