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誰もが驚く“ツタヤ図書館” 次代のモデルケースになれるか
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レンタルビデオ大手「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営委託された公立図書館や、「まるで未来都市」と誰もが驚く大学図書館に、電子図書館…。古くから「知の広場」として親しまれた図書館が、転換期を迎えようとしている。利用低迷に悩む図書館が増える中、こうした新たなチャレンジは“リアル図書館戦争”として注目を集めるが、次代の図書館のモデルケースになれるか。(宇都宮想)
4月の新装開館から6月末までの3カ月で利用者が約26万5千人と、平成23年度の年間総数(約25万6千人)を上回ったのが、CCCに運営委託した武雄市図書館(佐賀県武雄市)だ。
“ツタヤ図書館”とも呼ばれ、「図書館の新たなモデルケースになる」と他の自治体も注目。市外からも大勢の利用客が詰めかけるという図書館の魅力は何なのか。記者が実際に入館し、体感してみた。
館内入ってすぐの蔦屋書店には最新のファッション雑誌や話題の新書など約3万冊が並ぶ。通常の書店のように立ち読みをする来館者はほとんどいない。
記者が入館したのは平日の昼ごろだが、立ち読み客の代わりに書店横のスターバックスはほぼ満席。軽やかなジャズが流れる中、若い大学生風の男女や高齢者までの幅広い層が、コーヒーを片手に販売用の雑誌のページをめくっていた。
2階部分は学習席と貸し出し本のスペースで、BGMをかけず、飲食は厳禁。集中して勉強したい受験生らに配慮したつくりで、図書館近くの高校の生徒が難しい顔で参考書と向き合っていた。
「一般スペースと隔離されているのでとてもはかどります」。受験を控えた3年生の男子生徒は満足そうな表情だ。学習机の背後には天井まで届く本棚に20万冊の蔵書がずらり。壁一面に所狭しと並んだ書籍は圧巻の眺めだ。
館内全体に流れるのはおしゃれな雰囲気とゆったりとした時間。
「図書館に来たことはあまりなかったですが、リニューアルしてから毎日のように通っています」。同市の主婦、西川礼子さん(32)は「初めは物珍しさだけだったんですが、読書タイムが日課になりました。女子会を開くことをあるんですよ」。
記者が入館してから約4時間の取材を終えるまでカフェコーナーにいた来館者も多く、ついつい記者もスタバで2時間ほど読書を楽しんでしまった。
「図書館の利用経験がある市民は全体の2割程度。開館時間が短くて平日はサラリーマンが利用できず、公共の財産とはいえない」
武雄市図書館のリニューアルは、民間の企画力を重視する樋渡(ひわたし)啓祐市長が発案。市が約4億5千万円、CCCが約3億円を負担して改装した。
開館時間を午前9時~午後9時とそれまでより4時間延長し、年中無休にした。TSUTAYAのポイントカード「Tカード」を貸し出しカードとして利用でき、1回の使用で3ポイントがつく。
若者らに人気のカフェ「スターバックスコーヒー」が入店し、蔵書を持ち込むこともできる。最新のファッション誌や新書など約3万冊を販売する蔦屋書店やレンタルビデオ店も併設された。
市からCCCへの委託費は年1億1千万円。従来の運営費1億2千万円よりも割安だ。市は賃料として年600万円を受け取り、コスト縮減にもつながるとしている。
大胆な改革に、「公共施設の図書館がまるで商業施設」という批判もあるが、樋渡市長は自信を深める。
「行政は究極のサービス業で市民は顧客だ。これまで市の負債だった図書館が重要な資産となった。手法に批判があることは理解しているが、どんどん議論して市民ニーズの高い図書館づくりに役立てばいい」
開館以来、驚異的なペースで利用者を増やした“ツタヤ図書館”は早くも新たなモデルとして広がりつつある。
7月11日、宮城県多賀城市の菊地健次郎市長がCCCと共同記者会見し、CCCが企画、提案する市立図書館を新設すると発表した。図書館に「蔦屋書店」も併設する。「家族で一日中楽しめる施設」を目指し、平成27年に完成予定の再開発ビルに入居するという。
趣向をこらして話題になっているのは公立図書館だけではない。
「まるで宇宙船のよう」と好評を博しているのが18年に開館した成蹊大(東京都武蔵野市)の「情報図書館」だ。
同図書館は成蹊学園創立100周年記念事業の一環としてオープンした。館内に入ると広大な吹き抜けスペースに、円形でガラス張りのカプセル「プラネット」が5部屋並ぶ。
プラネットは白色に統一された柱に支えられており、まるでキノコがぷかりと浮かぶ様子に初めて入館した利用者は「まるで未来都市に迷い込んだよう」と驚くという。
プラネットはグループミーティングスペースとして利用。1、2階の入り口手前近くには気軽に集まって会話ができるようイスやテーブルを配置した。
個人スペースも全266席を確保。1~5階の外側の壁に向かって書架を囲むように並び、空調をブースごとに調整できるほか、パソコンを利用することもできる。旧図書館の蔵書が多く収納できないという問題点は、地下に書庫を設置することでクリア。さらに、カウンターの職員が端末で操作すると、自動で書庫から本が運ばれてくるという「自動書庫システム」を採用しており、こちらも“近未来的”だ。
一方、自宅のパソコンで電子書籍を借りられる「電子図書館」が人気を呼んでいるのが、和歌山県有田川町の「町地域交流センターALEC」だ。
提供する電子書籍は町が業者から購入する。「シャーロック・ホームズ」シリーズや、日米野球史など文学、社会科学、一般教養計数千タイトルをそろえた。
パソコンや、情報端末「iPad」(アイパッド)の画面で本が無料で読むことができ、「貸し出し」を申し込むと、借りた期間だけ閲覧できる仕組み。24時間利用でき、図書館から離れた場所の住民でも気軽に利用できることが好評を博している。
文部科学省によると、全国の図書館数は年々増加している。利用登録者数は22年度で延べ約3400万人で、10年度から約3割増えた。しかし、中には利用低迷が続く図書館もある。
浜松市立図書館では、貸し出し冊数が21年度の約447万冊をピークに2年連続で減少。利用者に聞き取り調査するなど対応策を模索している。
大阪でも府立2図書館(中之島、中央)が苦戦を強いられている。23年度の来館者数は計約93万人で、データが公表されている8年度以降で最多だった11年度の約110万人から約17万人も減少した。
特に、大阪市の都心部にある中之島図書館の来館者数は年間約30万人と少なく、松井一郎知事は昨年6月、建物の歴史的価値を踏まえて転用などの可能性に言及。橋下徹大阪市長は「一等地に図書館は必要ない」とし、文化芸術をテーマにした集客施設とするアイデアを示したが、具体的な計画はまだ進んでいない。
図書館の在り方に新たな潮流が生まれつつあるが、こうした二極化を防ぐための知恵が求められている。