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「身体は最高の宇宙船」世界文化賞 彫刻部門・アントニー・ゴームリーさん
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193センチの長身に、白いTシャツとコットンパンツ。英国を代表する彫刻家、アントニー・ゴームリーさん(63)は自転車を駆って、英ロンドン北部にあるアトリエにさっそうと現れた。「身体は誰もが使える最高のスペースシップ(宇宙船)なんですよ。人は身体を使っていろいろな場所に行ける。貴重な人生を支えてくれる素晴らしいものなんです」
身体は、彫刻の最も古いモチーフだ。ゴームリーさんを世界的に有名にしたのは、その身体に、従来の美術の歴史にはなかった解釈を持ち込んだことだった。
「西洋彫刻は足を前後させたりして、ポーズで運動を表現してきました。また解剖学を駆使して、骨、筋肉、皮膚の関係を理解し、肉体の躍動性を表してきたのです。ですが、私はそうした方法に関心がありません。彫刻は元来、静かで穏やかなものです。私は静寂に力を与える術(すべ)を見つけ出したいのです」
自らの長躯(ちょうく)に石膏(せっこう)を塗って型をとり、金属で成形したものなど、ゴームリーさんの彫刻の大半は自分の身体を基にしている。しかしそこには表情も大きな身ぶりもなく、ゴームリーさんと彫刻を結びつけるものは、大柄というかすかな特徴以外、何もない。
「私たちは肉体というものに幻想を抱いています。『私の体』などとよく言いますが、私のものではないのです。例えば口の中には何百ものバクテリアがいて、体全体だと1兆ものバクテリアがいるでしょう。それらすべてが、身体と呼ばれる宇宙の住人です。身体とは複雑な相互作用を持った共生のシステムのことであり、われわれが住む場所なのです」
身体を物体ととらえ、外面を造形してきた伝統的な西洋彫刻に対し、身体を場所とみるゴームリーさんの彫刻は、おのずと場所の内側に関心が向けられる。人間とは何か、存在とは何か-と。生涯にわたる制作の根本テーマ「身体はわれわれが住む空間」という考えに至ったのは、アジアでの体験からだったという。
「父は薬剤師で、アジアで薬を開発していました。インドにもよく出かけて土産話をしてくれ、子供のころから東洋に興味を持っていました。大学に入って最初の休みにインドを訪ね、1970年代初めに再訪したときは、いろいろな寺院で瞑想(めいそう)をしました。肉体によって与えられた空間で時を過ごす、という意識に目覚めたのは、そのときです」
ゴームリーさんの人体彫刻は、石膏型から金属で成形する比較的シンプルな造形だけでなく、コンピューターも使い、人体を大小のキューブ(立方体)の積み重ねで表したり、線の集積で表したりとさまざまに展開している。また人体という空間から、作品を置く空間や環境との関わりについても探求を広げる。
しかし、その核にあるのは常に、人間の身体に目を向け、その内なる存在を考えることにほかならない。「人間とは何か。われわれは常に問い続けなければなりません。私はこの問題を、作品という物質的な形で問うているのです」(坂下芳樹)
Antony Gormley 1950年、英ロンドン・ハムステッド生まれ。自らの体から型を取った彫刻をはじめ、鑑賞者が自己の存在を感じられるインスタレーションなどで世界的に知られる彫刻家。彫刻は世界各地に恒久設置され、英リバプール近くの海岸線に100体の人体像を配した作品「アナザー・プレイス」(2005年)は最も名高いものの一つ。2012年から13年にかけ、神奈川県立近代美術館葉山館で2体の人体像を屋外展示する「TWO TIMES-ふたつの時間」を行った。ターナー賞(1994年)など受賞多数。