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介護疲れの無理心中をなくしたい…「認知症患者携行ノート」開発

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

介護疲れの無理心中をなくしたい…「認知症患者携行ノート」開発

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「よりそいノート」の導入に熱心な大木教久医師。「みんなで見守る必要がある」と、医療と介護の連携の重要性を強調する=神奈川県茅ケ崎市  介護疲れの無理心中をなくしたい。そんな思いから、認知症患者の情報を医療と介護の現場で共有するための患者携行ノートが各地で開発されている。家族や医師、介護サービス担当者らがそれぞれの持つ情報を1冊のノートに記入する仕組み。患者の日常生活に医師が目配りしたうえで治療方針を立てるなど適切な医療や介護につながると期待される。(寺田理恵)

孤立させない

 マスクを着けた小学生と親らで混み合う待合室。どちらが患者か見分けにくい中高年の親子や高齢の夫婦は認知症患者と家族のようだ。神奈川県茅ケ崎市の大木医院。運営する医療法人「寿会」理事長の大木教久医師は「認知症患者には自宅での生活が診察室でそのまま出る人と、よそ行きの姿の人がいる」と指摘する。

 診察室ではしっかりしていても自宅では被害妄想や暴言があるなどだ。本人の前で話しづらい家族のため、カウンセリングが必要なケースもあるという。

 そんな患者の日常を知る手段として注目されているのが神奈川県の「よりそいノート」。受診記録のほか、患者や家族が経歴、困りごとなどを、ケアマネジャーらが介護サービス利用時の様子を記入する。

 患者が医療機関やデイサービスなどへ携行。読んだ医師は一人一人の症状に応じた治療ができる可能性がある。薬の変更に伴う症状の変化が分かったり、介護者が脱水症状を疑った場合は血液検査で確認したりといった連携もできる。

 大木医師は「生活面と密着した疾患。患者と家族を孤立させないため、みんなで見守る必要がある。無理心中の加害者や被害者を出さないように」と、連携の重要性を強調する。

 ノートは県内の医療や介護、家族団体の関係者で構成する県認知症対策推進協議会が作成。県によると、背景には医療と介護の情報共有が難しい実情がある。医師と話し合う機会があまりなく、介護関係者は医療機関を「ハードルが高い」と感じがちという。4月から2万8千部を配布。「患者に応じた服薬指導ができた」と薬剤師が評価するなど好評で、追加の要望を受け年内に4万部を増刷する。

家族と考える

 こうしたノートは他の地域でも開発されている。広島県は紙のノートと、インターネット上の「ひろしま医療情報ネットワーク」を連動させた地域連携の仕組みの整備を急ぐ。

 ネットワークは県と県医師会が運営。病院とかかりつけ医、調剤薬局が電子カルテと服薬情報を共有しており、介護機関の加入に向けて準備を進める。一方、ノートは家族が気づいたことを関係機関で共有するために使う。県内4市で昨年度からモデル事業を実施しており、今年度内をめどに県全域に広げる。

 新潟県三条市と市医師会は、早期発見の願いも込めた「認知症予防のためのいきいき手帳」を作成し、6月から4千部を配布した。市担当者は「医療機関の検査で認知症の種類や進行度合いが分かれば行動が予測でき、適切な対処で家族の負担を軽減できる。家族と一緒に考えることで精神的な負担の軽減にもつながる」と話している。

個人情報共有 普及に課題も

 認知症患者が携行するノートは医療と介護の現場での情報共有に期待が高い一方、普及に課題もある。患者の個人情報を取り扱うため、患者や家族の同意が必要となる。このため、医療機関などを通じて配布された部数の全てが使われているわけではない。

 また、ノートへの記入は診療報酬対象外のため、医師の理解と協力も欠かせない。

 広島県は昨年度のモデル事業で300件の利用実績があるが、神奈川県は活用状況の実態調査に乗り出すため、9月補正予算に50万円を計上したばかり。効果の検証はこれからだ。

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