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女性向け「官能小説」人気、レーベル相次ぎ誕生 社会進出とリンク

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女性向け「官能小説」人気、レーベル相次ぎ誕生 社会進出とリンク

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 女性の目線から性愛シーンを大胆に描いた官能小説レーベルが相次いで誕生している。オフィスラブあり乙女チックな王朝物語ありと作風は多彩だが、濃密な性描写の中で、女性心理を浮かびあがらせて読者の共感を誘う。巷にあふれる男性目線の官能小説への違和感が、自由でのびのびとした表現に結実している。(海老沢類)

マニアではなく

 〈女性による、女性のためのエロティックな恋愛小説〉。そんな刺激的なキャッチコピーが目を引くのは、メディアファクトリーが9月に創刊したフルール文庫だ。東京都内の書店で開いた創刊イベントのチケットは発売直後に完売。作品を無料で試し読みできる公式サイトへのアクセス数は月間100万件を超えた。

 「男性と同じように日常的にストレスと闘っている女性にも、エロティックで良質な物語が必要。マニアではない、普通の女性たちが活力を得られるサプリメントになれれば」と、波多野公美(くみ)編集長は創刊の狙いを語る。

 想定する読者層は20~30代。就職氷河期に社会に出た読者を抵抗なく物語に引き込む現実的な舞台設定や、女性の繊細な心理描写、男性への鋭い観察眼を備えた物語にするため、20~30代の女性編集者が作家と打ち合わせを重ねる。

 IT企業を舞台に、冷徹な上司とひそかにSMに興じる女性システムエンジニアが主人公の『欲ばりな首すじ』(かのこ著)にもコンセプトは浸透している。仕事熱心な等身大の女性が内に秘める強さと弱さをすくい上げ、同性の共感を誘う。上司の容姿やしぐさも細かく描写し、理想の男性像をさりげなく打ち出す。

 波多野編集長は「男性作家による官能小説に違和感を抱く女性は多い。ひたすら受け身で都合がいい存在ではなく、しっかり自立している…そんな大人の女性たちの濃密な恋愛物語を提供したい」と話す。

夢が満載の設定

 “乙女系”と呼ばれるファンタジー色の濃い作風を押し出すのがシフォン文庫(集英社)だ。西洋やアラブなどの王朝を模した舞台設定で、貴族や王族同士の恋愛もつづる。「設定に現実感がない方が、ピュアな恋愛に浸れて、嫌なことも忘れられる。格好いい男性、華やかな舞台、おいしい料理…。男性が書く官能小説とは違い、女性の夢が満載です」と編集部の堀井さや夏さん。読者層は20~30代を中心に50代まで幅広い。作品もすでに30点を超え、「どれも安定した売れ行き」という。

 今年2月にはイースト・プレスがソーニャ文庫を発売。11月にはリブレ出版の乙蜜ミルキィ文庫も発売される予定で、官能レーベルの創刊は相次いでいる。芸術評論誌『ユリイカ』(青土社)が7月号で〈女子とエロ・小説篇〉と題した特集を組むなど、ブームを論じる動きも目立つ。

電子書店後押し

 女性向け官能小説の需要を知らしめたのは、英の主婦、ELジェイムズが書いた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2012年)の成功だ。女子大生と大企業の若きCEOの性愛を描く3部作は英語圏で8800万部を超えるベストセラーとなり、早川書房が刊行した邦訳版も累計15万部に達した。電子書店や電子版の普及で、人目を気にせずに作品を購入できるようになったことも人気に拍車をかけている。

 文芸評論家の伊藤氏貴さんは一連の現象を、「女性の社会進出とリンクした動き」とみる。「官能小説を読むことは自分が“性の主体になる”ことを意味する。女性の性に関する情報は飛躍的に増え、雑誌『アンアン』のセックス特集も今や恒例行事。女性が主導権を握る“性のかたち”が今後もっと描かれていくでしょう」

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