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【シリーズ エネルギー政策を問う】今やるべきことは電力需給の安定化

ニュースカテゴリ:社会の科学技術

【シリーズ エネルギー政策を問う】今やるべきことは電力需給の安定化

更新

東嶋和子氏  □科学ジャーナリスト・東嶋和子氏

 ■女川原発は“奇跡”ではない

 --福島第1原子力発電所の事故によって原発の安全性に対する不安が高まり、日本のエネルギー政策議論が混迷を続ける要因になっていますが、事故を起こした原発だけに目を向けて安全性を語ることに疑問を投げかけていますね

 「東日本大震災の影響を直接受けた原子力関連施設は、福島第1原発だけではありません。東北電力の女川原発(宮城県)と東通原発(青森県)、日本原燃の再処理施設(同)、東京電力の福島第2原発(福島県)、日本原子力発電の東海第2(茨城県)もそうです。福島第1原発の1~4号機は不幸にも事故にいたりましたが、同じ敷地内にある5、6号機、約10キロ離れた福島第2原発、さらにはより震源に近い女川原発など、ほかの施設ではすべて安全上の問題は発生しませんでした。すなわち、福島第1以外のすべての原発が、安全に原子炉内の温度が摂氏100度未満になる冷温停止状態になったという事実を知っていただきたいと思います。とくに女川原発は、福島第1とほぼ同じかそれを上回る地震の揺れと津波を受けながらも安全に停止し、しかも近隣の集落が壊滅状態になるなかで住民を発電所内に受け入れ、避難所として機能しました。1000年に1度といわれる大震災にあっても安全に停止した要因を知ることが原発の安全性を論じるうえでも非常に大事だと思い、私は福島第1、女川をはじめ被災した原発を取材し、“失敗と成功の境界線”を自分の目で確かめてきました。その結果、今強く思うことは、原子炉を安全に停止させることに失敗した要因と成功した要因の両方を知らないと、これからの原子力発電の安全性について発言できないし、その資格もないということです」

 --女川原発が安全に停止した要因は何だったのですか

 「女川原発は三陸海岸の南端にある牡鹿半島の中ほどに立地し、東日本大震災の震源地からの距離は約123キロと福島第1より近く、当日の地震加速度(地震の揺れの大きさ)は福島第1を上回る過去最大の数値(567.5ガル)を記録、最大津波高さは福島第1と同じ約13メートルでした。それでも震災発生から約10時間後に全3基が冷温停止にいたったのには、理由があります。それは3点あり、1つ目は津波到達後も電源が確保されていたことです。外部電源5回線のうちの1回線と、8台の非常用ディーゼル発電機のうち6台が使えました。2つ目は敷地の高さです。福島第1の敷地高約10メートルに対し女川は約14.8メートルで、869年の貞観津波にまでさかのぼって検討して決めたといいます。3つ目は現場力で、一言で言いますと、女川では日頃の訓練に裏付けられた現場主義が貫かれていたということです。女川は“奇跡”だという人がいますが、私は現場を見て備えがあったからこそ、安全に停止したと思っています」

 --失敗と成功の両方を知る立場で、原発の安全性とリスクについてはどう考えますか

 「どんなものでも100%の安全はないわけで、どちらが『より安全か』『より危険を減らせるか』を考えるのが現実的です。他の選択肢に比べてリスクはどうか、メリットは何があるのか、やらないときのデメリット、ダメージは何か。これらを丁寧に、冷静に比較することが大事だと思います」

 ■リスク回避に原発再稼働を

 --原子力をやらないリスク、デメリットは何ですか

 「今はLNG(液化天然ガス)、石炭などの化石燃料による火力発電でしのいでいますが、その結果、日本はCO2、燃料輸入価格、安全保障、安定供給の4大リスクを抱えることになっています。日本のCO2排出量は原発を止めているため大幅に増加しており、電力業界の排出量は90年比6.3%も増えています。原発を代替するための火力発電燃料の追加負担は、年間3兆6000億円といわれています。このお金が国内で使われていれば、どれだけ日本経済にプラスになるかと思います。それと安全保障の問題。ベストセラーになっている出光興産創業者の出光佐三氏をモデルにした小説『海賊と呼ばれた男』に『日本は石油のために戦争を始め、石油のために敗れた』『石油の一滴は血の一滴』というフレーズが何回も出てきますが、今はこうしたことがすっかり忘れられてしまったんですね。目の前に起きた原発事故のリスクにだけ目を向け、今は顕在化していないリスクには目をつぶっている。準国産エネルギーである原子力を入れれば日本のエネルギー自給率は18%でしたが、原発が稼働していない今はわずか4%。エネルギーの96%を輸入に頼っているということ自体が大きなリスクです。4大リスクから逃れるには、安全性の確認された原発を早期に再稼働させるべきです」

