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【松本真由美の環境・エネルギーDiary】水力発電の高効率化
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奥只見発電所の大学生体験ツアー=福島県檜枝岐村 ■クリーンエネ供給持続
先日、Jパワー(電源開発)が開催した奥只見発電所(福島県檜枝岐村)の大学生体験ツアーにアドバイザーとして参加し、発電所内の設備を見学する機会に恵まれました。エネルギー自給率わずか4%の日本において水力は貴重な国産エネルギー。この先もずっと再生可能な純国産エネルギーであり続けるのか考えてみました。
◆大規模開発は完了
ダム式水力発電は、水が高いところから低いところへ落ちる力を利用して水車を回し、水車と直結した発電機で電気を起こすというシンプルな仕組みです。電気がエネルギーとして国内で利用され始めた頃は、水力が発電の主流でした。電力需要が伸びてくると発電は火力が主流となり、水力は主に電力需要の調整役を担うようになりました。
水力発電は二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンエネルギーで、全世界の電力の16%を供給しています。水力の発電量がもっとも多い国は中国で6160億キロワット時、以下、ブラジル3900億キロワット時、カナダ3640億キロワット時の順。日本は820億キロワット時で世界8位です。日本の年間総発電量は約1兆キロワット時ですので、水力は8%強を占めていることになります。
水力発電全体の設備容量と設備件数(2010年度末時点)は4832万キロワット、2182基。そのうち一般水力の設備容量は約2253万キロワット(2136基)で、2579万キロワットが電力を蓄える機能を持つ揚水式発電です。夜間の電力で水をくみ上げる揚水発電は、原子力発電推進のための方策だという指摘もありますが、現在は火力発電がフル稼働して余裕のできた電力を揚水という形で蓄電し、昼間に電力需要が高まった際、電力を補っています。ただ、一般水力と比べると、電力を使って水をくみ上げる分、揚水の発電コストは割高になります。
今年4月11日に閣議決定された第4次「エネルギー基本計画」では「水力発電は渇水の問題を除き、安定供給性に優れたエネルギー源としての役割を果たし、今後も重要な役割を担う」としています。ダム建設などを伴う大規模な水力発電所の新設は現実的に難しく、大規模な開発はほぼ完了していると言っていいでしょう。
◆設備更新で価値向上
大型水力発電所の建設が進められたのは1950年代で、既に半世紀がたっています。この先50年後も今と同じレベルで発電することはできるのでしょうか? 全国59カ所に総出力約860万キロワット、国内の全水力発電設備の2割近いシェアを持つJパワーの水力発電部部長代理、田中邦典氏は次のように説明します。
「経年劣化が進んだ水力発電所の設備は更新することになりますが、主要電気設備全般にわたって劣化が進んでいる場合には主要電気設備の一括更新を実施しています。一括更新にあたっては、設計の見直しにより出力増強を行うなど、発電所の価値の向上を図りたいと思っています」
具体例として、59年に運転開始し、一般水力発電所としては奥只見発電所に次ぐ国内2位の出力を有する田子倉発電所(福島県只見町)で一括更新工事を行っています。2004年から工事を始め、11年11月に1号機の工事が竣工(しゅんこう)し、全4基の水車、発電機、主要変圧器など主要設備の一括更新工事はすべて完了しました。
「水車ランナの羽根形状を改良することなどにより、1基当たりの出力は9.5万キロワットから5000キロワット増の10万キロワットとなり、発電所出力は38万キロワットから40万キロワットへと増加しました。また、リニューアルにより新設時と同レベルの信頼性に改善することができました」(田中氏)
発電所全体をリニューアルした事例もあり、1954年に運転開始した旧胆沢第一発電所(岩手県奥州市)がリニューアルされ、今年7月から運転開始しています。国土交通省による胆沢ダム建設に伴い廃止した旧発電所に代わる発電所として、ダム直下に新たな発電所(最大出力1万4200キロワット)の建設を行いました。新発電所には、旧発電所に比べて発電効率を高めた大小2基の水車発電機が設置され、少ない水量でも効率的な発電が可能になりました。
さらに近年は、中小水力の開発に注目が集まっています。エネルギー基本計画で「高コスト構造などの事業環境の課題を踏まえつつ、地域の分散型エネルギー需給構造の基礎を担うエネルギー源として活用していく」と位置づけられた中小水力は、開発可能な地点が多く、今後の活用が期待されています。
◆地域の分散型需給担う
2013年10月に着工した「くったり発電所」(北海道新得町)は、既存のくったりダムから放流している未利用の河川維持流量を活用して発電します。来年4月には運転開始し、470キロワットの発電が見込まれています。
ダムはコンクリートで固めたものや土や岩石を盛ったものが一般的ですが、ゴム堰(せき)というユニークな技術もあります。只見川の支流、黒谷川の上流につくられた黒谷取水堰(福島県只見町)は世界最大級のゴム堰として知られています。
取水堰には、圧縮空気で膨らませたゴム袋を使用。世界最大のラバーゲート(高さ6メートル、長さ43.1メートル)から黒谷発電所に導水します。発電所には大小2基の発電機が設置され、最大出力は1万9600キロワット。ゴム堰は、コンクリート製の堰に比べて工事コストが安いうえ、洪水時には倒れて上流河川への影響を抑えます。
ところで、ダムの経年劣化も気になりますが、50年先も利用できるのでしょうか? 「ダムは頑丈にできており、適切なメンテナンスを行うことで50年後も問題なく利用できます」(田中氏)
では、豪雨や洪水、または渇水など異常気象が起きるリスクへの対策は? 「発電専用ダムには洪水調節機能はありませんが、近年発生した豪雨被害を踏まえ、大型のダムでは大雨に備えて確保した空き容量を活用して、下流の洪水被害軽減に取り組んでいます。また、インターネットによるダム情報提供など、情報伝達の改善も図っています」(田中氏)
現場の状況を調査し、人がしっかり手をかけていくことで、水力発電は50年後も持続可能なエネルギーであり続けてくれることを実感しました。
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【プロフィル】松本真由美
まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。