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「観光から関係へ」アートがつなぐ、おもてなしの島
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醤油(しょうゆ)の香りが鼻孔をくすぐる。瀬戸内海に浮かぶ人口約3万人の小豆島(香川県)に渡り、醤油蔵や佃煮(つくだに)工場が集まる地域「醤(ひしお)の郷(さと)」を訪れた。ここでは木桶(きおけ)を使った伝統的製法で、今も醤油が作られている。
黒い焼杉板の壁を見ながらしばらく歩くと、オリーブ畑に出た。「あ!」と観光中のカップルらが駆け寄るのは、工業デザイナー、清水久和さん(49)の彫刻「オリーブのリーゼント」。島の名産、オリーブがなぜかリーゼントでキメている。設置直後の今年3月に初めて見たときは唐突感、違和感を楽しむアートなのだろうと理解した。でも7カ月ぶりに再会すると、なつかしいような、愛着さえ感じることに自分でも驚く。
オリーブ畑の所有者、石井岩男さん(62)も同じらしい。「最初はペンギンかなと思った」と笑う。「『これを見たかったんやー』って言うてね、全国からたくさんの人が来てくれて、笑顔で帰りよりますわ」。すっかり島の名所だ。
オリーブの顔には小さな穴があいていて、石井さんは季節ごとに夏ミカンなど果物を入れている。「お接待です」。四国はお遍路で有名だが、小豆島にも八十八カ所霊場があり、島遍路の巡礼者をもてなす文化があるという。「今でいうお・も・て・な・しですわ」
瀬戸内海の12の島と高松港(香川県)、宇野港(岡山県)周辺を舞台に、今春・夏・秋と3季にわたり開かれてきた「瀬戸内国際芸術祭」は、11月4日で閉幕する。アートを媒介に、島固有の文化資源や自然をアピールする地域活性プロジェクトだが、芸術祭は3年に1度。より継続的に島をもり立てていこうと独自テーマ「観光から関係へ」を掲げたのが、小豆島の南東部、醤の郷と坂手(さかて)港エリアだ。現代美術家で京都造形芸大教授の椿昇さん(60)がディレクターを務め、主に関西の若手建築家、デザイナー、アーティストが島に長期滞在。住民と交流を深めながら計画立案、作品制作などを進めてきた。
「名所を点で巡るような一度限りの『観光』ではなく、人と人が出会うことで生まれる『関係』をつくりたい。この島に何度も来たい、と思う人が増えるように」。小豆島町の臨時職員として、この地域プロジェクトに関わる井上彩さん(31)は大阪出身。
同じく大阪を拠点にものづくりや地域性、生活の知恵などを大切にするクリエイター集団、graf(グラフ)は醤の郷で「小豆島カタチラボ」を展開している。制作物の一例を挙げると、88種の桜の花びらのサンプルと88色の折り紙。graf広報の小坂逸雄さんが説明する。
「20年ほど前、小豆島を桜の名所にしようと八十八霊場に1種ずつ、異なる桜を植え始めた高校教師がいたそうです。地元の人から話を聞いたスタッフが調査したところ、49種現存することがわかった。残りの確認できない品種も突き止め、カタチにしてみました」。埋もれかけていた物語が、こうして可視化された。
さらに地域の交流施設「馬木キャンプ」を見に行くと、キッチンにいる地元の女性たちが「どうぞお立ち寄りください」と、甘辛く煮た茄子(なす)や柿などで接待してくれた。開放的な空間は建築事務所、ドットアーキテクツ(大阪市)の向井達也さん(23)らが自力で施工し、たった300万円で作り上げたものだ。
向井さんと井上さんは、芸術祭終了後も島に残ることを決めている。「島ではたくさんのお父さん、お母さんに囲まれている感覚。だからやりたいことを思い切ってできる」と井上さん。「これからが勝負です」(黒沢綾子)
神戸と小豆島を結ぶジャンボフェリーの運航が、16年ぶりに復活した坂手港。海からの旅人を出迎えるのは現代美術家、ヤノベケンジさんの立体作品「スター・アンガー」だ。太陽のごとく光り輝く球体の上に、水の神様である竜が鎮座し、叫びを上げる。視線を奧に移すと、釈迦を守護する「八大竜王」が住みつくという霊峰、洞雲山がそそり立つのが見える。
港近くの古い建物を利用し、案内所とお土産ショップ、カフェ、アーティストの滞在制作施設に改修したのは、大阪のデザイン会社、UMA代表の原田祐馬さん(34)ら。近年、坂手港周辺はさびれていたが、瀬戸内国際芸術祭と神戸航路の復活で活気を取り戻しつつある。「明かりがついているのがうれしいと地元の人に言ってもらい、こっちもうれしくなりました」
【ガイド】「瀬戸内国際芸術祭2013」は11月4日まで。作品鑑賞時間は午前9時半~午後5時。期間中無休。芸術祭の問い合わせは総合インフォメーションセンター(電)087・813・2244。小豆島への交通アクセスや宿泊情報などは小豆島観光協会ウェブサイト(www.shodoshima.or.jp)が参考になる。