「コンピューターに心は無い」 あの引退IT風雲児が人間らしさにこだわるワケ
【エンタメよもやま話】さて、今回ご紹介するエンターテインメントは、気鋭の経営者に関する感動的かつ示唆(しさ)に富むお話です。
中国の電子商取引最大手、アリババ・グループの創業者兼会長だったジャック・マー氏(55)と言えば、米ネット通販大手、アマゾン・ドット・コムの創業者兼CEO、ジェフ・ペゾス氏(55)らと同様、IT(情報技術)革命によって世界の流通業を激変させた傑物で知られます。
入試にも就職にも起業にも失敗しますが、めげることなく突き進み、大学の英語の講師を経てアリババを創業。米経済誌フォーブス(電子版)の調べでは、今年2月2日に総資産411億ドル、日本円にして約4兆4700億円を記録。中国では1位、世界でも21位の大富豪になりました。
ところが54歳の誕生日を迎えた昨年の9月10日、もう一度、教育に関わる仕事がしたいと「来年の9月10日に会長を辞任する」と発表。世界を驚かせました(ちなみに中国では9月10日は「教師の日」です)。
そして55歳となった今年9月10日に会長を退任。CEO(最高経営責任者)のダニエル・チャンに会長職を譲り、アリババの経営から退いたのでした。突然の退任に中国当局主導の陰謀論などもささやかれましたが、当人はそれらを否定。アリババの本社がある東部・浙江省(せっこうしょう)の杭州市(こうしゅうし)で9月10日に催された引退式典では、マー氏が派手なオレンジ色のエレキギターを抱えた欧米ロッカーのコスプレで登場し、約6万人の社員たちを大いに沸かせました。
そんな彼が欧米メディアに語ったこれからの夢や後進に向けた助言が味わい深く、カッコ良すぎるのです…。
大学3浪、失敗ばかりの人生…インターネット出会い“兆億万長者”に
まずはマー氏とアリババについて簡単に。杭州市に生まれたマー氏は、幼い頃から独学で英語を学びました。自宅からかなり離れた場所にあるホテルに9年間、自転車で通い、外国人観光客向けのツアーガイドを務め、英語力を高めたといいます。
そのうち、外国人観光客の1人とペンフレンドになりますが、そのペンフレンドは、マー氏の中国名を発音するのが難しかったため、彼に「ジャック」というニックネームを付けました。ジャック・マーの「ジャック」の由来です。
しかし、その後の人生は失敗の連続でした。3浪して現在の杭州師範大学に入学。1988年に英語の学士号を取って卒業し、この大学でしばらく英語の講師を務めますが、起業をめざしさまざまな職業に挑みます。
ところが30種類の職業全ての採用試験で不合格。40の会社を立ち上げますが、全て失敗します。2015年1月のインタビューで、警察官の試験も不合格で、地元にケンタッキーフライドチキンの店ができた時、自分を含む24人が採用試験を受けたが、自分を除く23人が合格したといった過去を赤裸々に語りました。
ところが94年、インターネットの存在を知り、ネット関連企業を設立。紆余曲折を経て99年、杭州市のアパートの一室で17人の友人と共にアリババを設立。企業間の電子商取引に加え、個人が出店できるネット上の仮想商店街やネットオークションのシステムを中国で初めてシステム化。これが爆発的に受け、2007年に香港証券取引所に上場した際、時価総額が2兆円を突破。以来、業績もぐんぐん伸び、今日に至っています。