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【視点】産経新聞編集委員・芳賀由明 日本郵政、上場まで1年足らず

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【視点】産経新聞編集委員・芳賀由明 日本郵政、上場まで1年足らず

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 ■急がれる全社的な意識改革

 小泉純一郎首相が政治生命をかけて成立にこぎつけた郵政民営化が、10年もの月日を経てようやく現実になろうしている。強引な完全民営化路線は自民党議員の大量造反を生み、第一次安倍晋三政権になっての復帰、さらに民主党政権に代わって大きく揺り戻された末の3党合意。巨大官業の民営化の必要性と、ユニバーサル(全国均一)サービスを軸とする郵便事業維持という水と油の政策の衝突だったといえる。

 政争に揺さぶられた日本郵政は経営体制が2度入れ替わる混乱が続いた。曲折の末に動き出した巨大郵政民営化は、政治に翻弄された「失われた10年」を取り戻す総決算となる。

 日本郵政の西室泰三社長が26日に発表した株式上場計画は、持ち株会社の日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社が来年秋に同時上場するという前代未聞の上場スキームを描く。

 幹事証券会社が11社に上ることも含め、異例づくしの大型新規株式公開(IPO)の成否を内外の市場関係者が注目するが、最も注目すべきは3社のNTT以来といわれる上場規模の大きさより、日本郵便がどれだけ新たなサービを生み出し、全国2万4000カ所に張り巡らされた郵便局ネットワークに血脈を通わせることができるかどうか、である。

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 日本郵政が巨大官業の衣を脱ぎ捨てて官業から民業への試みは、実は日本郵政公社が発足した2003年に始まっている。生田正治総裁の号令一下、現場では収益改善を狙ったさまざまな営業努力や地域貢献が試行錯誤されていた。ローソンとの提携事業もこの年にスタートした。しかしその後、経営体制が揺れ動くなかで、現場の意識改革の芽の多くがしぼんでしまった。

 東日本大震災で大津波が市街地を襲った岩手県陸前高田市。もうじき被災後4年が過ぎようとする現地を12月中旬に訪れると、住宅地建設のための高台整地でさえ4、5年はかかるともいわれ、本格的な復興までどれだけかかるか見当も付かないという。

 津波に襲われて郵便ポストの支柱と入り口の階段を残して局舎が跡形もなく消えた米崎郵便局は7月、イオンの駐車場の一角に新局舎を建てた。震災後復興支援を目的に現地に出店したイオンと集客の相乗効果を目指したコラボレーションは着実な成果をあげており、「来客数が増えて、郵便や貯金、保険の取り扱いも5割増えた」と黄川田正洋局長も喜ぶ。

 スーパーの駐車場に建つ郵便局は日本初という。震災復興という特殊事情が背中を押したとはいえ、黄川田局長の申し出を受けた日本郵便本社では当初、「前例がない、と慎重な意見もあった」(日本郵便幹部)という。いま、この郵便局は「地元住民の利便性向上に大きく役立っている」(黄川田局長)。

 日本と海外をつなぐ国際郵便物の玄関口であり、物流ネットワーク再構築の象徴として13年5月にオープンした川崎東郵便局。通常時で1日に国内約130万通の郵便、ゆうパック10万個、国際郵便38万通を扱う同局では、7つの部の1300人が毎日のように「異動」する。

 国内と国際で時間帯によって取扱量が大きく変動するため部間の壁を取り払った人員配置を毎日行っているという。03年まで役所だった日本郵政グループは組織の縦割り意識が強く、他の部の仕事に手を出すのはご法度。川崎東局の取り組みは「郵便物の先にお客さまがいる」という葛西一夫局長が率先し、本社や労組の理解を取り付けて実現したものだが、これだけ大規模な組織に横串を通すのは民間企業でも異例だ。

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 ゆうパックが好調とはいえ、日本郵便の収益拡大策はまだ不透明。自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(野田毅会長)は政府の地方創生に郵便局ネットワークの活用を模索するが、具体策は見えてこない。

 上場まであと1年足らず。現場で芽生えた“脱官業”の取り組みを吸い上げて横展開できる柔軟な組織に変わるには、「コンサバ(保守的、官僚的)な幹部が多い」という現場の嘆きに応えて、役員も意識改革を急いだ方がいい。

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