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【ビジネスのツボ】コクと飲みやすさ両立の缶コーヒー

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【ビジネスのツボ】コクと飲みやすさ両立の缶コーヒー

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「プレミアムボスブラック」を開発した伊藤将絋さん(左)と鵜飼太祐さん=東京都中央区のサントリー食品インターナショナル  □サントリー食品インターナショナル「プレミアムボス ブラック」

 コンビニエンスストアのカウンターコーヒーや、産地を重視した豆で焙煎(ばいせん)や抽出にこだわる「サードウエーブ(第3の波)コーヒー」の流行など、活気づいているコーヒー市場で、守勢に立たされている缶コーヒー業界。サントリー食品インターナショナルは「プレミアムボス ブラック」を3月に発売し、消費者に人気のあるボトル缶や、ドリップコーヒーに匹敵する「複雑なコク」で復権を狙う。開発チームは、缶コーヒーの特徴である「すっきりした飲みやすさ」がありながら、ドリップコーヒーの「コク」を両立させるという困難な課題に挑んだ。

 ◆嗜好の変化に気づく

 コーヒー愛飲家の嗜好(しこう)が変化している-。サントリー商品開発部の伊藤将紘さんは、開発に携わっている缶コーヒーの将来に危機感を感じていた。

 消費者にさまざまなコーヒーの飲み方が広がり、コクや飲みごたえのある味わいが好まれ始めた中で、缶コーヒーが提供している味わいについて、消費者の期待に十分応えていないのではないかと感じ始めていたからだ。

 飲みごたえのある濃い味にするためには、深煎(い)り豆を贅沢(ぜいたく)に使えばよい。ただ、苦味も強くなってしまう。伊藤さんは「300~400グラムの容量の大きいボトル缶では飲み切ることができない」と考えた。コクと飲みやすさの両立は難しい、というのが開発サイドの固定観念だった。

 目指す味のヒントが得られたのは2014年4月。伊藤さんは、コーヒーの最先端の街、米国ポートランドに出張した。サードウエーブ発祥の地といわれ、個性のあるコーヒー店が立ち並ぶ。伊藤さんは約20軒の店を回り、気づいた。「常連のお客さまによく飲まれているコーヒーは、しっかりコーヒー感がありつつ、ずっと飲んでも苦味が後に残らない」。香りや味をしっかりしながら、飲み続けられる味にするための手がかりをつかんだ。米国のドリップコーヒーをライバルとして、コーヒーづくりに挑む心構えができた。

 同じ頃、BOSS(ボス)ブランドのマーケティングを担当しているブランド戦略部の鵜飼太祐課長も、缶コーヒーの将来に危機感を持っていた。

 サントリーの調査では、これまでの缶コーヒーに求められていたのは、すっきりした飲みやすさだった。それが、カウンターコーヒーなどの飲み方の普及に伴い、缶コーヒーとカウンターコーヒーを併飲する消費者が増え、「缶コーヒーにも淹(い)れたてコーヒー特有のコクを求めるようになった」(鵜飼さん)と分析していた。

 こうした消費者の嗜好の変化に気づいた伊藤さんと鵜飼さんらは14年夏以降、ボトル缶コーヒーの新商品に「ブラックコーヒー最高峰のコクを実現しよう」と思い立った。

 ◆2つの成分に注目

 コクと飲みやすさの“融合”という課題を克服するため、伊藤さんらは、淹れたてコーヒーのおいしさの2つの成分に注目した。一つは、コーヒーを飲み終えたカップの底に薄く残る挽(ひ)き豆の細かい粒子。これが、飲む人に繊細さや舌触りを感じさせ、香りや複雑なコクをつくり出す。もう一つは、コーヒーカップの表面に浮かぶオイル成分。コーヒー豆由来で、コーヒーに微妙な粘度を与え、厚みや飲みごたえといったコクをつくる。

 ところが、従来の缶コーヒーの製造過程で、この2つの成分は取り除かれていた。豆の粒子は雑味や後味の悪さの原因となり、オイルは見た目の悪さから品質への不安感を与えてしまうからだ。

 「上司からはよく『ボスにとらわれるな、お客さまを見ろ』と言われた」。伊藤さんは缶コーヒーづくりの常識を捨て、2つの成分を中身に残す製法に取り組んだ。高級なコーヒー豆を瞬間凍結させることで、通常の挽き豆の10分の1から30分の1まで細かく粉砕することを可能にした。この「微粉砕コーヒー豆」を使って複雑な味わいを達成した。自社の専用焙煎工場「サンカフェ」では、深煎りしたコーヒー豆からオイル成分を抽出して加えたほか、焙煎方法を工夫し、後味のキレを良くすることに成功した。

 生豆に火を入れる焙煎は、コーヒーの品質を決める重要な工程。釜の温度と加熱時間のわずかな違いが味を大きく変えてしまう。サンカフェは01年に設立され、さまざまな焙煎に関するノウハウを蓄積してきた。鵜飼さんは「この工場がなければ今回の商品はできなかった」と言い切った。

 「ドリップコーヒーの味」を追求した缶コーヒーは、有名カフェの店主らからも絶賛された。発売前に試飲した「カフェ・バッハ」(東京都台東区)の田口護店主は「味の切れが良い。缶コーヒーもここまでクリアな味を出せるようになったことに驚いた」などと、感想を述べた。伊藤さんは「率直にいただいた意見にものすごく感激した」と振り返った。

 主力ブランド「ボス」の開発を通じ、メンバーには「消費者の真の要求をつかみ、ピンポイントで攻める」という意識が浸透してきたという。10年入社の若手ながら、さまざまなボスブランドの開発に携わってきた伊藤さんは「まだ完成されたものではないと思っている。これからも焙煎やコーヒー豆の選定など、技術を磨いていきたい」と気を引き締めた。(鈴木正行)

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