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【視点】高浜原発に運転差し止めの仮処分 司法リスクに直面する再稼働

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【視点】高浜原発に運転差し止めの仮処分 司法リスクに直面する再稼働

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 □産経新聞論説委員・井伊重之

 関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを住民らが求めた仮処分申請で、福井地裁が再稼働を認めない決定を全国で初めて下し、電力業界に衝撃を与えている。差し止め対象となった2基は原子力規制委員会の安全審査に合格し、今秋の再稼働に向けて地元同意などの準備を進めていたが、司法手続きでこの差し止めの決定が覆らない限り、運転の再開はできない。関電は仮処分を不服として異議を申し立てたものの、同社以外の原発再稼働も「司法リスク」と厳しく向き合わねばならなくなった。

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 福井地裁の樋口英明裁判長は、規制委が定めた原発の新規制基準について「合理性を欠き、審査に適合しても安全が確保されない」と批判し、住民の人格権が侵害される恐れがあるとした。樋口裁判長は昨年5月、関電の大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟についても、同じ論理で再稼働を認めない判決を下している。

 だが、最高裁は1992年、四国電力の伊方原発訴訟で原発の安全審査について「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」と行政判断を優先する判決を出している。今回の決定はその判例から明らかに逸脱したものだ。

 福島原発事故後、原発の再稼働をめぐって10件にのぼる判決や決定が出ているが、稼働の差し止めなどを認めたのは樋口裁判長が担当した裁判しかない。反原発派は「司法の独立を示した」と勢いづくが、これまで積み重ねてきた判例を勝手な論理で覆すのであれば、それは「司法の暴走」と批判されても仕方ない。

 福井地裁が「合理性がない」と批判した規制委の新規制基準は東京電力の福島第1原発事故を受けて導入された。事故の直接の引き金となった全電源喪失といった過酷事故に対応し、テロなどに関する安全対策も義務づけ、原発の安全性をより高めたものだ。それでも福井地裁は「原発に関するリスクをすべて解消しなければ、再稼働は認めない」とゼロリスクを求めた。もちろん安全対策は万全を期さなければならないが、それでも自動車や航空機などでも事故は起こる。そうした危険を最大限除去しながら、費用対効果を考えて上手に活用するのが文明社会の知恵といえる。

 また、原発にゼロリスクを求めれば、別なリスクが顕在化することも忘れてはならない。日本ではこの1年半以上にわたって原発が1基も稼働していない原発ゼロの状態にある。その原発に代わって液化天然ガス(LNG)や石炭などの火力発電に電源の9割近くを依存し、輸入燃料の増加などが電気料金の上昇を招いている。

 とくに福島事故前に原発比率が高かった関西電力は現在、2度目の値上げを申請中だ。同社では高浜原発が稼働した場合、値下げすることを値上げの条件にしている。原発の再稼働が遅れれば、その分だけ高い料金が続くことになる。

 アベノミクスによる景気回復の動きを全国に波及させるには、地方の中小・零細企業の賃上げが欠かせない。だが、電気料金の上昇は、そうした中小・零細企業の経営を圧迫しており、賃上げ原資を奪いかねない。家計にも重い負担を強いており、経済再生にもマイナスとなる。

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 原発再稼働の遅れに伴う影響は、経済だけではない。火力発電のフル稼働で日本の温室効果ガスの排出量は、過去最大規模に増えている。年末の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では、各国が2020年以降の温室効果ガスの排出削減目標を提示するが、原発なしでは排出削減は困難だ。

 22日には今年7月の再稼働を目指す九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)をめぐり、住民らが再稼働差し止めを求めた仮処分の可否が鹿児島地裁で下される。ここでの判断が今後の再稼働を占うことになりそうだ。

 原発事故から4年を経ても原発への厳しい世論は変わっていない。福井地裁の差し止め決定の底流にはそうした世論がある。原発の必要性を世論に訴えかけるには、政府の主体的な取り組みも問われている。

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