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日本食研が社内結婚を奨励するワケ “家族経営”で団結力アップ
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社内結婚神社に絵馬を奉納する日本食研ホールディングスの女性社員(同社提供) 未婚化・非婚化が進む日本。その背景にはお見合い結婚や社内結婚の減少があると指摘する向きもある。そんな中、社内結婚を全社的に奨励しているのが、焼き肉のたれや空揚げ粉などで有名な調味料大手、日本食研ホールディングス(HD、愛媛県今治市)だ。本社内に「社内結婚神社」と呼ぶ社を建立し、社内恋愛成就の象徴に位置づける。晴れて、社内結婚した夫婦には毎月の手当ても給付。そこまでして“身内”で結婚させたいのはなぜなのか…。
「『賽銭(さいせん)箱』にお札を入れると、好きな人と結ばれる」-。日本食研HD本社9、10階にある「日本食研歴史館」の一角に設けられた社内結婚神社は、こんな“パワースポット”としてあがめられているという。脇には「社内結婚 554組成婚」と、これまで社内で結ばれたカップルの数が示してあり、御利益の高さを感じさせる。
この神社は、創業者の大沢一彦会長が平成2年に建てた。「日本食研では社内結婚も社内恋愛も自由」という思いを形にしたという。社内結婚すると夫婦の名入り絵馬が奉納される。「縁結箱」という箱も設置され、気になる社員がいれば願いを書いて入れられるという。
最近では毎月1~2組というハイペースで社内結婚が成立しているといい、社内縁結びの神様と親しまれるように。5月末時点の現役グループ社員の既婚者2036人のうち、社内結婚組は254組の508人。実に4人に1人が社内で結ばれた計算だ。担当者は「社員に会長の思いが伝わっているのだろう」と目を細める。
社内結婚を金銭面で支える制度もある。大沢会長の発案で、20年から「社内結婚ハッピー手当」を始めた。社内結婚の夫婦に対して、毎月千円を給付するというものだ。ただけんかをした月は、社員自ら申請して手当てをゼロにする決まりだが、「誰も申請してこない(笑)」(担当者)とか。
また大阪や東京の営業所などに夫婦一緒に転勤でき、仕事の都合で家族が離れ離れになる不安もないという。さらに夫婦ともに職場の事情が分かっているため、残業や休日出勤を互いに理解できるほか、「共通の話題が多く、会話が途切れない」(担当者)ため、社員の夫婦生活は円満。
実際、これまでに結婚した約550組のうち離婚件数はわずかという。社内結婚をした現役社員の離婚件数は3~4組と、驚きの少なさだ。
国内では未婚率が上昇している。平成22年国勢調査によると、35~39歳の未婚率は男性で35・6%(昭和55年比27・1ポイント増)、女性で23・1%(17・6ポイント増)。最後まで結婚しない生涯未婚率は男性が20・14%(17・54ポイント増)、女性は10・61%(6・16ポイント増)だ。
その要因として、社内結婚の減少を指摘する声もある。就職氷河期で女性社員の採用が減ったり、セクハラを意識する男性社員が女性社員へのアプローチに尻込みしたりしているといったためとみられる。これが少子化につながり、長期的すれば国力を損なう。
こうした中、日本食研HDが社内結婚を奨励して“家族経営”を推し進める背景には、「恋愛や結婚などで社員同士が親密になれば、組織の団結力が高まり、生産性向上につながる」という大沢会長の持論がある。
社内では、アプローチに尻込みしたりする雰囲気はないという。
同社は業務用空揚げ粉で後発ながらトップシェアを誇るなど、成長を続ける。終身雇用制の崩壊などで、社員の企業への忠誠心が年々低下する中、同社に根付く「家族経営」が日本企業復活のキーワードになるかもしれない。(中村智隆)
本 社=愛媛県今治市富田新港1-3
設 立=昭和48年2月13日
事業内容=調味料や加工調理食品の販売、研究開発など
売上高=830億円(平成24年9月期)
従業員数=3772人(24年9月30日現在)