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パタハラ、男性育休の壁 「残業で教育費稼げ」…企業文化に課題
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共働き世帯の増加や女性を活用する機運の高まりに伴い、働く母親の負担を軽減するために男性の育児参加が大きな課題の一つとなっている。ただ、男性が育児休暇を取得したくても、スムーズにいかない障壁が存在するのが現状だ。「昇進に差し障る」との不安を払拭できなかったり、周囲から心ない言葉をかけられたり…。男性の育休「パタニティ休暇」を阻むこうした職場風土を変えようと、官民の取り組みが動き出した。
「早まるな。キャリアが台無しになるぞ」「教育費の増大に備え、残業して収入を増やすのが家長のあるべき姿だろう」
東京都内に住む40代の男性会社員は、第1子の誕生で4カ月の育児休業を上司に申請したところ、こんな言葉を浴びせられた。自身も働き盛りだが、別の会社で働く妻も責任の重い管理職。夫婦で分担して育休を取ると決めたにもかかわらず、旧態依然とした企業文化の壁が立ちはだかった。
ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に詳しい東レ経営研究所の渥美由喜主席コンサルタントは、育休取得をはじめ、男性の育児参加を阻むようなこうした言動を「パタニティハラスメント(パタハラ)」と呼んでいる。パタニティは英語で父性を意味する。
2012年度雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は過去最高だった前年度から0.74ポイント低下し、1.89%。渥美氏は「低下の背景にはパタハラ問題があり、取得したくてもできない状況になっている」とみる。
日本で共働き世帯が専業主婦世帯を上回ったのは1990年代半ば。それ以前に子育ての時期を終えた世代の上司には「男性の育休は必要ない」という感覚が根強く残る。こうした職場環境では、部下は昇進を気にするどころか「白い目でみられるのでは」(30代会社員)と、育休の申請すらしにくいのが現状だ。
パタハラが生じるような事態を回避しようと、男性の育休を促進するため思い切った対策を講じる組織も出てきた。
生保最大手の日本生命保険は4月から、11年10月以降に生まれた子供を持つ男性職員全員に1週間程度の育休を取らせる取り組みを始めた。6月末現在で300人が対象になっている。日本生命は育休の最初の7日間を有給とする制度も導入していたが、利用者は1%程度にとどまっており、自主性に任せていては取得は進まないと判断した。
山内千鶴・輝き推進室長は「やるなら、一気にやらないと中途半端になる。育休による業務の効率化やリフレッシュで、やる気が高まるという結果も生まれている」と話す。
男性の育休推進を掲げる森雅子少子化・消費者担当相が指揮を執る消費者庁は、育休取得者だけでなく、取得者の業務をカバーする同僚や上司の人事評価を高める制度を今年度から始めた。
具体的には、取得者や周囲が人事評価の判断材料となる自己申告書に、休業の取得状況と業務改善の内容やどんな効果があったかを記入。これを基に昇進や昇給に反映させる仕組みだ。
政府は20年までに男性の育休取得率を13%に引き上げる目標を掲げている。07年を中心に大量退職した団塊の世代が75歳以上の年齢になる時期とも重なり、育児だけでなく介護の面からも、ワーク・ライフ・バランスの重要性は高まりつつある。
企業などの取り組みを後押しするインセンティブ(動機付け)や情報の提供が今後、より一層求められそうだ。(滝川麻衣子)