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【ITビジネス最前線】スーパー行かずスマホで買い物
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買い物をする「ショッパー」たち(インスタカート提供) ■インスタカート 生鮮食品宅配で注目
多くの人が煩わしいと感じる家事の一つが、生鮮食品の買い物。週に3回、近所のスーパーに出かける人も、たとえそれが月に3回だけという人も、楽しんで買い物できる人は珍しい。
米国のサンフランシスコで2年半前に創業したinstacart(インスタカート)は、そんな日々の煩わしさから人々を解放することを目指す。ウェブブラウザはもちろん、アップルの基本ソフト(OS)「iOS」やグーグルの「アンドロイド」対応のアプリを使えば、ボタンを数回タップするだけで地元の食料品店から当日宅配を注文できる。
注文プロセスはシンプルでユーザーの使い勝手に配慮されている。まずサイトかアプリで自宅の郵便番号を入力して、サービスを利用できる地域か確認する。次に好みのスーパーを選択し、必要な商品を選択して総額をクレジットカードで支払う。
インスタカートは、新規ユーザーの初回注文について配達料金無料をうたう。次回注文時からは、いくつかのオプションから自分に合ったものを選択する。35ドル(約4100円)以下の注文なら1時間以内の配達に9.99ドル、2時間以内なら7.99ドル。まとめて35ドル以上買い物する場合は、1時間以内で5.99ドル、2時間以内なら3.99ドルで済む。インターネット通販大手、アマゾン・コムのアマゾン・プライムを参考にしたインスタカート・エクスプレスの会員になれば、年間99ドルの定額料金で、35ドル以上の買い物の配達料金が無料になる。
◆個別対応も選べる
買い物をするのは身元調査と研修を経て採用された愛想の良い「ショッパー」たち。ユーザーは欲しい商品が棚になかった場合の対応など細かな設定を注文時に決められる。代わりに似た商品を購入してもらうことも、売り切れ商品をキャンセルすることもできるし、ショッパーに売り場から電話をかけてもらって相談するという個別対応も選べる。実際にスーパーに行かなくても良い買い物体験ができるよう努めている。
創業者のアポルバ・メタ、ブランドン・レオナルド、マックス・マレン各氏は異なるバックグラウンドを生かし、2年半でインスタカートを急成長させた。最高経営責任者(CEO)のメタ氏はカナダ出身、アマゾンで経験を積んだ。サンフランシスコ・ベイエリアでサービスを完成させ、2014年に全米15の主要都市への展開を成功させた同社は各地でショッパーを採用して人々の買い物を助けている。14年の収益は4億ドルというから、投資家はさぞ喜んでいることだろう。
インスタカートが、起業養成のYコンビネータ出身だと聞いてもなにも驚かない。資金面でも順調に調達を続け、年末には新たに2億2000万ドルを調達した。調達先には半年前の投資ラウンドに続いて、コースラ・ベンチャーズ、アンドリーセン・ホロウィッツなど有名ベンチャー投資企業の名が並ぶ。企業評価額が20億ドルを超えたというインスタカートが近いうちに買収されることはなさそうだ。
サービス革新は止まらない。食事の準備をより便利にするため、インスタカートは新年早々、レシピサイトのYummly(ヤムリー)との提携を発表した。ヤムリーは1500万のアクティブユーザー数を誇る急成長中のレシピ検索プラットホームで、写真共有サイトのピンタレストに似た作りでレシピや調理法、お勧めの料理を簡単に探せるとして人気を集めている。iOS、アンドロイド、ウィンドウズ端末ではアプリが利用できる。
5日に公開された連携サービスでは、ヤムリーのユーザーがレシピを検索してメニューを決めれば、必要な食材や調味料がインスタカートで1時間以内に自宅に届く。サービスの継ぎ目ない利用体験のために、ユーザーはiOS端末でヤムリーとインスタカート両方のアプリをダウンロードしておく必要がある。
ヤムリーの創業者でCEOのデイビッド・フェラー氏は「生鮮食品販売の戦略的パートナーとしてインスタカートを選択したのは、同社が驚異的なスピードで機敏に革新と拡大を続けているから」と説明している。今後同様のサービス連携は進むものと思われる。
とはいえ、今すぐスーパーでの買い物をインスタカートでのスマホショッピングに切り替えると決断するのは気が早い。インスタカートでは1回の注文につき、スーパーで買い物をしたときの料金に平均約2割上乗せされているようだ。競合のアマゾン・フレッシュやニューヨークのフレッシュ・ディレクトなどと比較すると割高になる。また、米国で一般的に利用される食料品クーポンがインスタカートでは使えないことも難点だ。
◆物流手段に強み
しかし、インスタカートが際立っているのは何よりもその物流手段である。同社を「ソフトウェア企業」と言明するCEOのメタ氏は、特定の小売店や食料品店と結びつきを強めず、ホールフーズやコストコなど複数の小売店と手を組み、在庫を抱えることなくネットスーパー事業を極めようとしている。ユーザーは普段買い物をしない食料品店で我慢しなくても、店舗横断的に好きな店で好きな商品を買える。スーパーからスーパーへ走り回る必要もない。
米国では大型スーパーへの交通手段がない若者らに支持が広がりそうなサービスだ。日本では生協の宅配サービスや小売店・百貨店のネットスーパー、有機野菜の宅配サービスなどが利用されている。過疎地域や被災地では移動販売車が役立つという。インスタカートのような店舗横断的な仕組みにも成長の可能性があるのではないか。
生産性を高める技術は次々に生まれ、一般の消費者にとっても身近な存在になりつつある。しかし、消費者はこれまでの習慣をがらりと変えるのを嫌うということを、企業は理解しておかなければならない。同じスーパーで毎週同じ物を買って似たような夕飯を作る。インスタカートは、技術の力で私たちをもっと怠け者にしてくれそうだ。
文:イジョビ・ヌウェア
訳:堀まどか
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【プロフィル】Ejovi Nuwere
イジョビ・ヌウェア ニューヨーク生まれ。無線LAN共有サービスFON創業者の一人。ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出される。ネットマーケティングのランドラッシュグループ株式会社、アジアと英語圏で展開するオンラインバイリンガル秘書サービスのKaori-sanを創業。