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金融所得課税強化「相場に冷や水」 下落基調の株式市場、専門家はこう見る!

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 政治と株価は不即不離。政治が動けば相場も動き、その逆もまた然(しか)りだ。菅義偉前首相が9月3日に辞任を表明して以降、新政権の経済対策への期待などから株価は上昇。だが、岸田文雄首相が金融所得課税を強化する方針を示すと株価は下落基調となり、首相は方針転換を余儀なくされた。株価変動の理由は首相の発言のみではないとはいえ、投資家を混乱させた顛末には市場関係者から厳しい声も相次ぐ。専門家は今の相場をどうみているのか。

国民の9割が「中流」を意識した時代も

 「首相の発言だけで株価が下がったというのは尚早だが、市場が首相の発言に嫌気したのは確か。新首相に対する期待感が高まっていた中、相場に冷や水を浴びせた」と分析するのは、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の佐久間誠氏だ。

 中国経済の減速や米連邦政府の債務上限問題、原油高による世界的なインフレ懸念など下落要因は複数あるものの、「分配なくして次の成長なし」という首相の考えを「経済成長よりも、まずは分配優先なのかと市場は受け止めてしまった」(佐久間氏)という。

 これに対して、首相が格差是正に焦点を当てた「新しい資本主義」に基づき、成長と分配の好循環の実現に意欲を示したことには理解を示す声もある。個人投資家向け情報会社「カブ知恵」代表の藤井英敏氏は「金融所得課税の強化は世界的な流れでもあり、仕方がない。社会不安を取り除く意味でも年収1億円の壁を作ってはいけない」と話す。

 給与などに課せられる所得税は、収入が多いほど税率が高くなる累進課税で、自治体に納める個人住民税を含む最高税率は55%。ただ、株式売却益など金融所得に対する税率は、所得税と住民税を合わせて一律20%と低く設定されている。富裕層は所得に占める金融所得の割合が多くなる傾向があるため、実際に負担する税額の全所得に対する比率を示す負担率は低くなりがちだ。国税庁の統計でも総所得1億円を超える富裕層は負担率が下がっていることから「金持ち優遇」と批判されることもあり、首相は就任早々、この「1億円の壁」を打破すると宣言したのだ。

 かつては「国民生活に関する世論調査」で生活水準を「中」とする回答が9割に達する時代だった。高度経済成長期の1970年の国勢調査で人口が1億人を突破すると、「1億総中流」と呼ばれたほどだ。しかし、過去の所得税率引き下げや控除の拡大によって、所得に応じて税額が増える累進課税の機能が低下。所得再配分機能が次第に失われ、格差社会の問題を税制の面から解消することが課題とされて久しい。金融所得課税の強化も解決策の一つだ。

 藤井氏は「持つ者と持たざる者との差が激しくなっている。資産形成によって事実上の身分制度ができあがってしまうとしたら、富の再配分はしないといけない」との見方を示す。一方、「(所得格差には)能力と努力の差があるということも認めてほしい」とも述べた。

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