高論卓説

日銀のETF買い、出口戦略練るとき 年内に日本株の最多保有株主に

 年1兆円の売却でも30年超必要

 日本銀行が株価指数連動型上場投資信託(ETF)を買い始めてから今年末で丸10年になる。買い入れ枠は当初の年4500億円から、「当面」の条件付きながら年12兆円に膨らんだ。“コロナ・ショック”で相場が急落した直後の3月に1兆5200億円余り、4月に1兆2000億円余りを買った。日経平均株価は3月につけた安値1万6552円から、6月には2万3178円まで戻した。この間の上昇率は40%。新型コロナウイルス禍の下で株価が大幅に戻ったのには違和感が募った。しかし、日銀のETF大量買いが相場を下支え、二番底の形成を回避したとみれば得心がいく。(加藤隆一)

 日銀のETF保有残高は6月末で32兆7584億円(簿価)になった。昨年12月末の28兆2508億円に比べ半年間で約4兆5000億円増えた。東証1部上場銘柄の時価総額に占める割合は5.5%。今のペースでETF買いが続けば、年内にも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を上回り、日銀が日本株の最多保有株主となる。個別では日銀の実質的な持ち株比率が10%を超える銘柄が1年以内に100を上回るともいう。

 株式市場での日銀の存在感と影響力は高まりばかりだ。日銀が流通市場から吸い上げる株式が増えれば、浮動株が枯渇し、株価形成はゆがむ。ETF買いを停止あるいは売却に転じようものなら相場は急落しよう。日銀自身もETF保有額が膨らむほど株価変動リスクが高まる。3月の急落局面では、一時ETFの評価損が3兆円超えたといわれる。相場は何が起きるか分からない。市場の一部では新型コロナに続く“第2のブラックスワン”として、中国の三峡ダムの決壊懸念が取り沙汰されている。

 日銀は日本株の永続的な吸収・凍結機関を任じているわけではあるまい。株式の運用は「行きはよいよい、帰りは怖い」で、買うのは簡単だが、売るのが難しい。昭和40(1965)年の証券不況時に「非常時にのみ許された例外的形態」として発足した2つの株式買い入れ機関も保有株式の放出に難儀した。保有株式の放出終了に要した時間は日本共同証券が足かけ6年、日本証券保有組合が3年だった。

 両機関が買った株式は合計で当時4200億円余り。日銀が保有ETFを売り切るまでにいったい何年かかるのだろう。毎年1兆円のペースで売却したとしても30年以上の時間を要する。出口戦略の策定、実行は早いほどいい。

 旧知の川北英隆・京大大学院特任教授が面白いアイデアを披瀝(ひれき)している。経済紙のコラムでも紹介された。コロナ禍への対策で実施された特別定額給付金に倣い、政府が日銀保有のETFを買い取り、全国民に1人10万円配布すればいいとの案だ。1人30万円なら日銀の保有ETFは消える計算。自身のブログで「半ばジョーク、半ば本気」と断っているが、興味深いアイデアだ。財源の手当て、執行に困難を伴うが、意表を突く果断な手を打たない限り日銀の保有ETFは消えない。

 市場関係者は相場の戻りの速さに安堵(あんど)し、浮かれて先行きの強気見通しを語っているときではない。中国春秋戦国時代の楚の政治家・詩人だった屈原は主君への諫言(かんげん)が受け入れられなかった後、「衆人皆酔へるに、我独り醒(さ)めたり」と詠った。日銀のETF買いは株式市場の基盤を崩壊させる。株価形成のゆがみを拡大する。醒めた出口戦略を練るときがきた。

【プロフィル】加藤隆一(かとう・りゅういち) 経済ジャーナリスト。早大卒。日本経済新聞記者、日経QUICKニュース編集委員などを経て2010年からフリー。東京都出身。

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