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【第24回地球環境大賞】トヨタ自動車(2-1)水素社会の礎ひらく燃料電池車
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田中義和氏 □トヨタ自動車 製品企画本部 チーフエンジニア・田中義和氏
■「ミライ」販売好調の背景 予想超える個人需要、政策も後押し
トヨタ自動車が昨年12月に世界初の市販モデル燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を発売してから約3カ月。法人、個人客から強い引き合いがあり、今発注しても納車は2018年以降という人気ぶりだ。燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて電気をつくり、モーターで走るFCVは、走行中に水しか出さないため“究極のエコカー”と呼ばれ、フジサンケイグループ主催の第24回「地球環境大賞」のグランプリに輝いた。開発責任者である同社製品企画本部チーフエンジニアの田中義和氏に「ミライ」の未来などについて聞いた。(月刊ビジネスアイENECO編集長 本田賢一)
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--お客さまの反応は?
「展示会などでの反応を見ていますと、評判はかなりいい。これだけの評価をいただいているポイントは2つあり、1つは外見と内装の先進感。もう1つが、実際に乗ったときに静かでよく走るということがあります。ミライは単にクリーンな車ということだけでなく、乗って楽しい車になるよう開発してきました。それをお客さまが感じていただき、開発側としては大変うれしいです」
--15年の生産台数700台に対し1月14日時点で約1500台受注。この数字をどうみますか
「過分なほどの注文をいただき、夢見心地です。もちろん、開発する側はこれぐらいの反応が出るものをつくろうという気概を持ってやってきましたが、発売前は、買ってもらえないのではないかという思いも社内にはありました。かなり高額な車ですし、燃料の水素を充填するための水素ステーションの整備が途中であるというインフラの制約もありました。そのような車を購入していただける方が1000人も2000人もいらっしゃるとは思ってもみませんでした」
--受注の内訳をみると、意外にも個人客が多い
「官公庁、自治体、法人と個人がほぼ半々ぐらいです。メディアのみなさんは、ミライは特殊な車なので法人などがイメージ戦略で購入されるだろうと思っていらっしゃったようです。当社の営業サイドも実はそう思っていました。しかし私は、環境意識の高いエグゼクティブにこそ購入していただきたいという思いで開発してきました。個人のお客さまに購入していただかないと、(販売が)長続きしないからです。納車までかなり時間がかかりますが、それでも購入したいと考えてくださる個人のお客さまが全体の半数ほどいるということは、心強い限りです」
■17年には年産3000台を目指す
--納車までの期間は?
「今注文をいただいても、納車は18年以降になります。これだけの高い評価をいただきながら、納車まで約3年かかってしまうというのは本当に心苦しい限りです。現場サイドでは、今の生産態勢で少しでも早くお客さまに納車できないかという話をしています」
「先ほど受注は法人と個人がほぼ半々と言いましたが、納車まで約3年待ちということで購入に踏み切れない個人のお客さまが私のまわりにもいらっしゃいます。それを考慮しますと、ミライの需要は法人より個人の方が多いと思われます」
--地域別で受注が多いのは?
「一番多いのが愛知、次いで東京、以下、福岡、神奈川、兵庫、大阪の順です」
--1日何台生産している?
「1日3台です。当社では、燃料電池車の基幹部品であるFCスタック(燃料電池)や高圧水素タンクなどを内製化しており、それらを一つひとつ確認しながらしっかりつくっているため、どうしても生産台数は制約を受けてしまいます。ミライは新技術の車なので立ち上げ当初は特に品質最優先で、慎重かつ大事につくっていかなくてはなりません」
--生産態勢を大幅に強化します。さらに上乗せすることはある?
「現時点では分からない、というのが正直なところです。当初、年産700台という計画だったのを、発売からわずか1カ月の段階で16年に同2000台程度、17年には同3000台程度と大幅に拡大すること自体、異例のことですから」
「現在の燃料電池車が第1ステップとしますと、2020年ごろには次のステップに入ることになると思います。このときにはお客さまの支持にきちんと応えられる生産態勢にしなくてはならないと考えています」
--受注好調の要因は?
「(豊田章男)社長も言っておりますが、日本のモノづくりの強みをこの車により強く出していきたい、乗って楽しい車をつくりたい、未来の世代の人たちにもぜひ乗ってもらいたい-そのような純粋な気持ちでミライをつくりました。そうした私たちの姿勢を前向きに受け止めていただいたのではないかと思います。さらに、安倍(晋三)首相の水素エネルギーを成長戦略の柱の一つにするという強いリーダーシップや、舛添(要一)東京都知事の2020年東京五輪に向けた積極的な水素関連政策などによって、いろいろなうねりが起き、それがミライの好調な初期受注につながったとみています」
◆海外でも高い評価
--海外の反応は?
「欧米では今年秋から販売予定ですが、米国トヨタ自動車販売が左ハンドルのプロトタイプ(試作車)の燃料電池車で事前のマーケティング調査を行っています。現地のジャーナリストや大口顧客に乗っていただいたところ、その反応は日本に似た感じでした。また、昨年11月に米カリフォルニア州でミライの発表会を実施した際、試乗会を行ったのですが、デザインや乗り心地、内装で高い評価をいただきました」
--販売好調を受け、燃料電池車の普及期は早まる?
「燃料電池車の想定される普及期は2025年とか2000年代半ばとか言われていますが、何万台オーダーで安定的に買ってもらえるかどうかは、私たちがよりいい車をお手ごろの価格で提供し、さらに水素ステーションなど水素の供給網が整備されていくかどうかにかかっています。ただ、車の売れる、売れないは経済合理性によるところが大きいのも事実です。例えば、ハイブリッド車プリウス。2代目、3代目と燃費性能をはじめ車両を進化させたことが前提となりますが、国内市場では、税制優遇に加えエコカー補助金を出していただいたこと、さらには原油高に伴うガソリン価格の高騰もあって燃費のいいプリウスが爆発的にヒットし、特に3代目は2012年まで車名別年間販売台数で首位を獲得しました。一方、現在、米国では、(原油安やシェール革命で)ガソリンが安くなっていることもあり、トラックやSUV(スポーツ用多目的車)系を中心に販売が好調です」