ニュースカテゴリ:企業
経営
【エンジニア革命】「マネジメント」力で飛躍
更新
商品開発者にとって、節目、節目で、今後どうするかを考え、決断することが重要だ(AP、イメージ) □エレクトリフィケーションコンサルティング代表・和田憲一郎
■重要局面では一呼吸置き全体見渡せ
商品開発に携わる者にとって、次第に開発が佳境に入り始めると、毎日がまるで嵐に遭遇したような状態になる。迫りくる日々の業務を片付けることで精いっぱいになる。しかし、責任者の場合はそれだけでは済まない。重要なのは節目、節目にあたる部分で、今後どうするかを考え、決断することではないかと考える。そのことの重要性について考えてみたい。
重要局面といえば、クルマで例を挙げると、数多くのイベントの中で最も重要で感動的なのが、試作車が初めてできたときではなかろうか。今までのデザインによるクレイモデル、設計によるCADモデルと、幾度となくイメージを膨らませてきたが、やはり実物の試作車に勝るものはない。
◆「クルマが生まれるとき」
自動車業界の方はよくご存じであるが、試作車の組み立てができたからといって、いきなり走らせることはない。最初はスタティック(静的な)確認であり、数万点に及ぶ部品の欠品はないのか、ハーネスの結線は間違っていないのか、コンピューターは所定の機能どおり動くのか、などなど数多くのチェックリスト項目を確認していく。これらの機能確認は、通常でも2~3週間、欠品や機能不具合があると1カ月以上に及ぶ。
スタティック確認は、従来の延長上にある車両と、まったく初めての車両とでは、確認する項目そのものも異なる。最近で言えば、おそらく燃料電池車などはかなり長い時間を掛けて、機能確認を行ったのではないだろうか。ましてや、これから出てくる自動運転車などでは、なおさらであろう。
そして、スタティックな確認が全て完了して、いよいよ実車の「IG-ON(点火装置のオン状態)」となり、ダイナミック(動的な)確認に移る。クルマとして本当に機能しているのかどうか、最もドキドキする瞬間である。まさに、クルマが生まれる瞬間ともいえる。
また、ダイナミック確認が始まっても、各種走行までにいろいろな確認が続く。走行しようとすれば、メーターやディスプレーにエラーが表示されたり、ある機能がうまく作動しないなど数々のトラブルが生じる。これらは実験部門を中心に、各種改良を重ね、ようやく走行試験に入ることとなる。
さて、このような時、責任者はどのようなことに注目すべきであろうか。もちろん、試作車の評価や次にスケジューリングされている項目を検討することも大切である。しかし、それより、このような節目の段階では、一旦立ち止まって、過去・現在の状況を振り返り、環境が以前と変わっていないか、これまでの進め方は良かったのか、今後も計画どおりで進めてよいのかなどを考えることが大切であろう。
さらに、チーム体制や、コラボレーションの必要性、事業性、リスクマネジメントなどを総合的に考え、次の山に向かってどうすべきか、一旦呼吸を整える時間が必要ではないかと思う。
なぜなら、それまで全力疾走で走ってきた場合、目の前のことに注力するあまり、全体像を確認する時間が十分でない場合が多い。ある意味、戦術に特化してした時期であり、今一度全体を把握し、戦略を見直すチャンスがあるとすればこの機会であろう。
◆「立ち止まり、態勢を整える」
これと類似のことを、塩野七生さんは『ローマ人の物語』で語っている。古代ローマ帝国の軍団は、強力な敵と対峙(たいじ)するとき、号砲が鳴り相手に向かって疾走していく。しかし、ある距離まで離れたところまでくると、自然にそこで立ち止まることが多かったようだ。つまり、それまでの全力疾走により乱れた隊列を集結して立て直し、態勢を整えて一呼吸置いた上で、チーム一丸となって攻撃することが得意だったとか。
確かに、戦いは戦闘時の陣形が大きくものを言う。このため、バラバラに動くのではなく、陣形を整え、整然として立ち向かうことの重要性を認識していたのであろうか。
新商品開発においても、責任を預かった人は、ここぞという場面で、過去・現在・未来を俯瞰(ふかん)し、戦略の再構築を考えることは大切な仕事であろう。新年を迎えるにあたり、考えてみたい事柄である。
◇
【プロフィル】和田憲一郎
わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャー、EVビジネス本部上級エキスパートなどを歴任。13年3月退社。同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーションコンサルティングを設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。58歳。福井県出身。