 --使用済み核燃料などの廃棄物処分をリスクとする人もいます

 「原発を『トイレなきマンション』という人がいますが、トイレはつくればいいのです。廃棄物処分については国際的な共同研究が進んでいて、科学的見地からは現在の技術でほぼ安全に地層処分できるということで確立していると思います。ただ、地層処分施設をどこにつくるかという社会的合意をどうやって形成するかという問題です。合意形成の問題であるのに、あたかも科学技術の問題であるかのようにいわれています。合意形成は政治の仕事であり、より積極的に取り組んでいくべきだと思います。すでにフィンランド、スウェーデン、フランス、スイスでは最終処分地が決まりつつあります。ところが日本では、地震国だからできないという人がいる。私はフィンランド、スウェーデン、フランス、スイス、アメリカに取材に行きましたが、おおむね海外ではまず科学的に適地を見つけます。その後は地質学や土木工学、地質水文学、地球物理学などいろんな学者が専門的な知見を持ちよって進める透明性の高いプロジェクトになっており、実際の地質などをその都度確かめながら住民の合意を得て、段階的に進めていきます。同じように日本にも適地はあり、地層処分は必ずできるはずです。原子力規制委員会は原発の下に活断層があるかないかを問題にしていますが、不毛な議論に思えます。活断層が近くにあったとしても、それが工学的にどういう影響があり、それから逃れるにはどうすべきかを議論すべきではないでしょうか」

 --原子力の位置づけや、全面自由化と発送電分離を柱とする電力システム改革のあり方を含めて、日本のエネルギー政策はどうあるべきと考えますか

 「エネルギー政策は、『3E(エネルギーセキュリティー、環境性、経済性)+S(安全)』が基本といわれます。3Eのバランスではエネルギーセキュリティーの意味が最も重いと思います。安全保障と安定供給です。例えば、離島や災害時にも電力を安定供給するということを、自由化し発送電分離しても維持できるのでしょうか。東日本大震災のとき、東京電力と東北電力は世界でも類を見ない早期復旧を果たしましたが、そうした危機管理体制が維持できるのか、非常に心配です。『地域独占はけしからん。自由化すれば電気料金も安くなる』といった電気料金の問題や電力会社に対する懲罰感情からの電力システム改革は今やるべきことではなく、優先順位が違います。目先の議論だけで改革に走れば、結局は弱者にしわ寄せがいくとともに、国民の命にかかわる安全保障や安定供給を失う可能性があるということを強く警告したいと思います。今真っ先にやるべきことは、電力需給の安定化です。国民の生活の安定や産業競争力を維持するためにも、早く安全性が確認された原発を再稼働し、電力を安価な料金で安定供給できる体制に戻すことが最優先されるべきです。加えて、私はいつも『3E+S+T』と申し上げているのですが、テクノロジーに目を向けることも重要です。『モノづくり日本』を支えてきた技術を守り発展させるという意味と、エネルギー技術です。1つは原子力技術で、日本とフランスが世界をリードしています。国際原子力機関(IAEA)の専門家が女川原発を視察して『あれほどの地震動にもかかわらず、大きな損傷は見つからなかった』と驚きの声を上げ、世界原子力発電事業者協会(WANO)が震災当時の女川原発所長を『あなたたちを大変誇りに思っている』として表彰したように、大震災に耐えた日本の原子力技術には世界が注目しています。新興国を中心に電力需要が爆発的に伸びることが予想される中で、日本は原子力で世界に貢献していくべきです。もう1つは高効率火力発電、とくに石炭の高効率燃焼技術です。この分野も日本が世界の先頭を走っており、世界中が石炭の消費を増やす中で日本の技術を活用すれば、地球温暖化への貢献につながります。エネルギー政策を議論するには、事故を起こした福島第1だけを見て、安全に停止した女川や福島第2は見ないというように、『木を見て、森を見ず』ではいけないと思います。地球規模の視野を持って議論し、判断すべきです」(聞き手 神卓己)

 <このシリーズは今回で終了します>

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 1962年東京都生まれ。筑波大学第2学群比較文化学類卒。85年読売新聞社入社。北海道支局、浦和支局、本社科学部記者などを経て、91年からフリーランスで科学分野を中心に取材執筆。医療、生命科学、環境、エネルギーなどの分野で、「いのち」をキーワードに社会と科学のかかわりを追っている。筑波大学非常勤講師。著書は『この病院で最新治療』(文芸春秋)、『放射線利用の基礎知識』(講談社)、『人体再生に挑む』(講談社ブルーバックス)、『私たちは、なぜ放射線の話をするのか』(共著、ワック)など多数。

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