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経営改革の切り札、デジタルトランスフォーメーションが生み出す価値

 【経済#Word】デジタルトランスフォーメーション(DX)

 新型コロナウイルスの感染防止のため外出を控えても、「Zoom(ズーム)」などのビデオ会議システムを使えば、テレワークや遠隔授業を手軽に行えるようになった。こうしたデジタル技術による変革は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれる。DXが生み出す新たな価値は、ビジネスや社会構造を大きく変えるインパクトがある。企業が「アフターコロナ」の時代を生き抜くための経営改革に向けた切り札にもなる。

 DXとは「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」という概念で、2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン氏が提唱した。人々の暮らしをデジタル技術で変革することを指す。スマートフォンの普及に始まり、AI(人工知能)スピーカーやキャッシュレス決済など、私たちの生活はすでにデジタル技術で大きく変わりつつある。

 英語圏では「変換」を意味する「Transformation」の「Trans」を数学記号などで「X」と略すため、DTではなくDXとなった。日本では平成30年に経済産業省が「DXリポート」を公表したのを契機に広がり始めた。

 では、10年以上前に提唱された概念がなぜ今、注目されているのか。それは近年、あらゆる産業でデジタル技術を駆使した革新的なビジネスモデルを展開する新規参入者が現れ、「ゲームチェンジ(局面転換)」を起こしているからだ。

 例えば、米インターネット通販大手のアマゾン・コム。当初は書籍の取り扱いを中心としたネット書店だったが、インターネット上のサイトで好きな商品をどこからでも注文できる新たな買い物スタイルを生み出した。人々の消費行動を大きく変える一方、店舗販売中心の流通小売業には大打撃を与えた。既存業界の稼ぎ方といったビジネスモデルそのものが刷新された。

 こうした劇的な業界構造の変化に取り残されないためには、各企業もDXを推進するしかない。情報処理推進機構(IPA)が東証1部上場企業を対象に実施した調査では「将来的に自社が競争力を維持できる年数」について、約半数の企業が「5年後まで」と回答した。業界を牽引(けんいん)する大手企業といえども、DXでビジネスモデルを再構築しなければ生き残れないという危機意識は強い。

 新型コロナ感染防止のため非対面のニーズが拡大するなど、消費行動が大きく変わる中、DXで解決手段を探る動きも活発化する。

 「経験や土地勘がなくても、効率的に配達ができるようになる」と語るのは日本郵便の三苫倫理(みとまのりまさ)執行役員。同社は創業間もないスタートアップ企業とも連携し、6月からAIで宅配便「ゆうパック」などの配送ルートを自動作成できるシステムの運用を一部の郵便局で始めた。ルート作成や配送にかかる時間が、従来の手作業に比べ半分程度で済む。ネット注文急増で深刻化する物流業界の人手不足問題にDXで対応する。

 NTTドコモと竹中工務店は建設現場のデジタル化で協業を開始した。非対面でも工事の進捗(しんちょく)情報を共有したり、作業員の健康状態や歩数などのデータを蓄積して事故を未然に防ぐ仕組みを開発し、「働き方の新たな標準形態を構築したい」とドコモの坪内恒治常務は意気込む。

 これらは一例だが、DXで共通するのは、社外との連携が軸になっている点だ。革新的なビジネスモデルを生み出すには、開発で自社の経営資源の枠にとらわれないことが重要になる。

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