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書評
ビッグデータ時代到来 バラ色?の統計学 求められる収集・分析力
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1冊の本をきっかけに「統計学」がブームになっている。難解な学問のようにも感じられるが、21世紀に生きる人間は身につけておくべき知識らしい。今年は国際統計協会などが指定した国際統計年で、日本では18日が統計の日。いま急速に広がるブームの背景を探った。(伊藤洋一)
人気アイドルグループ「AKB48」の大島優子さんがほほえむ「住宅・土地統計調査」告知チラシとともに、統計に関する書籍がズラリと並ぶのは東京都千代田区立日比谷図書文化館の一角。11月上旬までの限定コーナーだ。
「おもしろいのに貸し出しが少ない分野に興味をもってもらいたい」と、高橋和敬ゾーンマネジャーが昨秋に企画した。昭和5年の統計資料を“蔵出し”として展示するほか、ふだんは点在している統計本を集約したところ、ビジネスマンを中心に貸し出しが急増したという。
「1年前では考えられなかった現象。連動して『統計調べ方講座』を企画したところ、3回とも定員に達した」と、最近のブームを実感する。
火をつけたのは今年1月に出版された統計家、西内啓(ひろむ)さん(32)の『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)だ。
「データを集めて分析することで最速・最善の答えを導きだせる。それは権力者の意見も吹き飛ばせる」という著者と編集者の話し合いから生まれた極論、かつ挑発的なタイトルも奏功し、約30万部のベストセラーとなった。3万部ならヒットといわれるビジネス書では異例の売れ行きだ。
西内さんは「データを分析すればもうけられることを(利用履歴から商品を勧める)通信販売サイトのアマゾンが証明したが、多くの企業は膨大なデータの処理方法を持ち合わせていなかった。データをどう取得し、どう分析すれば世の中がよくなるか-という研究者の立場で書いたので、ここまで読まれるとは思いませんでした」と驚く。
氏名、生年月日や購入履歴のほか、スマートフォン(高機能携帯電話)での「つぶやき」など、蓄積するデータを効率よく生かしたい企業やビジネスマンには、絶好の教科書になったようだ。以後、多数の統計関連本が出版されている。
統計を学ぼうとの動きはここ数年、大きくなっている。学習指導要領の改訂で、中学では24年度から「資料の活用」が、高校では今年度から「データの分析」がそれぞれ数学の授業に組みこまれた。
また、23年には日本統計学会が認定する「統計検定」も新設されている。グラフや標本調査の読み取り方法をたずねる4級(中学レベル)から、実社会でのデータ解析遂行力を試す1級(理系大卒から専門家レベル)など6段階。過去2回の検定では、小学6年生も4級に合格している。
来月17日実施の第3回検定(今月16日締め切り)には、昨年(2692人)を超える申し込みがあるという。運営する統計検定センターの担当者は「TOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)の点数が入社・昇任試験で採用されるように、職種によっては統計検定が求められようになるのでは」と、有用性を語る。
「今後10年で最もセクシーな職業は統計家だ」
インターネット検索大手「グーグル」のチーフエコノミストである経済学者、ハル・ヴァリアン氏(66)が2009年に語ったこのフレーズがいま、統計を扱う人たちの間で注目を集めている。データ解析者の優劣が企業の行く末を左右し、数万人規模の人材が必要になることを見据えたうえでの発言。
実際、多くの先進国では大学に統計学部が独立して存在する。一方、日本の大学では経済学部などに講義がある程度。だが、西内さんは専門家を養成する必要は認めながらも、より多くの人が統計を活用することの重要性を説く。
「統計学を産業に用いて最も成功しているのは日本。工場でどれだけの量を生産し、うち不良品は何%か、そして効率よくカイゼン(改善)するのは日本のお家芸だ。経験と勘が優先される社会に、統計の考え方を広く取り入れれば、住みやすい世界になるはずです」