■包容的“やさしさ”こそが人類の危機救う
面倒な理屈をかみ砕いて読みやすく書く。人の顔が見え、声が響く具体例を多彩に。この本でもそのモットーを貫き、世界史的な眺望で日本と日本人を位置づけ直してみました。
すると、眼からウロコだ、外交やビジネスで日中・日韓がこじれる現実には、そんな風土的・文化的な深い由来があったのか、と読者の声が返ってきました。これはジャストミート。
日本を「アジアの一員」と軽く決めて“心根”の型などを掘り下げなかったのが大間違い。正しくは「凸型文化圏」と「凹型文化圏」に世界を二大別すべきで、中・韓はアラブや欧米とともに前者に属し、日本は東南アジアその他とともに後者を形成する代表的存在なのです。
凸型圏は6000~7000年に及ぶ牧畜の本場、一神教的な乾燥地帯。凹型圏は湿潤で放牧の伝統欠如、「万物に神宿る」多神の世界。前者は攻撃的かつ差別的、後者はおだやかで和合的、包容的。
単純なグローバル化論には比較文化の視点がありません。思いきりマクロに視野を広げた今度の新著は、文化人類学の視点をベースに、考古学・歴史学・自然地理学から外交史や政治史などにわたる知識を集成し、広く東西の古典から現代の軽いエピソードまでふんだんに駆使して、比較文化の一大パノラマの中に日本人像を描き出しました。成功だと思っていますが、どうでしょうか。
読んだ人から相撲の立ち合いも聖徳太子の「和」の精神につながるとはスポーツの新観点、夏目漱石の「猫」を借りた東京裁判批判はユニークだ、などと評される収穫も得ました。戦時日本の本質を検討し“リーダーシップなき迷走”はダメとした私見は将来への戒めのつもり。
グローバル化に前のめりして自己を見失ってはならない。地球と人類の危機を救うためにも凹型日本人の“やさしさ”の出番が来ている、“縮み”志向の日本人を卒業して真の「開国」を。提言を味読してください。(2100円 大修館書店)
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【プロフィル】芳賀綏
はが・やすし 1928年生まれ。北九州市出身。東京大学文学部国文科卒。東洋大学・法政大学助教授、東京工業大学教授(その間旧西独ルール大客員教授、NHK部外解説委員など)を経て、現在は東工大名誉教授・産経新聞「正論」欄メンバー。日本文化・日本語と現代政治を包括的に論究。NHK「視点論点」「ラジオ深夜便」に出演。「日本人らしさの構造」「売りことば買いことば」「言論と日本人」ほか著書多数。