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【開発物語】花王「クイックルワイパー」
更新
店頭に並ぶクイックルワイパー ■主婦の発想が商品化のヒントに
≪STORY≫
10月に発売20周年を迎えた花王の掃除用具「クイックルワイパー」。掃除の中でも、床の雑巾がけは腰痛の人や妊婦にとってつらいもの。軽くて、ほこりや髪の毛などを簡単に取れるクイックルワイパーは、発売と当時に消費者の心をつかんだ。掃除の負担は減らしつつ、「しっかりきれい」が実現できる。人はそれを「床掃除に起きた革命」と呼んだ。
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開発が始まった1987年、一般家庭ではフローリングの床が普及していた。だが、畳やカーペットに比べて綿ぼこりや髪の毛が目立つため、こまめな掃除が必要だ。花王は「立ったままで簡単に掃除できる新しい方法」をコンセプトに知恵を絞った。
当時の開発担当者が着目したのは、「カーペットに付いた髪の毛やほこりはどうしてなかなか取れないか」だった。導き出した答えは「カーペットで掃除すれば、そこにほこりがくっつくのでは」(柳田浩幸・ホームケア事業グループ開発マネジャー)。逆転の発想が、クイックルワイパー誕生の原動力となった。
素材として、花王がおむつや生理用品などの衛生用品で使っていた不織布が候補に挙がった。不織布は「織っていない布」のことで、複数の素材を組み合わせて耐久性や吸水性、軽さなど、用途に応じた機能を持たせることができる。開発担当者は、自社の不織布に関する情報を活用するなどして、髪の毛やほこりを吸着するような素材「スパンレース」にたどり着いたのだ。
モニターの主婦らに提供した試作品は、カメラの三脚の脚を使った柄の先にスポンジを付け、そのスポンジに不織布を巻いたもので見栄えがしなかったという。しかし、“魔法”のようにほこりなどを吸着し、白い不織布は真っ黒になった。評判は上々で、「早く商品化して」との声も寄せられた。
だが、市販するには大きな課題があった。スパンレースは、吸着性能を高めると強度が弱くなり、破れやすいという欠点があったのだ。立体構造にするというアイデアもあったが、当時の製造技術ではコストがかかり採算が合わない。
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そんな中、開発者の一人が入浴中、格子状に並ぶ浴室のタイルを見て、「目の粗い格子状のネットに不織布を絡ませたら」というアイデアがひらめいた。そして、格子状のポリプロピレン製ネットにスパンレースを絡ませたシートの原型が誕生したのだ。
このシートを使い、掃除しやすい製品を完成させるためにも試行錯誤した。取っ手とシートをマジックテープでとめる方法など、いくつかの方法が候補に挙がったが、いずれもぴったりしない。
この苦境を助けたのは、結婚退職した元花王の女性社員だった。かつて開発部門にいたことがあり、彼女を再び開発チームに起用し、主婦の目線からアイデアを出してもらったのだ。「片手で楽々操作できる」「テレビ台の下の隙間も掃除できる」など、簡単に掃除ができるためのヒントが次々と浮かんだ。開発チームは、取っ手にアルミパイプを採用したり、シートを装着するヘッドの厚さをなるべく薄くしたりするなど工夫を重ねた。こうして92年、ようやく納得できる試作品ができあがった。
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最後の関門は、社長や役員による“試験”だった。当時、役員宅の多くはカーペット敷きで、開発担当者が想定していたフローリングの床はほとんどない。そこで、建て替えたばかりの研究所長宅のフローリング床で試作品を使っている様子をビデオ撮影し、社長らに商品化の許可をもらった。
94年2月に静岡県内限定で発売したところ、「立ったままで簡単に拭き掃除ができる」など、口コミが徐々に広まり、数カ月後には完売する店も出た。うわさを聞きつけて首都圏から買いに来る人や、まとめ買いする人も現れ、同年10月に全国発売に踏み切った。
花王の挑戦は、「フロア用掃除用具」という新しい市場を生み出した。一時は模倣品が台頭して苦戦を強いられたこともあった。しかし、ウエットシートや香り付きのシート、さらに小物などを掃除するハンディータイプなど多彩な製品を投入。「いつでも、誰でも、サッと手軽に使える」掃除用具という、ブランドイメージを浸透させていった。
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■ニーズに応えラインアップ強化
≪TEAM≫
テレビを見ながら、電話をしながらでも、立ったままで楽に拭き掃除ができるクイックルワイパー。発売開始から6年後の2000年度には累計2000万本の販売を達成。その時点での世帯普及率は45%に達する大ヒットとなった。
ところがこのころから、同製品の模倣品が出回るようになった。中にはパッケージのデザインや製品名がそっくりなものもあり、「クイックルワイパーを買ったのに、まったく汚れが取れないじゃないか」といった苦情が花王に次々と寄せられた。
「花王の社員が苦情を申し出た家に出かけて、その製品を見せてもらうと、クイックルワイパーという文字がどこにもない模倣品」(柳田浩幸開発マネジャー)が大半だった。花王は道具やシートの構造などで特許を取得していたが、模倣品の多くは品質に大きな違いがあった。
