“地獄”を繰り返さぬ覚悟 マツダのブランド改革が正念場
そこで、マツダは平成22年、「魂動デザイン」という概念を打ち出して車のデザイン統一化を始めた。新たな思想に基づいた商品群の第1弾となる「CX-5」を24年に発売。「ブランド価値の向上」を最重要課題とする経営が本格化した。
車の設計では、「人馬一体」と言えるほど気持ちよく乗りこなせるよう、あらゆる基本性能の底上げを目指して車体やトランスミッション、車軸などを一体的に再設計。自社の技術を結集したエンジン「スカイアクティブ」は走りの楽しさと燃費効率を一緒に追求し、ガソリン、クリーンディーゼルとバリエーションを増やした。
基本性能が向上した結果、毎年のように改良車が出せるようになり、商品力がアップした。特に、昨年から投入したエンジン「スカイアクティブX」は、マツダが世界で初めて実用化した画期的な燃費効率化技術と走りの楽しさを両立させ、既存のエンジンより50万円以上高いものの、欧州をはじめ各国で人気が出ている。
さらに「アクセラ」「デミオ」といった車名を「MAZDA3」「MAZDA2」などと社名と数字、アルファベットのシンプルな組み合わせに統一した。店舗デザインや広告も車のデザイナーが設計するほか、販売スタッフには「ブランドを売る」教育を徹底し、車のデザイン、製造、販売まで一体感を高めている。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、車の需要は大幅に減少しているが、マツダは業績への悪化影響を比較的抑えている。車の販売価格は全体のブランド力向上で高価格帯が広がり、最安値はむしろ上がって、1台あたりの収益額が向上しているという。
ただ、令和3年3月期の決算見通しは、営業赤字は400億円、最終赤字は900億円と厳しい予想だ。
危機的状況に対し、「マツダらしさ」を求める方向性は変わっていない。マツダの代名詞ともいえる「ロータリーエンジン」を“発電機”にし、電気自動車(EV)の課題である走行距離を伸ばす独自技術「レンジエクステンダー」などについて、「コロナで開発スケジュールを遅らせることは一切考えていない」(同社)。
また、世界で厳格化しつつある環境規制への対応のため、マツダが初めてEV(電気自動車)に参入するスポーツ用多目的車(SUV)「MX-30」は、当初想定したEV専用車から日本市場ではハイブリッド車も導入すると急遽、方針転換した。ハイブリッド車の占有比率が高い日本の市場性を考慮した結果だ。業績の苦しい今だからこそ、柔軟な対応が求められている。
「台数優先」から「ブランド力向上」への転換は、巨額赤字に陥った日産自動車も取り組み始めている。マツダのブランド戦略の真価が問われるのはこれからだ。(経済本部 今村義丈)