間違って模倣品を購入してしまう人が多かったため、花王は新聞広告などで、消費者に対し模倣品への注意を呼びかけた。知的財産の部署を中心に販売店の協力を得ながら、海外からの模倣品の流通経路を突き止め、税関当局に対し、輸入差し止めの申請をした。
ただこれだけで模倣品を完全に取り除くのは不可能。デフレが続き消費者の価格志向が高まり、純正品でなくても安ければ構わないと考える消費者が多かったからだ
そこで花王はもっと消費者ニーズを吸い上げて、商品のラインアップを強化する戦術に出た。まず最初に乗り出したのは掃除用具の改良。4本の棒をねじで接合して組み立てる方式だったが、そのねじが緩むと曲がってしまうこともあったため、棒の端部同士をはめる方式に替えた。
さらに11年にはヘッドの構造も一新。平面だった裏面の形状を凹凸にしたうえで、新開発の「クッションヘッド」を採用。床面にしっかりとフィットさせることで、シートの全面でほこりや髪の毛をたっぷり集め取るようにした。さらに、取っ手の部分には、壁に掛けても倒れにくいラバーキャップを付けた。
一方、さまざまなニーズに応えられるよう、シートの種類を増やしている。当初はドライシートだけだったが、00年にはウエットシートが登場。さらに05年に捕集力をアップさせた立体吸着ウエットシートを投入。12年には香り付きのシートもお目見えした。
一連の商品力強化策が奏功し、00年ごろから09年にかけて、クイックルワイパーの売上高は前年実績を下回っていたが、10年以降は上回り続けている。付加価値の高いもの、消費者が欲しいと思ってもらえるものを開発して市場に出した結果が実を結んでいる。
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■シェア7割「市場規模は拡大基調」
≪MARKET≫
花王の独自推計によると、フロア用掃除用具の年間市場規模は約130億円に達した。花王の市場シェアはここ数年、6~7割前後とみられる。新築住宅でフローリング床の普及が広がっていること、共働き世帯の増加などから、「市場規模は拡大基調にある」(竹内賢一・ホームケア事業グループブランドマネジャー)とみている。
これまで性能や仕様の強化に取り組む一方で、この新しい掃除道具を広めるため、発売当時から使い方の啓発に力を入れてきた。当時では珍しい使い方の紹介ビデオを店頭で流したり、社員自ら実演販売を行った。
CMキャラクターには、俳優の阿部サダヲさんを起用。製品の開発担当者「ドクター・クイックル」という設定で、CMと特設サイトを通じて、製品の特長や使い方をわかりやすく紹介している。さらに今秋からは、近年の清潔意識の高まりを受けて、「ほこりは菌やカビのたまり場」であることを伝え、ほこりを舞い上げない手軽な掃除を提案している。
クイックルワイパーを含む掃除用具は例年、年末の大掃除を控えた10~12月が商戦のピーク。花王は11日、8枚入りと16枚入りの立体吸着ウエットシートと香り付きシートに、32枚入りのたっぷり使えるサイズを新たに投入した。競合社にシェアを奪われないよう、矢継ぎ早に手を打っている。
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≪FROM WRITER≫
クイックルワイパーのヒットの要因は、家事とはほど遠かった男性も気軽に掃除できることにあるのではと思う。
年末の買い出しやおせち料理作りなど、お正月を迎える準備はたくさんある。しかし実際には「ゆっくり休みたい」という気持ちが先に立ち、なかなか準備が進まない。ごろ寝している夫が妻に「これで掃除して」と起こされ、クイックルワイパーを持たされたという話もよく聞く。
実際に使ってみると、掃除が苦手な人にとって、テレビを見ながら、電話をしながらでも、立ったままの姿勢で掃除できるので、疲れが残っていても楽だ。
さらにマンション住まいの人にとっては、夜中に掃除機をかけることに気が引けるが、クイックルワイパーでの掃除は静か。いつでも気が向いたときに掃除ができる。フローリング床の普及だけでなく、そうした住生活環境の変化をうまくとらえたのが、ヒットの要因だろう。
20年前、クイックルワイパーの発売開始時、ライバルはリース会社による化学ぞうきんだった。今は家電メーカーの掃除機、全自動の掃除ロボットがライバル。もはや、日用品の枠を超えた存在感を示す。
模倣品はシートがすぐに破けたり、取っ手が折れたりで使い物にならず、結局、純正品を使った方が掃除もはかどる。本物の良さを実感させてもらえた。(松村信仁)
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≪KEY WORD≫
■花王
1887年創業の日用品メーカー。家庭用や業務用の洗剤や漂白剤のほか、化粧品、紙おむつ、生理用品、衣料用消臭剤、洗顔料、シャンプー・リンスなど多彩な日用品を手がけ、その多くが国内シェア(市場占有率)の上位を占める。
近年は体脂肪をエネルギーとして燃焼しやすくする「ヘルシア」シリーズなど、機能性飲料も販売する。消費者ニーズに基づく製品開発力、マーケティングには定評があり、国内外に多くの工場や販売拠点を持つ。2013年12月期の売上高は1兆3152億円、最終利益は648億円。